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追放されたタンク、実は最強でした ~命を削って守っていたが見捨てられました~  作者: 海老朝日


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2.先生と元教え子

 高級宿屋を出て、魔法の小袋(マジックバッグ)の中身を確かめる。

 魔法の小袋(マジックバッグ)は所有者登録制だ。取り上げることはできない。

 だが、俺は命じられるまま中身のほとんどを差し出させられた。


 残された銀貨は数枚だけ。

 鋼の胸当てや鋼の籠手も取り上げられ、使っていた剣も没収された。


 装備は革鎧と革の籠手、革のブーツ。

 武器は以前使っていた予備の剣と、ひびの入ったヒーターシールドだけだった。


 言いたいことはまだまだたくさんあったが、今はそれどころではなかった。一刻も早くベッドで眠りたい。


「先生!」


 呼び止められてその声の主を見ると、その正体はリゼットだった。

 ギルドで別れたつもりだったのだが……


 リゼットは、耳の下で二つ結びにした金髪を揺らしながら駆け寄ってきた。

 何か言いそびれたことでもあったのだろうか。


診療記録(メディカルレコード)


 リゼットが深刻な顔をしながら両手を俺に向けた。

 淡い光が手のひらから放たれると、なんだか少しだけ痛みが和らいだ気がした。


「先生! 今すぐベッドで安静に寝ないとダメです! じゃないと、命にかかわりますよ!」


 命にかかわるなんてそんな大げさな……そう思ったが、リゼットは冗談を言うような子ではない。

 何か確信のようなものがあるのだろう。


 ぐらりと視界が揺れ、膝の力が抜けた。

 気付けば、地面に膝をついていた。


「先生の宿屋までお送りします」


 リゼットが手を差し伸べる。

 だが、さすがにそこまで世話になるわけにはいかなかった。


「大丈夫だから……」


 膝に手をつきゆっくりと立ち上がる。そこでようやく足が震えていることに気付いた。

 胸の痛みはまだ消えない。痛みのピークは過ぎたが、それでも無視できない辛さだ。


 リゼットが俺の手を取り、無理やり自分の肩にその手を乗せた。

 

「宿屋、どこですか?」


 見た目に反して意外と頑固なところがあるらしい。

 ここで言い争っても仕方がないよな。俺はその好意に甘えることにした。


 ギルドを通り過ぎ、市場の方へと足を伸ばす。

 女の子に肩を借りて歩くのは、正直恥ずかしい。

 それでも、今はリゼットの優しさがありがたかった。


「私、Dランクになったんですよ!」


 リゼットは、屈託のない笑顔で俺に話しかける。

 確か以前はEランクだったはずだ。

 その成長が、自分のことのように嬉しい。


「そうか、頑張ったんだな」


「はい! 先生が色々教えてくれたおかげです!」


 先生。

 リゼットは俺のことを何故かそう呼ぶ。確かに一緒にパーティを組んだ時はアドバイスをしたことはあった。

 だが、先生だなんて……俺には荷が重い。


「その、ずっと気になってたんだけど、俺のことを先生っていうの止めないか?」


「何でですか!? 先生は先生ですよ!?」


「もっと他に呼び方があるだろ?」


 俺がそう言うと、リゼットは眉間に皺を寄せ必死に呼び方を考えている。


「じゃあ……お兄ちゃんとか?」


「どうしてそうなる」


 リゼットが悪戯っぽく笑いながら呟いた。

 お兄ちゃんだなんて、先生よりも恥ずかしいじゃないか。


「じゃあエリク様?」


「従者じゃないんだから……」


 俺が突っ込むと、リゼットはケラケラと無邪気に笑った。


「いいよ、もう。先生で」


「やった! これで公認ですね? せ・ん・せ・い?」


 こんなに笑う子だっただろうか。

 あの頃はもっと臆病で、俺の後ろに引っ付いているような、そんな印象だったのだが――

 リゼットもきっと成長しているのだろう。


 その笑顔が、今は少しだけ眩しかった。


 市場を抜け、酒場や飲食店が並ぶ道へと入っていく。

 今はまだ人通りは少ないが、夜ともなれば冒険者で賑わいを見せる。

 殴り合いなんて日常茶飯事で、治安もいいとは言えない。

 だけど、俺はこの場所が好きだった。


 ダンジョンは、この世界でもっとも死に近い場所だ。

 そこで金を稼ぐ俺たち冒険者は、明日死ぬかもしれない儚い存在だ。

 だからこそ、悔いのない一日を過ごさなきゃいけない。

 言いたいことを言って、やりたいことをやるべきなんだ。


 宿屋に着いた。


「ありがとう。ここで大丈夫だよ」


「ダメです! ちゃんと先生がベッドに入るまでです! 部屋の中で倒れたらどうするんですか!」


 リゼットは俺を指さし頬を膨らませた。

 この子が何故俺にここまでしてくれるのかは分からないが、きっと面倒見のいい子なのだろう。

 ヒーラーで、こういう子がいてくれるパーティはきっと雰囲気もよさそうだ。

 リゼットが仲間に世話を焼く姿が容易に想像出来て、少しおかしかった。


「何笑ってるんですか! 先生、自分の身体のこと分かってます!? さあ早く部屋に行きましょう!」


 リゼットが背中を押し宿屋へと入る。


「いらっしゃ――って、なんだ、エリクさんか」


 迎えてくれたのは宿屋の娘のリーナ。

 冒険者たちを元気な挨拶でダンジョンに送り出してくれる宿屋の看板娘だ。


「およ? 珍しい。エリクさんが女を連れ込もうとしてる……」


「あのなあ……この子は、えーっと、冒険者仲間のリゼット。ちょっと体調が悪いから付き添ってもらったんだ」


 リゼットは俺の後ろに隠れ、ちょこんと服の端っこを掴んだ。


「ごめん! 気付かなくて! あとで部屋行くから、必要なものがあったら言ってね?」


「大丈夫だよ。多分、寝れば治るからさ」


 寝れば治る。その言葉に嘘はなかった。

 ここまでひどい状態ではないが、その時も寝れば次の日には治っていたからだ。


 階段を上がり自分の部屋に入る。

 部屋に入ると急に眠気が襲ってきた。

 ブーツを脱いでベッドへ倒れ込む。


「あの、じゃあ私はこれで……」


 リーナと会ってからは、まるで借りてきた猫だ。きっと人見知りなのだろう。

 それとも、二人のときは無理していたのだろうか。俺が落ち込んでいるのを感じて、わざと明るく振る舞っていたのだろうか――


 そんなことを考えていると急に瞼が重くなってきた。


「おやすみなさい」


 背後からリゼットの声が聞こえた。


 意識が落ちていく前に、今日の出来事が脳裏をよぎる。

 なぜ、どうして……いくら考えても理由は分からなかった。

 唇を噛みしめると、目尻に熱いものが溜まっていく。


 ――全部夢だったらいいのに。

 そんなことを思いながら、俺の意識は暗闇の中へと沈んでいった。

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