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5話『転生者の魔導書』

 「気持ちいいなこれ!想像以上だったぜ!」


 大浴場の湯の中で水しぶきを散らしながらはしゃぐジーラ。

 突然潜ったと思ったら、端から端まで泳いでしまったり、大の字でぷかぷが浮かんだり。


 まさかこんな大浴場が屋敷にあるなんて……


 今日一日で芯まで冷えてしまった身体が優しく解凍されていく。

 疲れが剥がれて飛んでいってしまうような不思議な気分に身を包まれる。


 「おらよっ!」


 離れた所で湯に浸っていた俺の顔に水の弾丸が飛んできた。


 「うわっ!後でハウインさんに怒られるぞ……」


 そう、この大浴場にはルールがある。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

         大浴場の掟


 其の一

 湯に浸かるまでに体を念入りに洗うこと。


 其の二

 髪が湯につかないように結くか、タオルで巻くこと。


 其の三

 大声を出さない事、水飛沫をたてないこと。


 其の四

 潜らない、泳がないこと。


 其の五

 周りの人の事を考えて行動すること。


 其の六

 上がった後は浴衣を着ること


 其の…………


 …………ではごゆるりとお楽しみください。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 長いので省いたが、目立つルールは大体六までだろう。他は常識的な決まりだけだ。


 「うおっ、そうだったな気をつけるぜ……

  久しぶり過ぎてつい、な」

 「ん、ジーラは入った事あったのか?」

 「ああ、随分前だがな……ここに入った訳じゃないんだが、昔ここと同じ作りの銭湯に入った事があってだな……あー……」


 ジーラは悩ましい顔で言葉を詰まらせる。


 「……いや話しちまうか。ちょっとこっち来い」


 そう言われて俺はジーラの横に収まった。


 「原初の三賢者って知ってるか?」


 聞いたことはある。

 だが、凄い人達だということくらいしか知らない。

 その事を伝えると、ジーラは少し寂しそうな顔をした。


 「なるほど…………じゃあちっとお話をするか!」


 こうして何故かジーラから原初の三賢者の話を聞かされた。





                ◇ ◇ ◇





 「──てな奴らでさ……って起きてるかー?」

 「いや、ちょっと信じられなくてさ……」

 「そりゃそうなるか〜〜」


 原初の三賢者の話はかなり長く鮮明だったことに加え、お伽話のような話ばっかりだった。

 世界中を股にかけて旅をしながら、文明を生み出して発展させたり、魔法の仕組みを解き明かして生活を豊かにしたとか、そんなスケールのでかすぎる途方もない話だった。


 しかし、話を聞いていて引っかかった事がある。

 ジーラが何歳なのか……(話の舞台が五百年前だったので大体理解)ではなくて、何のためにジーラを俺の元へ送ったのか?である。

 洞窟での話によるとジーラは()()()であり、『その人』によって封印という形をとられていたと。

 恐らく話からしてその『その人』は三賢者の誰かなのだろう。

 答えてくれるかは分からないが聞いてみるか……


 「なあジーラ。その、お前を送った人っていうのは三賢者の内の一人なのか?」

 「──冴えてるな。さてはキレ者か?………冗談はここまでとして、正解だ」


 おっ。合っていたようだ。

 

 「何故三賢者の話をしたか。何故お前の元に俺を送ってきたか。今白髪が聞きたいのはこの二つだろ?」

 「そうだね」


 ジーラが指を一つを折る。


 「何故三賢者の話をしたか。これについては後で渡すものに関係があったから話したんだぜ。

  楽しみにしておくんだな」

 

 三賢者繋がりのアイテム……

 なんか凄そう。


 少し興味が湧いてきた俺を尻目にジーラが、指の二つ目を折る。


 「何故俺はお前のとこに送られたか。結論から言おう……」


 ジーラの口から何が飛び出すのやら。

 少し身構えた。


 「分からん!」


 …………?

 んえ?

 目をゴシゴシ擦るけど、ジーラの表情は依然として変わらない。


 「俺も聞いてみたけど、『ジーラなら大丈夫。任せた』の一点張りで封印されたんだぜぇ。困っちまうよな……」

 「──何だそれ」

 「まあ俺達はあいつが引いたレールを落ちないように辿っていけば良いんだぜ。簡単だろ?

  俺はそれを補助する役ってこたぁな」

 「うーん……」

 「ま、心配したって無駄だぜ。もうレールの上走ってんだ俺達は」


 そう言うとジーラは二カっと笑った後に頭の上に乗ってきた。

 小さいけど結構重いなこれ……


 「おらっ!いけいけー!」


 ジーラを頭に乗せたまま、出口まで向かった。

 まだまだ心配は尽きないが、ひとまずは目の前に迫っている死への対処が必須だ。


 うーん……先が見えない……

 まあ考えても仕方ないか!


