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余命三年の魔法使いとニヒルな鼠 ─運命に抗うは13歳の少年と……喋る鼠─  作者: 馳せ参ず
第二章『メゾーテ山脈探検記』旧

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24/90

24話『ポテンシャル』

 目を開くと何処までも続く真っ白な空間が広がっている。これにはもう慣れたもので、手に持った杖を確認して今日も彼女の元へ歩き出す。

 

 少し経つとすぐにヒイロが地面に寝転がりながら魔導書を読んでいるのが見えた。彼女は俺を見つけると手を振りながら声を上げる。


 「さて、失った記憶からの収穫はあったのかえ? ──まあその顔を見れば分かるんじゃがな!」

 

 ニマっと笑顔を浮かべながらヒイロは立ち上がる。


 「そうですね。この記憶で分かった事は数え切れないですが、その中でも『過去の俺が既に魔法を高度なレベルで使っていた』ことが一番の収穫です」

 「はむ、それはどういうことじゃ?」

 「五歳から十歳までの五年間はシュロに魔法を鍛えてもらっていたんですよ。その間俺は原初魔法は全て、上級攻撃魔法は氷と水、そしてオリジナルの派生魔法、と多岐に渡る魔術の行使が可能でした。それはつまり──」

 「それを扱えるポテンシャルがお主にはあると。そういうことかえ?」

 「はい。俺がハレス先生やヒイロさんの教えですぐに魔法が使えるようになったのはそれのせいかと」

 「なるほど……それは実に面白い。じゃが、その顔はまだ続きがあるんじゃな?」

 

 ぎくり。俺ってそんなに顔に出たっけ……


 さて、彼女の言う通り問題点があるのだ。

 記憶を思い返してる中でも分かったことだが、今俺が使える魔法は『七歳の俺以下』なのだ。それは水弾(アクアフルーヴ)の比較で分かる。


 記憶の俺は水弾(アクアフルーヴ)と詠唱をしたと同時に音速を超えるほどの速さの弾を()()も発射していた。これは六発の水弾を生成→六発全ての底に圧縮した突風をぶつける→推進力を与える→正確に制御するという一連の動作を刹那で実現させなければならない。生半可な魔力操作ではそこまで細かい事は出来ないため、明らかな技量の差がそこにある。


 だが、この体はそれを幾度となくこなしてきたという実績がある。それに成長にあたって魔力量も増えているはずだ。


 だから今の俺に必要なのは──


 「記憶の中で使った魔法の完全再現とな。無茶を言う……」


 やれやれと首を振りながらヒイロは溜め息を漏らす。まあそりゃそうだ。彼女からしてみれば何言ってんだこいつって感じだろう。だが、俺は何故か出来るという確信があった。


 「だが、できない事はないじゃろう。それもこれもお主次第じゃがな」

 「それがワンステップ目ですから。七歳の俺に負けてるようじゃ彼女に笑われてしまいます……それに、より良い魔法に昇華する案も浮かんだんです!」

 「そうか、それは良いことじゃ!わっちはお主の記憶に入り込む事は出来ない。故にお主自身の力で成すしかないのじゃ!」


 五年間分の知識と経験を俺は記憶から体感した。だから再現するのはさほど難しくはないと思う。それを見たヒイロは人差し指を立てて俺の口に当てる。


 「それと別問題で祝福の制御がまずは最優先じゃ。それが出来んと道も広がらないとよ」

 「そうだった……」

 「感情でブレるようじゃ甘い。身体を壊さない程度まで制御できるようにならないと話にならんのじゃ」

 「そうですね」

 「祝福は自覚があるはず。耳を傾け、コントロールの練習をひたすらにするしかない。これが意味することは分かるかえ?」

 「まさか──」


 咄嗟に杖を構え、前面に『陽炎』を展開する。その予想通り、ヒイロの指先から火の粉が散る。だが──


 「あっちぃ!?あっつあっつ」

 「この調子じゃとお主が燃え尽きる方が先ぞよ!」

 

 髪の毛が燃えている事に気づいて手を火傷しながらも火を鎮火した俺目がけ、ヒイロは無慈悲に火の粉を飛ばす。火の粉というか特大の火花が線となって襲ってくるイメージだ。


 「『陽炎』!『陽炎』!」


 燃えたくないと壁をより厚くするイメージを加えながら展開した陽炎は火の粉を吸収し、弾き返す。だが、次に彼女がとった行動は──


 「そうじゃ!それじゃ!その調子で耐えるのじゃ!」


 彼女は跳ね返ってきた火の粉ごと吹き飛ばすように紅蓮の火球を飛ばす。美しい火花を散らしながら迫りくるそれは対象を灼き尽くす炎の玉に違いなかった。

 冷や汗すらも蒸発する温度の炎が一つ、二つ、三つと増えながら迫りくる。


 怪我しても回復すれば良いってことか……

 でも火傷は嫌だ!!!


