8話『先生の課題』
投稿時間を19:00と前回書きましたが、筆者の都合により次回から23:00に変えたいと思います。
すみません。
「さっ今日も授業を始めますぅ!」
場所はこれまで通り中庭。
が、いつもと違う点が一つ。それは先生の手に杖が握られていることだ。
カトレアはというと……
「……………」
なんか世界の終わりのような表情をしている。
少し心配だが、ズルしたようなのでフォローもできまい。
さて、今日の一限目はジョギング終わりに先生が告げた通り『結界魔法』を扱うらしい。
ここで魔導書を召喚!
『結界魔法』
攻撃魔法、結界魔法、生活魔法の三柱の中の一柱。
攻撃魔法と違い、防御と強化に徹している魔法である。術式の構築も攻撃魔法とはまるで異なり、空間を指定した後に詠唱という工程が必要になる。(詠唱破棄は可能)
また、初級、中級、上級もの階級が存在している。
──だそうです。少し省いたが、これで分かりやすいと思います。
「今日扱うのは結界魔法です。昨日のようにならないように気をつけましょうカトレア嬢!」
「──っそれは先生が」
「さて、僕が見本を見せるから良く見ておいてぇね!」
先生は話を遮って杖を振り上げた。すると先生の杖に魔力が注ぎ込まれ始め、淡い光が杖の先から零れる。
「今回は僕自身に結界を張るよぉ!──『躍動』!」
そう叫ぶと同時に先生に大きな変化が!?──となると思ったが、変化無し。
あれれ?
「スゥーーーー」
「どうしました先生☆?」
「失敗してしまいましたぁ……」
「え、」
先生はがっくりと項垂れてしまった。それを見たカトレアは「はぁ……」とため息一つ。
「先生は結界魔法が苦手なのよ……私の方が出来るぐらいにはね」
「そうなんだ……」
それを聞いて先生は苦笑いをした。
「僕は攻撃魔法は得意なんだけど結界魔法はどうしても苦手なんだよ……ごめんねこんな先生で……僕なんか──」
先生がヒスり始めた。感情の起伏が激しすぎやしませんかね……
「さて!結界魔法の解説をしよう!」
あれから数十分、カトレアとともに励ましの言葉を送っていたら急に元気になった。
先生としては優秀なんだろうけど、なんかこう、ネジが十本くらい外れてるっていうか……
いや、考えても仕方ないか……黙って解説を聞こうじゃないか。
「結界魔法は空間指定と詠唱という二つの要素からできていますぅ。そこでパーツでバラして説明しようと思う」
先生はカトレアに『こっちに来て』というジェスチャーをして、隣にカトレアを固定した。
すると何かを耳打ちして先生はこちらを向いた。
「まず必要なのが空間指定。結界が影響を及ぼす範囲を指定し、固定することが目的になるね」
先生がカトレアに目配せし、彼女は杖を抜く。
その杖は俺の杖と比べて二分の一程度の大きさで、頂点に付いている魔石も申し訳程度である。
そう考えてる間にカトレアは目を閉じ、杖を突き出した。すると、彼女の足元に魔法陣が現れ、彼女を包むように緑黄色の膜のようなものが生み出される。
それを見た先生はニコっと笑ってこっちを見た。
「カトレア嬢の足元に魔法陣が出ているのが見えるでしょぉ?」
「はい」
「これが空間指定──うっ……僕はこれが苦手でさ、あはは…………ま、まあともかく魔法陣を足元に広げることで自身の位置を指定することが出来たね」
足元に魔法陣を出すことで自身の範囲を設定しているというわけか。さっき先生が結界魔法を使ったときにはこの魔法陣が出ていなかったので、空間指定ができていなかったということだろう。
「次に、詠唱だね。結界魔法を使う上で一番重要な部分だ。だが、攻撃魔法と要領は同じだからあまり気にする所ではないかな(上級や一部の中級ではまた異なるんだけどね)
それじゃぁカトレア嬢唱えて良いよ」
「──『躍動』」
カトレアが唱えた途端魔法陣が一瞬光った。だが、それ以上の変化は無いように見える。
「カトレア嬢ちょっと飛んでみてぇ」