 やるべき事が多すぎて少々思考放棄気味のラピスなのであった。



                ◇ ◇ ◇



 「いい湯だったな〜白髪!」

 「そうだね。こんな体験は初めてだよ」


 ジーラを頭の上に乗せながら部屋へと歩く。

 今日のところは風呂に入り、ご飯を食べた後に寝る、ということになっている。

 なので、魔法についての授業やカトレア嬢との交流も全て明日からである。


 「ところであのポーションとか杖はどこで手に入れたの?」

 「あれは俺が封印される前に集めていた魔導具(マジックアイテム)なんだぜ。だから今だととんでもなく貴重ってことよ」

 「なるほど……」

 「っと部屋に着いたな。確か、飯ができるまで待っとけって話だよな?早く入ろうぜ!」


 気づいたら部屋の前に着いていた。意外に話していると時間はすぐに進むものだ。ちなみに、この部屋は客人用の部屋を自分達のために開けてくれたらしい。


 「結構広いね……それにベッドもふかふかだ……!」

 「見ろよこれ!ベランダから外が見放題だぜ!」


 ある程度想像はしていたが、それを上回る部屋だった。

 広い間取りに開放感のある窓。ふかふかのベッドに柔らかい明かりのランプまであるときた。

 これは興奮せざるを得ないだろう。


 「さて……」


 落ち着いたところでジーラが口を開く。

 この後に紡がれるのは、先に話した三賢者繋がりのアイテムのことだろう。


 何が貰えるのだろう。

 わくわく。


 「お前に渡すのは三賢者の一人、アラキ・ツルギの魔導書だ」

 「……アラキ・ツルギ?珍しい響きだね。

  もしかしてヴィドラ出身だったりする?」


 このような名前の響きを本で見たことがある。

 六大陸の中で一番華やかと称されている風の大陸『ヴィドラ』。実はメゾーテの隣の大陸なのだ。


 「いや、答えはNOだ。ツルギの出身はこことは違う世界。つまり異世界人って事になる」


 異世界!?

 ここ以外にも世界があるの!?


 「ツルギの言葉に直すと転生者とも言うらしい。この世界の(ことわり)が効かない異端者だと思ってもらって良い」

 「う、うん。了解」


 これ一日のうちに入りきる情報量じゃないよね。

 もう脳みそから煙出てるんですけど。


 「そして、本題は魔導書だな。ツルギがお前のためにこの世界のルールや役立つ事を残してくれている。

  ──これだ。」


 ドサッという音ともに机に置かれたのは一冊の古ぼけた分厚い本。

 話ではかなりの年月が経っていると思うのだが、その形を未だに残している。

 おそらく、俺達も知らない技術が使われているのだろう。

 また、表紙にはくすんだ文字で魔導書と書かれており、中央に□□□□□□と謎の図形が並んでいる。


 「ラピス、本を開いてみろ」


 少し緊張しながら表紙を捲る。

 本に触れた途端に何か起こるのかと少し身構えたのだが、実際にはそんな必要はなかった。


 一ページ目の見開きには世界地図が書いてあった。

 六つの大陸と主要な国、都市、宿やエリア毎の注意点が驚くほど細かく記されていた。


 異常だ。


 これ程の技術が五百年前に存在している事がまずあり得ない。

 そして、次に浮かんだ疑問は、何故今の世界の地図を五百年前に書けるのか……


 ──おっといけない、ジーラがこちらを見ている。

 結果を伝えなければ……


 「世界地図が書いてあったよ。これは……凄いね……」

 「やっぱり読めるのか」

 「え?」

 「俺は読めないんだぜ……お前専用ってことだな」


 理解に苦しむ。

 ツルギさんは何故そのような仕掛けを事施したのだろうか。

 いや、理解しようとしても無駄だろう。

 彼は異世界人なのだから。


 「大切にしろよラピス。それであらかたの知識を頭にぶち込め」

 

 一瞬ジーラの顔が陰ったのを俺は見逃さなかった。


 「これはあの馬鹿の形見なんだ」

 「それって……」


 その時、後ろからノックの音が響いた。


 「お客様、御食事の用意が整いましたので食堂までお越しくださいませ」


 どうやら食事の準備が整ったようだ。

 タイミングがね……


 「──分かった、今行く。

  ほら、ラピス。腹が減ってたら出来ることも出来ないぜ?」


 どうするかと問う前にジーラが立ち上がる。

 そういえばお昼ご飯も食べてなかったな……

 考えた途端にお腹が空いてきた。


 「いけ!白雪号!全速前進!」

 「重いって……」


 予想していた通りジーラが頭の上に乗ってきた。

 これも慣れかなぁ……


 

                ◇ ◇ ◇



 屋敷の食堂まで屋敷の使用人さんが案内してくれた。食堂は豪華絢爛な装飾も然ることながら、何千人も入れるのでは?と思う程に広かった。

 それはまあ広いです。

 想像の何倍も。


 長机の端っこの席に二人は着いた。

 ハウインさんやカトレア嬢の姿はない。

 どこか別の所にでもいるのだろうか?


 あれ、何か声が聞こえるような……


 「……ら!なん…一緒に受…………いけないのです…!」

 「です……お嬢………最近ずっ………」


 おそらくカトレア嬢とハウインさんが言い争っている。これ、もしかしなくても俺達の事?