 全力で──いや、余力を残して火球を防ぎきってみせる。


 「『陽炎』!!」


 魔力を飲み込む黒い炎が紅蓮の火球を捉える。だが、火球の勢いは収まらず、黒い炎は押され始める。


 「重い──?」


 結界を押し込む強い推進力と衝撃。二つ目が接触すると同時にその重みは二倍に膨れ上がり、結界はいとも容易く突破されてしまった。


 「くっ──突風(ラファール)!」


 苦し紛れに地面に向かって最大火力で風を起こす。それは火球を止めるためのものではなく、自身を空中に浮かせるためのものだ。

 浮かび上がった俺の下を火球は素通りしていく。


 「危なかった……」

 「まだ終わっとらんぞ!」


 避けたと思った火球はUターンして俺に向けて方向を変える。冗談じゃない。


 「ほれっ!追加じゃ!」

 「────!?」


 ヒイロの手からもう四つ火球が生み出され、発射される。そうして俺は結界を全て突破され、大火傷を負った瞬間にヒイロの手で回復。また火球を防ぐ練習、大火傷、回復、と祝福のコントロールのための授業は続いていった。


 ◇


 二時間が経った。

 最初こそ火傷で皮膚が剥がれるような痛みで絶叫することは無く、慣れた──わけではないが、ある程度耐性がついてしまった。それでも当たりたくて当たっているわけではない。防ぐ方法はないのかと思考を模索し続けた。

 恐らく彼女の火球は結界以外では止めることは不可能だ。祝福を利用しない限り、彼女の火力に抗える魔法が今の俺にはないからである。


 であれば死に物狂いで結界効果の倍率を上げるしかない。彼女は本気だ。本気で俺に強くなって欲しいからこそ彼女は手を抜いていない。ならば応えるしかないだろうが。


 俺は残りの体力を振り絞って立ち上がり、汗を拭う。杖を構え、左足を半歩下げて深く深呼吸する。


 俺は何回も炎に焼かれながらも彼女の火球を分析していた。彼女の紅蓮の火球は個数にして六つ発射され、俺にぶつかって炎を撒き散らすまで止まる事はない。そして、特筆すべき点は一つずつ遅れて収束することにある。俺は途中何回か火球を受け止められた事があった。だが、あとから一つ、二つ、三つと火球が続いて結界に体当たりすることで結界が維持できなくなり、まとめて襲いかかられたのだ。そこで俺は考えた。火球が増える度に結界の効果を倍にすることができれば魔力を序盤から大きく減らすこともなく、火球を止められるのでは? と。まあ、つまりやるしかないってことだ!


 「こい!ヒイロさん!」

 「──紅蓮球六連射なのじゃ!」


 彼女の右手から順に火球が生み出され、こちらへ動き始める。


 「『陽炎』!」


 前面に黒い炎を展開し、一つ目の火球の衝撃を抑える。間髪入れずに二球目が来る──

 そこで俺は始めて祝福を調整するという感覚を覚えた。結界を展開する労力はそのままに効果だけを倍にする操作。ダイヤルをゆっくりと回すように神経を集中させる。


 「二倍っ!!」

 「おおっ──!?」


 二回目の衝撃。あまりの重さに少々後ずさりしたが、火球が結界を抜けることはない。次だ!次に集中しろ──


 「三倍っ!」


 黒い炎が大きく揺らめく。三つの火球をゆっくりと取り込み始める。


 「四倍っ!五倍!──六倍っっ!!!」

 

 倍率を上げる毎にダイヤルは重く、固くなる。脳への負荷で鼻血がボタボタと地面に垂れ流れる。だが──


 「おおおおおおお!!」

 「────」


 黒い炎の障壁は全ての火球を包み、我がものとしてより大きく、厚くなる。そして、俺は陽炎の異変を感じた。


 ──これは。


 思いついたらやるしかない。俺はすぐに行動に移した。


 「紅蓮球!!」

 「なんじゃと──」


 陽炎は漆黒の火球を吐き出し、ヒイロに向けて六つの火球が返された。


 「ふっ──はっはっはっはっ!やるのうラピス!!」


 彼女はその全てを一息で消滅させ、そう笑い声を発した。俺はそんな彼女を見て後悔する。


 あちゃぁ……なんかスイッチ入れちゃったかも……


 その懸念通り、より火力の上がった魔法で美味しく調理されるラピスなのでした。

読んでいただきありがとうございます!

次話もよろしくお願いします!


( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月29です!

いつも読んでくださりありがとうございます!

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