「分かったわ……ってスカートの中見えるじゃないの!?ふざけるんじゃないわよ!?」
「あ、ごめん☆」
ごめん☆じゃねぇよ!と内心でツッコミを入れた。
先生はカトレアに数発パンチを食らったあとに口を開いた。
「じゃ、じゃあカトレア嬢……中庭を走ってみて」
「……分かったわ」
速い。あの細い体では考えられない速さで中庭を駆け回っている。まるで体が軽くなったような動きだ。
「なるほど、これで朝のジョギングを……」
「御名答。でもバレないように出力を落としてたけどねぇ」
「す、過ぎた話よ……」
「ともかく、これが結界魔法さぁ。分かったかいラピス君?」
青髪を右手でたくし上げ、さも自分がやりました感を出す先生。うーん……
すると、カトレアがくいくいとハレスに向かって『こいつ◯っていい?』とジェスチャーをしたので、俺はオッケーのサインをノータイムで出した。
「ん……待ってカトレア嬢…?顔が怖いよぉ…?」
「……はっ!」
「ぐふぅっ──」
結界魔法によって強化された蹴りは正確にハレスを捉え、彼を彼方へと吹き飛ばしたのであった。
その後、怒ったカトレアに謝り倒すハレスの姿が映ったが、彼は懲りずにまたやると思った。
「つ、続きは三限目にしよう……」
こうして一限目が終了。カトレアと少し仲が良くなった気がした。だが、反対に先生の評価は下がっているけど。
◇ ◇ ◇
現在ブレイクタイム中。
自室へと戻り、魔導書を読み返している。
「あった」
彼女が唱えた結界魔法『躍動』。結界魔法がまとまっている章の初めの方に書いてあった。
具体的には、『詠唱の内容と効果』が簡素にまとまっている。
『躍動』──身体能力の向上、また攻撃魔法への効果も微量にある。(威力を八とした時、その八分の一上乗せされる程度)しかし、消費魔力と効果が釣り合っていないので攻撃魔法への上乗せ用途で使うのは賢い選択ではない。
だそうだ。もしかしてこれが俺の祝福(改造)だったら後半の『攻撃魔法への威力上乗せ』も強い意味を持つのだろうか?
ちょっとワクワクしてきたぞ。
◇ ◇ ◇
魔導書を読んでいるうちにブライクタイムは終わり、二限目がスタートした。
「説明が済んだからあとはほぼ実技なんだけど、ラピス君が始めてだから、長い期間カトレアは暇かもしれないねぇ」
「うわぁ……」
「そこでその期間の間カトレアに課題を設けようと思う」
「課題?」
「上級攻撃魔法を一つ体得してもらう、これが課題ね」
「え゛」
グランと言えばジーラやハウインさんが使っていた魔法のことか。魔導書には条件指定とか書かれていたが、イマイチ分からなかった。
カトレアの表情を見るに、習得難度でも高いのではないだろうか?
「悪いけどカトレア嬢は中庭の半分を使ってもいいから、結界を張って練習を初めてねぇ」
「でも……」
「これじゃ新入生が課題を達成するほうが先かなぁ……」
「──やってやるわ」
単純だな……
「それと、ラピス君は『二週間以内に五十メートル先の的を攻撃魔法で破壊する』とか課題を出していたね」
「はい」
「それじゃぁ達成のためにも攻撃魔法を決めなければねぇ?」
「それなんですけど──」
俺は水や氷属性が良いと先生に言った。
見た目も良いし、応用が効きそうだな、と思ったからだ。
それを聞いた先生はうんうんと頷いて杖を抜いた。
「それじゃあ水原初の水飛沫から覚えようか。昨日の授業は覚えているかい?」
「はい。全て頭に入ってます先生」
「いいねぇ、それじゃぁゆっくりとポイントをこなそうか。まずはイメージ。イメージだ」
我が愛杖グレイシア*ピリオド(結構気に入ってる)を的に向かって突き出す。
先生が水飛沫を使った時のことを思い出せ。あの時はイメージの時点で杖に光が集まり、詠唱によってそれが放出されるような感じだったはず。
イメージするのは水飛沫……水が弾け飛び、散乱し、光を反射する様。あの美しい情景を、現象を杖に流し込む。体内の魔力にイメージを乗せて流す流す流す……
「!」
杖の魔石が鈍く光り始めた!