 「見ろよこのスープ!熱々で具もたっぷりだぞ!

  しかもこれ……もしかしてパスタか!」


 ……能天気っていいね。


 ジーラが今にも食らいつきそうな目をしていたので、早く食事を頂くことにした。


 「──美味しい……体の隅々まで染み渡る味がする……」


 なにせ昼から何も食べて無かったので、一口目は全身が喝采を上げる程の感動だった。

 二口……三口と手は止まらなくなり、気付いた頃には二人の前から料理が消えていた。



                ◇ ◇ ◇



 夜食をとった後は寝る時間だ。速やかに部屋へ戻りベッドにもたれかかる。

 なんやかんやしているうちに外はすっかり夜になっていたらしい。現在、屋敷は人が少ないので小さな音もはっきりと聞こえる。

 窓から入るひんやりとした夜風が体を撫でるのが心地よい。……ひんやりどころでは済まないかもしれないけど。


──今日は本当に色々な事があった。

 本当に。

 だから今日ぐらいはしっかり眠って疲れを癒そう。

 ハウインさんによると明日から授業が始まるらしい。カトレア嬢は前から受けているものらしく、午前と午後で分けて行われるそうだ。

 その分足を引っ張る可能性があるので、そのための魔導書でもあるのだろう。熟読し、ものにしようではないか。

 それとジーラは隣にはいない。今日見た中で一番焦った顔で「急用ができた!悪い!」とだけ言い残してハウインさんに全てを丸投げしていた。

 うーん。

 まあなんとかなるさ。なるさなるさなるさなるさ……

 ここで意識は途絶え、ベッドに吸い込まれたのだった。



                ◇ ◇ ◇

 

 

 ──ってまたかよ。

 見覚えのある白い空間……二回目である。夢か現実か分からないこの曖昧な空間にまた誘われてしまった。

 あの影のせいで少しトラウマ気味なので、今のところいい思いはしない。

 普通に夢を見させて欲しいものだが……


 「これは──」


 手元に何故かツルギの魔導書がある。手に取ると重さが感じられる。本物だ。

 何故、と思うのもこれから増えるだろうし慣れるべきだろうか?

 ぱらぱらと捲ってみてもその実存は確かである。

 

 『────』


 また声が……

 気持ち遠くの方から聞こえる気がする。声の聞こえる方向に行ってみるか。魔導書片手に白い空間を進んでいく。

 数分後、声にかなり近づいた。


 「うえっ!?何だこれ!?」


 信じられないと思うが『足』が歩いている。文字通りに……

 『足』は軽快な足取り(?)で周りを歩いたり、止まったりして足をパタパタさせたりしている。少し不気味だな。

 かなり近づいてみたものの『足』の反応はないことからこちらには気づいていないと思う。

 試しにつついてみると『足』は震えながら飛び跳ねて、走って(?)逃げてしまった。


 なんなんだあれ……

 ──ともかく、魔導書を持ち込めたことのほうが重要だ。原理は分からないが、夢の中なのにこれは本物で中に書いてある事も問題なく読める。難しいことは分からないので大賢者様の力か何かが働いたと考えておく。


 「あの時はちゃんと中を読めなかったからな……」


 少々都合が良すぎる気もするが、命には変えられない。こっちは早く戦える術を身に着けて神毒を解かなければならない。

 そうして、白い空間の中で魔導書を開いた。


 「どれどれ……二ページ目は目次か」


 目次を見るに、この魔導書は主に三つの要素で構成されている。攻撃魔法 結界魔法 生活魔法といった具合だ。

 よし、全部読もう。決意を固め、分厚い本を読み進めていく。


 ・攻撃魔法

 始めに魔法についての仕組みやイメージの仕方が載っている。

 その次に、原初魔法、派生魔法、上級の条件付与のグランが細かく記され、その先には意味深な空欄がある。


 ・結界魔法 

 初めは前述の通りで、様々な種類の結界術が載っている。また、こちらも意味深なスペースが散りばめられている。


 ・生活魔法

 日々が楽になるような魔法から、道中に便利な魔法まで大賢者の選りすぐり。


 読み飛ばしながらにはなったが、途中から白紙になってしまっていたためそれ以上読むことは不可能だった。

 ここまででもかなり引っかかる点がある。

 例えば本の途中から白紙が続いているのにも関わらず読み込まれているような跡があることや謎のスペースがあること、表紙の図形もそうだ。

 だが、それも全部ひっくるめてこれだけは確実に言える。この魔導書は絶対に必要になる。

 読んでみて途中何を言っているのか全く分からない所ばかりだった事もそうだが、魔法に関しては一朝一夕で出来るような事では無いことが身にしみて分かった。


 「ふぁぁ……」


 急に眠くなってきたなぁ……

 また深い深い闇に意識は落ちてゆく。


『転生者の魔導書』終──

読んでいただきありがとうございます!

良かったら次話もよろしくお願いします!


魔法を出すことが出来ませんでした…………

次で必ず……

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