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ルミとしての日々1
夫が仕事、息子が学校へ出かけた午前中。雪枝は緊張しながら、リビングの押し入れの奥に立てかけた全身鏡の前に立ち、鍵を差し出した。
鍵が鏡に触れると、鏡面が水のようにゆらめき、銀色の光を放った。一歩踏み込むと、そこはもう水平家のリビングではなかった。
爽やかな草の香りが漂い、明るい陽光が降り注ぐ場所に立っていた。
空には二つの月の輪郭がかすかに見える。眼前には、石畳の道が続く可愛らしい町並みが広がり、遠くに青く輝く湖が見えた。
そして何より驚いたのは、自分の体だ。鏡に映るのは、銀色の長い髪と透き通るような青い瞳を持つ生き生きとした14歳の少女の姿だった。
肌はつややかで、体は軽く、長年忘れていた若々しい感覚が蘇ってきた。
「よし、ここでは私の名前は……ルミにしよう」と彼女は呟いた。
昔、テレビで見た。
フィンランド語で「雪」は「Lumi」(ルミ)という。
その響きが美しく、心に残っていた。




