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第六話 校舎で始まる異世界生活 パート2

俺の転生先には四つの国が均衡を保ち続ける法がある、血は決して交わってはならぬ。

それを破った者の子は、“存在しない邪悪もの”として扱われる。

だが、それでも生まれてしまった命があった。

これは、そんな“生まれてはいけなかった”俺の物語。

俺たちは相談室らしき部屋で、校舎と学校の概要について説明を受けた。

この学校は年齢によって学年が決定されるのではなく、毎年学期末に実施される年末試験の結果によって学年が決まるとのことであった。


ちなみに学年は全部で八学年制。生徒の年齢に制限はなく、最年長者は二十五歳の生徒が在籍しているらしい。そして俺は、入学の際に基礎学力試験を受験し、最初の学年を決定するとのことだった。

試験内容は小学生が受けるような一般的な学力測定試験。この試験を80点以上で合格すると、一年生の上級クラスに配属されるらしい。


当然のように感じていたが、この世界は基本的に日本語とこの世界固有の言語を併用している。同じ言語体系を扱っているのは心強いが、過去に俺のような日本人がこの世界の文明を築いたのだろうか。


そして初級から上級クラスに移行する際、受講する教育レベルが大幅に変わるらしく、上級クラスは速やかに二年次へ進級できるよう、初級魔法による実戦訓練と魔術理論について、基礎を徹底的に習得させるらしい。


逆に初級クラスは学習することの基本理念から丁寧に指導するらしく、長期間在籍する者は二年次へ進級するために、さらに一年間を費やして学習するのだとか。


(ふむ、俺は一旦上級クラスを目標として、早期に飛び級を実現しよう。)


俺は知的能力に関しては自慢ではないが、一般人とは桁違いの差がある。

ある程度の概要説明を受けた後、学費面の話題に移行した。


「当校の一年次授業料が概ねこの程度で、成績によって奨学金や支援制度、その他諸々の制度が適用されております。」


そう言ってオーリッヒ先生は、授業料が記載された書類を机上のファイルから取り出して提示してくれた。


「「ひぃぃぃぃぃっっっっ!!!!」」その金額を確認して、夫妻は失神しそうな表情を浮かべた。


1000ゴルヌ。俺はあまり外界に出た経験がないため、通貨の概念は理解していたが、これがどの程度の金額なのか判断できなかった。

だがここでオーリッヒ先生の面前で、夫妻に金額の詳細を尋ねるのは控えた方が賢明だろう。

俺は少し困惑した表情を浮かべて尋ねた。


「僕の試験成績が優秀であれば、多少の学費免除は可能でしょうか?」


するとオーリッヒ先生は、


「安心なされ。一年次の授業料はルーニャ殿から拠出していただいておりますゆえ、そこまで心配される必要はございません。」


なんと、ルーニャはあのような立地でそれほど収益を上げていたのか。

い、いや、まずは感謝の気持ちだ。彼女はきっと俺に魔法の才能があると判断してくれたのだろう。ならばその期待に応えるしかない。


「ただし、この資金を利用するには、君が試験で70点以上を獲得しなければならない。」


「承知いたしました。」


任せてくれ。期待は決して裏切らない。

話が決定した俺は、早速別室で試験を受験することとなった50問題は計51問。1問目から10問目は一般常識、11問目から30問目は国語に相当する科目、31問目から50問目は算数程度の計算問題。51問目はこの学校で学習したい内容、将来の展望についての作文で、採点対象外とのことであった。

一般常識は俺がいた世界とは異なるため、この世界の常識が通用するか不安な部分がある。それと計算問題。授業料の話の際と同様に、通貨について全く知識がないままであった。

ここはほぼ推測に頼るしかない。


試験時間は30分程度だが、15分も要しなかった。作文もそれらしい内容を記述してみたが、どうだろうか。子供らしくない文章構成のため、奇異な印象を与えないだろうか。答案を提出し、結果を待機した。

