表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/19

5.屈辱の撤退

雷槍(サンダージャベリン)!」


「があああああああ!?」


 イザベラの雷槍(サンダージャベリン)は、オーガキングには当たらなかった。

 命中したのは――アルベルト=ルガー。エリクの代わりに加入した聖騎士のタンクだった。


 雷槍(サンダージャベリン)が背中に直撃したアルベルトは、オーガキングの足元へ吹き飛ばされた。

 オーガキングは、3メートルはある巨大な鉄の棍棒を振りかぶり、アルベルトに狙いを定めた。


「アルベルト! 上だ!」


 レオポルドの声にアルベルトが顔を上げる。

 その頭上には、今まさに振り下ろそうと構えるオーガキングがいた。

 その瞬間、アルベルトは横へ転がるように一回転した。


 直後、アルベルトがさっきまでいた場所にはクレーターができていた。


 だが、体勢を崩したまま、その後のオーガの左足の蹴り上げまでは防げなかった。

 アルベルトは、オーガの足元に盾を落としていたため、咄嗟に腕を交差させ、その攻撃を受け止める。


 鎧と骨が(きし)むような、嫌な音が響いた。

 アルベルトは数メートル吹き飛ばされた。

 すぐに立ち上がろうとしたものの、顔を歪ませながら膝をつくのが精いっぱいだった。


「ヒール!」


 後方からセオドアが回復魔法をかけるが、すぐには立ち直れそうにない。


 オーガキングが咆哮した。

 空気が震え、足が震えた。

 ――勝てない。


「て、撤退だ!」


 声は震えていた。

 パーティの返事を聞く間もなく、オーガキングに背を向け全力で逃げる。


 ――殺される。


「盾が――」


 アルベルトが叫ぶ。


「そんなの、放っておきなさい! 早く逃げるわよ!」


 レオポルドの後ろでイザベラが撤退を催促した。


 敗北。

 レオポルドたちは、無様に安全な場所まで逃げるしかなかった。


「どういうことだ! なぜ俺に雷槍(サンダージャベリン)を当てた!」


 回復魔法を受けながらアルベルトが怒鳴った。


「そのことはさっき謝ったでしょ……それに、あの距離であのタイミングなら、間違いなく避けると思っていたのに。まさかあんなことになるなんて……」


「避けるだと!? あの状態でどうやって避けるんだ! 後ろに眼がついてるわけじゃないんだぞ!」


 それっきり、イザベラは黙ってしまった。


「いや。さっきのはアルベルト、お前が悪い。タンクなら全体の状況をきちんと把握しておくべきだろう。実際、俺たちの前のタンクは、イザベラが杖を構えて集中状態に入ったら、射線からは離れていたぞ」


 レオポルドの言葉にアルベルトが反論する。


「それはお前たちとそいつの連携がうまく行っていたからだ。まだパーティに入って初日の俺に、そんな高度な連携を求めるなよ!」


 ダメだこいつは。

 自分が無能であることを認めようとしない。

 ここでいくら正論を言ったところで意味はないだろう。


 重い沈黙がその場を支配していた。


「……エリクがいた頃はこんなこと起きなかったのに」


 イザベラの小さな呟きが、やけに大きく聞こえた。


 ◇


 ――約束の時を告げる鐘が鳴った。

 酒場「月明りの女神亭」までやってくると、店の前にいたリゼットが大きく手を振った。

 夕陽に反射する黄金色(おうごんいろ)の髪が、腕の動きに合わせてゆらゆらと揺れた。

 二つ結びのその髪が、彼女の清楚な雰囲気をいっそう引き立てている。


「先生! こんばんは!」


「ごめん、待たせちゃった?」


「全然です! 今日は私が奢りますからね!」


 店に入ると、客のほとんどは冒険者だった。

 「月明りの女神亭」は、手ごろな値段でおいしい料理が食べられるということで、新人冒険者や低ランク帯の冒険者に人気の食堂を兼ねた酒場だ。


「エールとパンとスープで」


「先生、それだけじゃ足りないですよね? えっと、それらを二人分と、豚肉のロースト、チーズ、ナッツも追加で」


 気を遣ったつもりが、逆に気を遣われてしまった。


「私たちの再会を祝って……乾杯!」


 木のコップで乾杯し、エールをあおった。

 リゼットとしばらく他愛もない世間話をした。

 彼女の友達の話や、最近買った装飾品の話。

 楽しそうに話す彼女につられて俺も笑った。


 俺が灼熱の誓いを抜けたことを、彼女は聞こうとしなかった。


 そのことがかえって俺を安心させた。

 酒のせいなのか、それともリゼットの優しさのおかげなのかは分からない。


 だが、話したいと思った。

 リゼットに聞いてほしいと思った。


「実はさ、『灼熱の誓い』は俺が辞めたんじゃなくて、辞めさせられたんだよね」


 誰にも打ち明けてこなかった真実を、リゼットに初めて話した。


 今までのこと、(ないがし)ろにされてきたこと、装備を奪われたこと……。

 【鑑定】で分かったことも話した。

 悲しかったことも、辛かったことも――すべてを話した。


 不思議と落ち着いていた。むしろ安心感さえあった。


 俺がすべてを話し終えた後、リゼットの瞳から涙がこぼれた。


「手を出してください」


 言われるまま、俺はリゼットの前に手を差し出した。

 リゼットは俺の手を優しく包み込んだ。


「これからは私がついています。だから……先生は、大丈夫です」


 思わず頼りたくなってしまう、包み込むような優しい声だった。


 ……だが、甘えてはいけない。

 先輩らしく振る舞わなくては――


「ありがとう。でも、俺はもう大丈夫だからさ」


 先輩冒険者として後輩に励まされるのは恥ずかしかった。


 リゼットの手が離れた。

 にこりと微笑むと、彼女は「わかりました」と小さく呟いた。


「本当はさ、『灼熱の誓い』を辞めさせられた時、田舎の鍛冶屋を継ぐのも悪くないかなって――」


「ダメです! 先生は絶対冒険者を続けるべきです!」


 リゼットが言葉と同じ勢いで立ち上がる。


 座っていた丸椅子が「カコン」と、間抜けな音を立てた。


 一瞬、しんと静まり返る酒場。

 だが、すぐに元の喧騒を取り戻した。


 リゼットは慌てて椅子を元に戻してそこに座ると、恥ずかしそうに体を丸めた。


 顔を俯かせ、表情は窺い知れない。

 だが、きっと茹でだこのように真っ赤になっていることだろう。


「ありがとう。そんなふうに言ってくれてすごく嬉しいよ」


 駆け出しの頃、初めて南迷宮に潜った時のことを思い出していた。

 期待に胸を膨らませ、不安に押しつぶされそうになっていたあの頃を。

 また一から頑張ろう。そう思った。


「あの、もしよければその……」


 リゼットは視線を迷わせながら、指遊びをしていた。

 しばらくして、リゼットは大きく息を吸ってゆっくりと息を吐いた。

 彼女は、まるで一世一代の告白でもするみたいにピンと背筋を伸ばす。


「私と――」


 リゼットは一度言葉を飲み込んだ。


「……パーティ組みませんか?」

お読みいただきありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