孤独な春
教室のざわめきは、まるで別世界の音のようだ。
誰かが笑い、誰かが叫び、誰かがふざけ合っている。けれど、その輪のどこにも、俺、一ノ瀬 蓮の居場所はなかった。
窓際の最後列。
春の光が差し込む中、俺は机に肘をつき、ぼんやりと空を見上げていた。
桜の花びらが、風に乗りふわりと舞っている。
「また一人かよ。マジで根暗だな」
誰かの声が耳に届いたが、もう慣れていた。
昔は努力もしたんだ。クラスの誰かと仲良くなろうとか、笑顔で会話しようとか。
でも、どうにもならないことがあるって、気づいてしまった。
たとえば生まれつきの性格とか、家庭環境とか。
俺には、誰かに対して心を開く余裕なんて、最初からなかったんだ。
友達はいない。
恋人なんて、もちろんいたことがない。
それでいい、そう思っていた。
いや、思い込もうとしていたのかもしれない。
・・・今日までは。
「えっと…今日からこのクラスに転入してきました。遠野 遥です。よろしくお願いします」
ホームルームで紹介された転校生に、教室がざわついた。
真っ白なロングヘア、整った顔立ち、大きな瞳。まるで別世界の住人のような少女だった。
「やっべ、あれマジ天使じゃね?」
「本当に日本人? モデル?」
クラス中が浮き足立つ中、俺はまた窓の外に目を向けた。
だが、そのとき――彼女と、目が合った。
そして彼女は、微笑んだ。
その瞬間、心の奥底にある何かが少しだけ音を立てた。