結果は100点満点中96点。ほぼ満点であった。懸念していた一般常識は、この世界と寸分の相違もなく、失点した四点分の問題はやはり通貨に関する問題であった。


だが結果は上位10位に入る得点であったため、オーリッヒ先生以外の教職員も驚愕していた。


「それではリアン・ガルベルト様。当学園アル・アーカディア魔法学校への入学を正式に認定し、あなたを上級クラスへご招待いたします!」


夫妻二人は、普段あまり学識を感じさせない俺の立ち振る舞いに、合格可否自体に不安を抱いていた様子だったが、隣室で聞こえたのだろう。

二人が歓喜する声が響く。俺はルーニャが提供してくれた支援金を活用し、明日から学校に通学できることとなった。


「あ、あの。」


「ん?何かね?リアン君。」


「実は自宅からこちらまで三時間以上を要してしまいますので、可能であれば寮などがございましたら、


入寮手続きをしたいのですが。」


「寮は存在する。通学時間が長時間になるのは大変だが、二人の許可は得ているのかね?」


「いえ、まだです。しかし通学費など二人に依存してしまうと、生活が困窮するレベルまで悪化し、ここに通学できなくなる可能性があります。それだけは回避したいですし、二人もきっとこの提案を受諾してくれる、そのような確信があります。」


「理解した。では伝達に向かおう。」


そして二人に寮生活を希望する旨を伝達した。二人は寂寥の表情を浮かべたが、それが最適だと納得してくれた。俺も休日には時折帰郷すると伝えた。この世界で呪われた俺に温情を示してくれるであろう数少ない人物だ。この二人の期待も決して裏切らないよう、俺はここで努力しよう。


そして二人は馬車に乗車し、俺の衣類や生活必需品を持参してくれるため、一度帰宅した。


オーリッヒ先生は俺を学生寮まで案内してくれた。

上級クラス専用の寮<レイヴェンハイム>。寮の玄関には漆黒の鴉が銀の月を背景に翼を広げた紋章が掲げられていた。


俺の部屋は二階の通路最奥部、210号室。室内は寮とは思えないほど広々とした空間で、15畳程度だろうか。学習机と椅子、子供にはやや大型のベッド、隅に設置された四角い大きな金属製の箱は冷蔵庫だろうか。使用感による異臭もなく、壁紙も最近張り替えたのであろうか、傷痕やシミ一つ見当たらない。浴室やキッチン等は設置されていない。どうやら入浴は大浴場を利用し、食事は学食で摂るようだ。


ひとしきり部屋を視察した後、オーリッヒ先生は環境に慣れるまでここで過ごすよう言い残し、俺を一人にしてくれた。

少しベッドに腰を下ろす。広大な部屋は子供の俺には過度に広く感じられ、相当な違和感があった。

5分程度が経過しただろうか、廊下から誰かが接近する足音が聞こえた。


(オーリッヒ先生だろうか。)


俺はベッドから立ち上がり、背筋を正して気持ちを引き締めた。


ガチャッ。


扉からひょっと顔を覗かせたのは、赤毛の短髪をした少年だ。


「き、君が、あ、新しく入学した、し、新入生?」


困惑しながら少し高音で中性的な声音の少年は俺を見詰めた。初対面の人物には羞恥心を抱くのか?


(その心境はよく理解できる。だが俺は新しいこの世界で新たな人生を歩むのだ。ここから人間関係を構

築するため、ここは温和に接しよう。)


「はい。名乗るほどの者ではありませんが……アッシュ・ガルベルトと申します。記憶していただければ幸いです。もしよろしければ、貴殿のお名前をお教えいただけないでしょうか?」


そう言うと彼は顔を紅潮させ、扉から出していた顔を即座に引っ込め、扉を閉じることなく駆け去った。


(お、おいおい、初対面からやってくれるじゃないか。)


すると扉の向こうから何やら怒号が飛んできた。


「新入生はどこじゃぁぁ!!」


(お、おぉぉ。何とも懐かしい本場のイントネーションの関西弁!って関西弁を話せる者がいるのか!?)


