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余命三年の魔法使いとニヒルな鼠  作者: 馳せ参ず
第二章『メゾーテ山脈探検記』
23/90

23話『寝る前の回想 シュロとの出会い後編』

投稿遅れをお許しください……

(`;ω;´)

 十歳。

 この年に事件が起こった。

 そして、この事件が記憶を失うことになった原因だと推測できる。


 ──時は事件が起きる十日前の火曜日。

 俺は普段通りにエテルネルの森に来ていた。学校が終わったあとの四時間を利用してシュロに会いに行っていたのだ。だが、この日はいつもと違った。


 「今日は遅いのか?」


 シュロが一時間以上経っても現れない。彼女との約束では、一週間のうち火曜日と木曜日は午後の二時、日曜日は予定が合う限り朝から夕までになっている。

 

 シュロの話では今週は予定無いと言ってたんだけどな……


 緊急の用事が入った可能性もあるし、行きたくないなって思う時もあるかもしれないとその日は考え、森の中一人魔法の練習をして待ち続けた。


 ──だが、最後まで彼女が来ることは無かった。 


 これまで予定がある時は必ず伝え、行ける時は絶対に池の上で待っていた彼女が途端に見えなくなったのだ。妙に胸騒ぎがする。次会うときに今日のことを聞いておこう。


 ──九日前。

 今日も学校がある。いつも通りに身支度を済ませ、いつも通りに家の扉を開く。空は曇り、吹き付ける風は氷のように冷たい。胸騒ぎが消えないのは何故だろうか? いつもより足が速くなる。


 「うっわ……」


 いつも学校へ行く道の地面に氷が張っている。走ったりしたら転んでお釈迦だ。内股で慎重に歩みを進める。何故だろう、今日はとても寒い。母さんが言っていたが、井戸が凍って使う度に溶かすのが大変なのだそうだ。


 少しゆっくりになったせいで遅刻しかけた。だが、それ以上何かが起こることはなかった。


 ──八日前。

 今日も一連のルーティーンをこなし、玄関を開ける。冷たい風が頬をなぞり、部屋へ吸い込まれていく。いつもの俺ならばスルーしていたであろう変化。だが、今日の俺はいつもより気が鋭かった。


 「気温が下っている?」


 明らかに気温が違う。防寒着を着ていても分かる違い。少しの息で水蒸気は水滴化し、空中を曇らせる。だが、それだけだ。逆を言えばそれ以外の違いはない。だから心配する必要はあまりないはず──


 その日の二時。エテルネルの森の鏡の前。俺は彼女が現れるのを待ち、池の前で魔力を操作する精度を上げるために目を閉じて心を落ち着かせる。だが、その行動に反して心の臓は高鳴っていた。


 ──そして、今日も彼女は来なかった。

 

 ──七日前。

 朝目を覚まし、下へ降りてホットティーを一飲み。冷たい水で顔を洗い眠気を覚ます。鏡に映る俺の目の下には若干隈ができていた。まあ、気にすることなく朝食を家族で食べる。その時、ドォンと体の芯まで揺らすような振動と光が家を突き抜けたあと、爆音があとから響いた。次の瞬間、窓は真っ白な氷に覆われ外が見えなくなる。


 「なんだ!?」

 「二回目が来るかもしれないから早く机の下に!」

 「ラピス!こっち!」

 

 二回目を警戒して母さんと姉さんがいる机の下に身を隠す。刹那、母さんの言ったように二回目の振動が家を通り抜ける。全身が痺れ、硬直するほどの衝撃波。外で何が起こっている?


 「ラピス……顔色悪いよ大丈夫?」

 「──大丈夫。二人は怪我ない?」

 「母さんは大丈夫よ。それにしても……勘弁だね……」


 母さんの目線の先にはヒビが入り、今にも砕け散りそうな窓ガラスが映った。あともう一度でも衝撃波がくれば簡単に消し飛んでしまう。


 「──机を動かそう!窓の近くは危ない」

 「分かったわ。ラピスはそっち側持って、早く!」

 「は、はい!」


 母さんと姉さんとともに机を運び、より安全な場所で状況を確認しようと口を開ける。だが、


 『──で魔法による戦闘が開始、被害範囲はシャルの街を含みます。迅速な避難と行動をお願いします』


 サイレンとともに警報が街中に響く。これは訓練なんかじゃなく、本当のことだ。

 窓はビキビキと氷に侵食され、家は軋む音を鳴らす。結局この衝撃は昼まで続き、今日の学校は無くなった。嬉しいと言おうとしたところを、窓が割れてかなり凹んだ母さんの顔を見て踏みとどまる。

