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あなたに感謝していたいの  作者: 遠藤 敦子
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 お母さんが殺人事件を起こした件であっという間に噂が広まり、殺人犯の娘という理由で私は学校でいじめられるようになった。仲良くしてくれていた友達も離れていき、教科書やノートに落書きされたこともある。男子から

「殺人犯の娘は学校に来ないでくださーい。死ねっ」

と言われて物を投げつけられた日もあった。

 家にも学校にも私の居場所なんてない。もうどこにもいられない。そう思い、夜に家を出て灯台まで走った。誰もいないのをいいことに涙を流していると、スーツ姿の若い男性に声をかけられる。

「泣いてるの? 大丈夫?」

私は首を横に振った。すると彼は

「俺で良かったら君の話を聞くよ。話したくないことは無理に話さなくていいし」

と言ってくれる。

 早川公平(はやかわこうへい)と名乗る26歳の彼は、ずっと私の話を聞いてくれた。

「お母さんは縁を切ればいいし、いま学校に行くのが辛かったら高校も変えられるよ。他に親族とかいないの?」

私が福岡にいるおばあちゃんの存在やふるさわ菓子店という店名を伝えると、早川公平はすぐにおばあちゃんに連絡をとってくれた。

「もしもし、夜分遅くに失礼いたします。ふるさわ菓子店の古澤ミドリ様でお間違いないでしょうか。私、株式会社ハーモニーハウジングの早川公平と申します。いえ、今回はお菓子の注文の件ではなく、お孫さんの件なんですけれども……。いま諸事情により歌乃さんを保護しておりまして……」


「おばあさん、歌乃の人生を責任もって守りたいって泣きながら言ってたよ」

 早川公平はおばあちゃんにひと通り私の今の状況を説明し、私に電話を変わった。

「もしもし……?」

私が電話越しに話すと、

「もしもし歌乃? 今まで辛かったね……。気づいてあげられなくてごめんね。大阪から離れて福岡でおばあちゃんと暮らそう」

と言ってくれた。私はおばあちゃんと久しぶりに話せて、涙が止まらなくなる。



 翌朝、早川公平はタクシーで新大阪駅まで連れて行ってくれ、博多駅行きの新幹線のチケットも買ってくれた。連絡先の交換を私から持ちかけるも、

「アラサーの男が女子高生とやりとりしてるなんてキモいだけだろう」

とあっさり断られてしまった。私がどうしてもと頼み込み、たまになら連絡していいよとのことでLINEを交換する。

 新大阪駅で早川公平が見送ってくれ、私は博多駅行きの新幹線に乗り込む。誰かを好きになったことなんてなかったのに、早川公平にまた会いたいなんて思ってしまっている自分がいる。

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