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第十話 ロボから始まる異世界生活

俺の転生先には四つの国が均衡を保ち続ける法がある、血は決して交わってはならぬ。

それを破った者の子は、“存在しない邪悪もの”として扱われる。


だが、それでも生まれてしまった命があった。

これは、そんな“生まれてはいけなかった”俺の物語。

エスパが部屋に戻って数分後、上階に到着したエスパがこちらに顔を覗かせて俺を呼んだ。


「今から作業台を落下させるから受け止めるのじゃぞ~」


そう言うと、義手にがっしりと掴まれた三メートルほどの作業台が握られていた。


「ちょ、ちょっと待ってください!さすがにそれは受け止められませんよ!」


「何じゃ、おぬしは。実に頼りないのぉ。心配せずとも、強力な磁力で固定されているから勝手に落下することはない」


そう言うとエスパは"まい・だーりん"を指差して、


「だーりんに搭乗してこちらに来い」


と怒鳴った。


(憤慨したいのはこちらの方だ)


俺は深いため息をついて"それ"に乗り込む。

俺が部屋から退出しようとすると、耳元でエスパが呼んだ。


「何をしているのじゃ。わざわざ部屋から出る必要はない!」


エスパはズボンのポケットからコントローラーのような物体を取り出し、床に落とした。かと思うと、足でカチカチと操作し始めた。


その瞬間、"まい・だーりん"は背部からジェットパックのような装置が展開され、勢いよく上昇した。

俺は瞬時の出来事で何が起こったか理解できず、身を委ねるしかなかった。

エスパの眼前まで上昇すると、再び足で操作し、"まい・だーりん"に作業台を把持させて下降させた。

俺は突然の事態に未だ現実感を取り戻せずにいた。


呆然としていると、上方からエスパが俺を目掛けて落下してきた。


「受け止めるのじゃ!」


満面の笑みを浮かべるエスパには申し訳ないが、俺の視界に君は一切入っていない。

ボスッ!

何か柔軟な物体に落下する音が響く。どうやらエスパが俺のベッドに頭部から突入したようだ。

その後、エスパが激昂していたが、すべて聞き流した上で無視を決め込んだ。


そこからネックレスの解析作業が開始される。

エスパはネックレスを台上の機器で調整し、細部に刻印された文字を詳細に観察して、最初の結論「理解不能!」を導き出した。


俺はネックレスを奪取し、首に装着する。

しかし、容姿に変化は生じない。


(まさか故障したのか……)


焦りからか、異様な汗が全身から流出した。


「て、てめぇ!やってくれたな!」


俺とエスパはそこから一時間ほど争闘と和解を繰り返した。

最終的に虚弱な少年と十五歳の少女による激烈な格闘戦が開始された。

結果は引き分け。殴打し合ったものの、双方とも無傷でスタミナが枯渇した。

15歳の少女は5歳男児と同程度の持久力だったのだろうか?

脳に酸素が十分に供給されないため、正常な思考が困難である。


(ここは一時的に休戦だ)