そして勢いよく激昂した青年が血相を変えて乱入してきた。


「わりゃ何を言うたんじゃぁぁ!!!」


後方から先ほどの少年が彼を制止するように入室してきた。

だが彼の全身を確認した時、俺は青褪めた。

少年のような容貌をしたその人物の身体は、膨らんだ胸部、引き締まった腰部から延びる豊満な曲線、そしてそれに纏わるスカート。つまり、少年は女子生徒だったのだ。


「おんどりゃぁが俺の女に『貴殿』なんて言うたのか?あぁぁ!?」


「す、すみません!顔部しか見えなかったので!」


青年は俺の胸ぐらを掴みながら、


「可愛いやろうがいぃ!おんどりゃ、これが男に見えんのかい?」


と女子生徒の方向に指を向ける。


「す、すみません!」


すると女子生徒が、


「や、やめてよ!恥ずかしい!私も悪いの!」


だが恋人は聞く耳を持たず――

ドゴォォッ!

と彼の右手から愛情の鉄拳制裁が炸裂した。

俺は意識を失い、その場で倒れた。


意識を回復すると、夕陽が差し込む部屋にオーリッヒ先生と先ほどの二人が正座していた。

意識を取り戻した俺を見て、女子生徒は、


「本当にごめんなさいぃぃ!」


と涙を流しながら謝罪してきた。それを見た青年は、


「お前は悪くないやろ!こいつが!」


そう言うとオーリッヒ先生は、


「確かに彼に誤解があったかもしれません。しかしそれはあなたに対してではなく、彼女に対してです。それに、話を聞いたところによると、アッシュ君は彼女に謝罪していたらしいじゃありませんか。」


「そんなんでこいつの傷が癒されるかぁ!」


「それは君が決定することではない!」


そう言ってオーリッヒ先生は指を鳴らす。


すると青年の身体から黒い稲妻のような鋭利な線条が出現し、彼を拘束する。


「うぐぐっ!」


彼はその場で床に倒れ、身動き一つ取れなくなってしまった。


「リアン君。ここは私の面子に免じて、これで容赦してくれないか?」


その表情は「YES」以外は受け付けない、吹雪のように凍てつく顔をしていた。


「わ、分かりました。」


少し不満も残るが、俺にも若干の非がある。一旦ここは身を引くとしよう。

女子生徒と拘束された青年は、オーリッヒ先生に連れられて部屋を退出していった。

少し経ってオーリッヒ先生が戻ってきて、


「済まないね。伝達し忘れていたが、ヴェルモント夫妻が到着したよ。客間にいるので別れの挨拶くらい

交わしたらどうだ? あ、あとこれを。」


そう言って書籍を六冊ほど、魔法を使用して俺のところまで運搬してくれた。どうやら教科書のようだ。


廊下の時計で時間を確認した。確かに、もう夕刻だ。俺は二人が待機する寮の客室に急行した。


客間に着くとオーリッヒ先生が待機していた。

客室に入ると、大量の生活必需品と寝具や衣類、少量の菓子類。恐らくここに来る前に購入してくれたのだろう。


二人は俺の顔面が腫脹していることに気付くと、オーリッヒ先生に激しく詰問していた。

まあ当然だろう。安心して寮生活を送れると聞いた直後に、顔面が腫れた俺が出現したのだから。

まるで実の親のような対応をしてくれた二人を見て、俺の目から涙が溢れてきていた。


「ありがとう。あと、心配をかけてごめんね。でも俺はここで学習したいんだ。」


そう言うと二人は徐々に冷静さを取り戻した。

二人から生活用品の使用方法や、もし帰郷したくなった際の馬車代が入った財布を手渡された。


「じゃあ帰るね。」


「元気でのぉ。」


「うん。二人も元気で――」


二人は馬車に乗車して帰路に就いた。

俺は部屋に戻り、部屋の模様替えから開始した。

寝具の整備や食料を冷蔵庫に収納し、ある程度完了したところで明日の準備を開始した。

明日の準備は完璧だ。

部屋の照明を消灯し、俺は眠りに就いた。


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