第一段階はパスできたようだ。次は詠唱、魔導書で何十回も読み返して覚えた詠唱。
「穏和なる水の神よ、生命の神よ、我が杖に宿りし魔力に呼応し──顕現せよ!水飛沫!」
あらん限りの願いと魔力を込めて詠唱を叫ぶ。
瞬間体が後ろにふっ飛ばされそうな程の反動と重さを感じ、杖を落としそうになったが気合でこらえた。
眼前には視界を防ぐほどの水飛沫が広がっており、前が見えない。
「あぐ……」
──あれ、どうして、俺は膝をついているんだ。
全身から一気に力が抜けてしまったようで、思った、ように動かない。
「ん〜〜中々にワイルドな初撃だけど、コントロールがだめだめぇ」
怠い体を起こし前を見ると、びしょ濡れの先生が羽織りを絞りながら歩いてきた。
俺の前に着くと、しゃがんで俺の顔を覗き込むようにして先生は話しだした。
「的をみてごらん?」
「あ……」
五十メートル先の的は表面に水が滴る程度で無傷である。ていうかほぼやる前と変わらない。
「ほいっ」
「……?」
先生が俺の肩に触れると怠さが取れた。
「僕の魔力を分けてあげたよぉ。ラピス君は魔力切れを起こさないように『適切な魔力量』を覚えなければいけないねぇ」
「魔力切れ……?」
言われてみれば、あらん限りの魔力を!とか願ってしまっていた。反省反省。
「ラピス君覚えといて欲しい、魔術とは引き算だよ。体内の魔力は有限。その中から必要な魔力を削り魔術を完成させるんだ」
先生の言葉ではっとした。これまで俺は魔力を込めれば込める程強い、などと勘違いをしていた。
先を考え、適切な量を制御して魔術を行使することこそが大切なのだ。
「何か、分かった気がします」
「──もう一度だ。それと的を破壊するイメージを忘れずにぃね」
「はい」
次は失敗しない気がする。
的は五十メートル先、大きさは縦三メートル横一メートル。水飛沫の散弾を直撃させ破壊する。
イメージは氷をも貫通するような少し大きな水の弾丸。
一つ深呼吸。
「……穏和なる水の神よ、生命の神よ、我が杖に宿りし魔力に呼応し──顕現せよ。
水飛沫」
詠唱が終わると同時、淡い光とともにバシュッと三発、水の弾丸が発射される。
二秒後に着弾。どうだ!?
結果はイメージした通り、パキィンという音とともに的を貫通。二発目で課題をクリアしてしまった。
「先生!?」
「うっそ──」
先生の目が大きく見開かれ、口をあんぐりと開けたまま動きが止まった。
ちょっとしたら先生が破壊された氷の的を触りながら口を開く。
「まずはおめでとう! それと課題クリア早すぎるねぇ……」
「え」
「しかもラピス君が使ったのは原初魔法じゃなく、応用の派生魔法だったし」
「──それはどういう……?」
「水飛沫は形の無い水の飛沫を飛ばす攻撃魔法なんだ。それを君は弾丸の形を作って飛ばしたのさぁ。このような形状変化を人は派生魔法と呼ぶんだけど、ちょっと予想外かなぁ」
「あ、いい意味でね!」と先生が頭をかきながら付け足した。
俺はというと、『魔法を扱えた』という現実に高揚感を覚え、半分以上耳に入らなかったことを書き残しておく。
ふとカトレアを見ると、いつものように目線を逸らされた。しかし、今回はいつもと違い右手が震えているのが見えた。
それを見ていた先生がカトレアに向けて声を飛ばす。
「カトレア嬢……これはラピス君が異常なだけだからあまり気にしないことぉ。それよりラピス君、僕の言ったことを覚えているかい?」
「えっと、二週間以内に五十メートル先の的を攻撃魔法で破壊するでしたよね?」
「いや『二週間以内に五十メートル先の的を攻撃魔法で破壊するとか』だね。これで課題は終わらないよ!」
「本当だ!?」
「だからカトレア嬢もまだ時間はあるよぉ?」
「──!」
なんか言いくるめられた気はするが、それでも良い。成長出来るのならなんでもすると決めたのだ。
あ、カトレアが杖を持って奥へ走っていった。
「それじゃぁ次の課題は『結界魔法を十種使えるようになる』ことね!」
なんか前のと比べても難易度上がりまくってる気がするのは気のせいだろうか。いくら『成長するためになんでもする』とは言ったものの、鬼じゃないですかねこれ……
「結界魔法を十種……?」
「そう。『躍動』に加えてあと九個だねぇ。それじゃ始めよう!」
「あ、はい」
──まだまだ先は長そうだ。
『先生の課題』終──
読んでいただきありがとうございます!
良かったら次話もよろしくお願いします!
( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月8日です。