「エスパさん。ここは一旦休戦として食事でもいかがですか?」


エスパも同様の考えだったのか、ため息をついて同意した。

昼食時間になると、エスパが食事を調達してくれた。

俺は昼食時に、このネックレスをソーラ先生の姉であるルーニャという魔術師から貰った経緯を説明し、今回発生した事件の詳細と現在考察可能な原因を話した。

なぜ告白したのかは俺にも不明である。ただ、現在の情報が極度に不足しているため、何も進展しない状況に若干の苛立ちを感じていたのだろう。


昼食を摂取していると、廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。

今変装できない俺は急いで"まい・だーりん"に搭乗した。

部屋に入室してきたのはサリーちゃんだった。


「あれぇ?リアン君はいないのぉ?というかぁ?なんでぇ……おまえがいるのぉ?」


「ん?あいつは我が殺害してしまったぞぉ。この木材の下敷きじゃぁ」


エスパは戯れ感覚で冗談を述べているが、起動中の"まい・だーりん"越しでも察知できる邪悪なオーラを感じる。


「リー……リアン、リアンくん!んぎゃぁぁぁあ!」


突然絶叫すると、サリーちゃんはエスパに向かって手を翳した。


「――いんぺいる・すぺいん」


静かに紡がれたその言葉は、空気に魔の波紋を描いた。

直後、サリーちゃんの足元に落ちる影が、まるで命を得たかのようにうねり始める。

闇の中から湧き上がるように、艶やかで漆黒の棘が立ち上がった。

鋭く、しなやかで、美しい――けれどその存在には、目を背けたくなるような暴力性が宿っていた。

その漆黒の矢が、疾風のごとく走る。


「っ……!?」


エスパは異変に気づく間もなかった。

闇に紛れた影が、まるで蛇のように滑り込むと、そのまま腹部を深く貫いた。


「ぐっ……!」


鈍い音とともに、エスパの身体が一瞬跳ね、足元から力が抜けて崩れ落ちる。

サリーは冷ややかな視線を向けたまま、開いていた手を――ぎり、と握りしめた。

その瞬間だった。

腹部に突き刺さった黒影が、まるで怒り狂った獣のように蠢き、暴れ出す。

内部を這い回るように、ねじれ、うねり、抉る。

見えないはずの動きが、皮膚の上からでも分かるほどに、彼の腹を内側から盛り上げていた。


「ぎゃああああッ……!!」


喉の奥から絞り出されるような絶叫。

それは悲鳴というより、魂が引き裂かれるような音だった。

エスパの顔は血の気を失い、白目を剥き、全身がけいれんするように震える。何が起こっているか理解できない俺は、サリーちゃんを鎮静化させるために"まい・だーりん"を起動した。


(急げ!)


「ピ……ま、まいだーりん起動」


「サリーちゃん、待ってください!俺は事情があってこの機械の内部にいます!冷静になってください!」


俺の声を聞いた瞬間、サリーちゃんは魔法を解除した。


「リアン君?どこぉ?」


サリーちゃんは先ほどまで痛みで悶絶していたエスパを踏みつけて室内を探索する。

エスパの悲鳴すら無視している。恐らく眼中にすら存在しないようだ。


「ここです!このエスパさんの機械内部で治療を受けているんです!」


俺は咄嗟に嘘をついた。状況がさらに複雑化する。

サリーちゃんは機械内部から俺の声が響くため、ポケットからナイフを取り出し、激しく叩きつけるように刺突する。


(これは危険だ)


焦った俺は、とにかくサリーちゃんを鎮静化させるために強く抱擁した。


「俺はここに存在します!安心してください!」


必死に平静を取り戻させるよう語りかける。

"まい・だーりん"の腕中で、もがき暴れるサリーちゃんは、俺が何度も話しかけると次第に平静取り戻した。

サリーちゃんは疲れたのかそのまま気を失った。


俺は痛みで痙攣をおこしていたエスパをベッドまで運び休ませた。

そうして数分が立ちサリーちゃん目を覚まし、ここに来たを説明してくれた。


「実はぁ、リアン君の引き起こした事件、わたしも経験したことがあるのぉ」


サリーちゃんは嬉々として語る。


「そ、それがどうしたんですか?」


「理解できない?わたしはぁさっき普通に魔法をつかえたよねぇ?」


確かに……そういえば先ほどは通常通り詠唱して魔法を使用していた。


「どうやって治したのですか!というか原因は判明しているんですか?」


俺は"まい・だーりん"に搭乗したまま詰問する。

サリーちゃんは若干驚きながらも教えてくれた。


「原因というかぁ、私は昔から感情に委ねて魔法を使うらしくてぇ。それに伴って魔力量も増大していったんだってぇ。そしてぇ、魔法も次第に強力になって、さっき発動したぁ『いんぺいる・すぺいん』も私も負傷するような危険な魔法になってしまったの」


俺は興味深く聞き入る。


「治し方というかぁ。リアン君だけにしか教えないんだけどねぇ」


するとサリーちゃんは、


「これはねぇ誰でも簡単に製作できるからぁ、サリーちゃんが指導してあげるぅ!!」


するとサリーちゃんは、ほんのりと頬を染めながら、ちらちらと俺の方を伺ってきた。

けど、その目には「見ないで」って言いたげな恥じらいと、「ほら、見てみなよ?」って悪戯っぽさが、絶妙に同居してる。

……いや、どっちだよ。


「ふふっ……」


楽しそうに笑ったその直後。

彼女はそっとスカートの裾に手を添えて――そのまま、ゆっくり、ゆっくりと、持ち上げはじめた。

まるで俺の反応を楽しむように、わざと時間をかけながら。


え、ちょ、マジで!?


(おいおいおいおい……俺、今どんな顔してる!?)


「これぇ。」


細く透明感のある太ももの際どいところで手は止まり、サリーちゃんは指をさす。

そこには見たことのないブローチがベルトに巻かれていた。


「これは?」


「これは魔力の排出を抑えるわたしのたからもの!」


確かにこれは使える。だが、それを仕えたところで今俺は人前に姿を晒せない。


「これはねぇ誰でも簡単に作れるからぁ、さりーちゃんがおしえてあげるぅ!!」


「あ、ありがとうございます。」


「ならいまからしゅっぱつだぁぁ!でぇぇと!でぇえと!」


そういうとサリーちゃんはスキップしながら部屋を出て行った。


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