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さよならと、これから
それから俺は遥が入院する病院へと毎日通った。
遥の体は少しずつ弱っていったが、それでも笑顔は変わらなかった。
「蓮くん、知ってる? 人ってね、死ぬ前に、一番大切な記憶がよみがえるんだって」
「それは…俺との記憶?」
「うん。…ありがとう、私と付き合ってくれて」
それから数日が経過し、彼女は俺の手を握りながら、眠るように息を引き取った。
涙は止まらなかった。
でも、不思議と、後悔はなかった。
卒業式の日、俺は遥がいつもいた窓際の席に座った。
春の風が、白い花びらを運んでくる。
もう、彼女はいない。
それでも、あの日々は確かにあった。
遥が教えてくれた。
ーー 人と繋がることの痛みと、温かさを。
「また、会おう。次の春にも」
そう呟いた俺の胸には、遥の笑顔が、今も焼き付いている。