22.ノアの加入祝い
「エリクさん、おかえりなさい! みなさん、お怪我はありませんか?」
「はい、全員無事です。怪我も大丈夫です」
冒険者ギルドで受付嬢のクレアに迷宮から帰還したことを報告した。
「おめでとうございます。はい、魔結晶も預からせていただきますね」
今回の探索で手に入れた魔結晶をトレイに置く。
俺たちは冒険者タグを魔導端末にかざし、討伐数を確認してもらった。
「あー、そういえば、最下層のボスがいつもの地獄蠍じゃなかったんですよ」
俺は赤蠍のことをクレアに説明した。
「口から炎を吐く蠍ですか……確かに、討伐した魔物に『炎獄蠍』ってありますね」
「多分そいつです。見たことない個体だったので……クレアさんでも知らないですか?」
「うーん、ちょっと聞いたことありませんね。すみませんが、時間のある時でいいので、その魔物の特徴について詳しくお話ししていただくことってできますか? その際に、戦闘の詳細についてもお話ししていただけると助かります」
「分かりました」
めんどくさいが、仕方ない。
冒険者ギルドは依頼の管理だけじゃない。魔物の情報も集めている。
俺もよく資料庫を利用している。
戦闘の詳細を聞く目的は、おそらくランク昇格に値する魔物かどうか確認するためだろう。
「はい、お疲れさまでした。では魔結晶を査定しますので少々お待ちください」
俺たちはギルド内のロビーへと移動し、テーブル席に座る。
報酬の山分けについて話しておくべきだろう。
リゼットとは前回話しておいたので問題ない。問題はノアだ。
本来なら迷宮に潜る前に話しておくのが筋だが、今回はイレギュラーがあったからな。
「えっと、今回手に入ったのは魔結晶と赤蠍の甲殻だったよな?」
リゼットとノアが頷く。
「まず、赤蠍の甲殻は俺が貰ってもいいか? 換金してもいいんだが、これを盾の素材にできるか鍛冶屋に聞いてみたい」
赤蠍戦で盾は壊れてしまった。
新しく買うのもいいが、せっかく手に入れた素材だ。使わない手はない。
「もちろん構いません。ノアもいいよね?」
「問題ない。そもそも、ボクはほとんど何もできなかったし……」
あのときのことを思い出したのか、ノアは眉をひそめ唇を小さく噛んだ。
「じゃあ次は魔結晶を換金した後のお金についてだ。三等分にしたいんだが……ノア、どう思う?」
「え……? そんなに貰えるの?」
返ってきたのは意外な反応だった。
「だよね! 私も先生はもっと貰っていいって言ったんだけど……」
「いや、赤蠍の甲殻を俺が貰うんだ。三等分でも十分すぎるくらいだよ」
「赤蠍はほとんど先生が倒したようなものじゃないですか! それは当然の権利です!」
実は、前回の報酬分配でも少し揉めた。
リゼットが俺の取り分が少なすぎると言うのだ。
灼熱の誓いでは、リーダーのレオポルドが報酬の配分を決めていた。
貢献度合いの弱かった俺は、当然分け前も少なかった。
その話を初めてリゼットにしたときは、俺が引くくらいレオポルドに怒っていた。
俺がなだめようとしたら、今度は俺まで怒られてしまった。
リゼットによると、俺は「お人よしすぎる」らしい。
ふと我に返ると、リゼットとノアが心配そうに俺を見ていた。
「先生、大丈夫ですか?」
「ボクは、今回はポーションもらったからそれだけでも十分だぞ?」
「だ、大丈夫。ごめんごめん。いや、ちゃんと山分けしよう。いいね?」
しばらく説得し続けた結果、リゼットとノアは渋々ながら納得してくれた。
「エリクさーん。査定が終わりましたー」
俺たちは換金した金を山分けし、ギルドを後にした。
既に日は沈んでいたが、大通りは魔結晶式の街灯のおかげで明るかった。
「先生、この後ご飯食べに行きませんか? もちろんノアも一緒に。三人でお祝いパーティしちゃいましょうよ!」
「……うん、ボクも賛成」
「そうだな。よし行こう」
俺たちは「月明りの女神亭」へ向かった。
「だからぁ! 先生はもっと自信を持ってください!」
どうしてこうなった。
「ノアちゃんもそう思うよね!?」
「え? あ、う、うん……」
ノアは苦笑いを浮かべていた。
この前一緒に飲んだ時は、ここまで酔っていなかったはずだ。
もしかしたら、あの時は猫を被っていたのかもしれない。
「ほら、ノアちゃんももっと飲みなって」
「いや、ボク15歳だよ……これだって果実水だし……」
「お姉ちゃんの言うことが聞けないの!?」
「いや、1歳しか変わらないでしょ……」
なんだろう。
もしかしたらリゼットは、ストレスを抱え込むタイプなのかもしれない。
今度からもう少し優しくしてあげよう……。
「先生はおいくつなんでしたっけ?」
「俺は18だよ」
「えええええ!? 見えない! 20歳くらいだと思ってましたぁ!」
「ははは……よく言われるかも」
ちょっとショックだった。
「あ、いえ。大人っぽく見えるって意味です! 悪い意味じゃないですから!」
「うん、分かってるよ。ありがとう」
「先生、苦労してきたんですね……う、ううう……これからは私たちがついていますからね……」
リゼットはぼろぼろと泣き始めた。
「私たちって……勝手にノアを巻き込んじゃダメだろ。なあ、ノア?」
ノアは正式なパーティメンバーじゃない。
だからノアは迷惑していると思ったのだが――
「べ、べつに、ボクは……」
もしかして、俺とリゼットのパーティに入りたかったりするのだろうか。
「ノア、もしよかったら正式に俺たちのパーティに入る?」
「っ!? いいのか!?」
ノアは声を張り上げながら立ち上がった。
周囲の注目を集めていることに気付いたノアは、はっと口を閉じた。
転がった椅子を元に戻すと、背を丸めながら座り直した。
「もちろん。ノアがいてくれると心強いよ」
「う、うん……」
「う、うううぅぅ……」
リゼットは俺たちのやり取りを見て号泣していた。
「そうだ、明日先生暇ですよね? 私とノアちゃんで一緒にお出かけしましょうよ!」
暇と言われて少し傷ついた。確かに暇だけども……!
鍛冶屋に行きたかったのだが、また今度でもいいか。
「俺はいいけど、ノアは? 大丈――」
「いく」
食い気味に答えてくれた。
「あのさ……ひとつお願いがあるんだけどいい?」
ノアが指をもじもじと遊ばせながら俺に尋ねてきた。
「いいよ、何でも言って。ノアは今日の主役だからな」
「主役?」
ノアがきょとんと首を傾げた。
「今日はノアの迷宮初攻略記念パーティと同時に、ノアのパーティ加入歓迎会でもあるからさ」
俺の言葉を聞くと、ノアは体を揺らしながら、にまにまと頬を緩めた。
「えっと……じゃあ、エリクのこと、『師匠』って呼んでいいか?」
「し、師匠?」
一体どういうことだ? 俺に師匠要素なんてないと思うのだが……。
「何で師匠なんだ?」
「それは……」
言葉に詰まるノア。
「それは?」
「……秘密」
一瞬こちらを見たノアは、ぷいと顔を逸らした。
お酒なんて飲んでいないはずなのに、顔が赤かった気がした。
「なんだそれ。なあリゼット、どう思う?」
寝ていた。
気持ちよさそうにぐっすりと。
お祝いパーティの最中に熟睡するリゼットと、
腕を組み何かを隠しているノア。
このパーティ、本当に大丈夫なのだろうか。