 現在は外の警報は解除され、窓を侵食していた白い氷も形を崩し始めていた。一日も経てばもとに戻るだろう。 

 

 そして、時刻は夜の九時。就寝時間だ。ベッドに倒れ伏し、拳を握る。胸のモヤモヤがつっかえて取れない。覚える必要は無いはずの不安が胸を強く握りしめる。


 まだ日曜があるじゃないか。今日の夜悩んだってシュロと会えるわけじゃないし、衝撃波を止められるわけでもない。明日を生きるため、今日も早くしっかり寝よう。


 ──六日前。

 いつもと同じ。


 ──五日前。

 学校が終わってから森へ向かう。エテルネルの森はかつて無いほど静まり返っていた。池の水面は今日も変わり無し。


 ──四日前。

 いつもと同じ。


 ──三日前。

 ただひたすらに、ひたすらに心の憂いを、不安を、事実から目を背けるために俺は全力で鏡へと走った。疲労も呼吸も気にせずに、ひたすら走り続けた。木の幹に足を取られて転んでも手を着いてすぐに立ち上がった。氷が張った水溜りで頭から転んだとしてもものともせずに走り続けた。全てはシュロに会うために。


 鏡の前に辿り着いた。


 いつもは入ってすぐに柔らかい音色が俺を呼び、無邪気に笑う君の姿が見えたはずだった。だが、今は孤独しか感じられない。震える足を押さえ、祈りながら鏡に触れる。次の瞬間、いつも通りに体が浮く感覚を覚える。


 「ブフッ…、ゴホッゴホッ……」


 震えた足で着地に失敗し、雪の塊に頭を埋める。こんな事は五歳以来だ。


 「ラピス──」

 「──!!」


 背後からシュロの声が耳を通り抜ける。

 咄嗟に俺は振り向いた。

 池の岩の上に彼女は座っていた。


 「シュロっ!」

 「──ラピス!?」


 俺はフラフラと立ち上がったあと彼女の元に駆け出した。もう走る力は無かったはずなのに足は面白いぐらいに動いた。俺は彼女へ抱きつく。


 「ち、近いよラピス……」

 「俺……シュロがいなくて怖かった。もう会えないのかと思ったんだ……いてくれて本当に良かった……良かった……」

 「──」


 彼女の柔らかくて温かい手が俺の頭を撫でる。


 「ごめんねラピス。最近忙しくて……寂しい思いをさせてしまって……ごめんなさい」

 「いや、シュロが無事なら良いんだ……なにかあったのかと思って……」


 俺は涙を堪えながら答える。俺を見る彼女の顔は複雑だった。彼女と五年過ごした俺はすぐに理解できた。今、彼女にとって不利益な出来事が起きているのだと。


 「話を聞かせて欲しい。何があったのシュロ?」


 彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながら問いかける。

 それを聞いた彼女は顔を曇らせたあと、少しして口を開いた。

 

 「私、狙われてるんだ」


 彼女は神妙な顔でそう切り出す。


 「ヴィドラ大陸にある『アマテラス』っていう国は分かる?ラピス」

 「うん。知っているよ」

 「単刀直入に言うと、私はそこの王女候補なの。それで大きくなった私を狙って色んな人が私を狙ってくるんだよ」

 「────」


 唐突な爆撃投下に脳みそが焼き切れそうになるが、すぐに冷静になり、彼女の言葉に耳を傾ける。


 「それでねラピス。もう……会うのを辞めない?」

 「え」

 「私といる人はみんな権力争いに巻き込まれる。私はお母様の子どもの中で一番才能があるらしいんだ。だから私を狙って色んな人が襲いにくる」


 何を……言ってるんだ……?


 「だからラピス。私が他人に頼らずとも自分の身を守れるぐらいまで強くなって、確固たる地位を持つまで会うのを辞めよう。私はラピスに死んで欲しく……ないから」


 彼女は彼女なりに考え、言葉を選んでいるのが伝わる。だけど、この時の俺の頭には『シュロと会えなくなる』という考えだけが広がっていた。


 「そんなの……」

 「勝手だよね。分かってる、どれだけ酷い事を言ってるのか。だけど、それ以上にラピスに迷惑をかけたくないの──」

 「───」


 俺はなにも言えなかった。言うべき場面で言えなかった。言葉が出なかった。頭が真っ白だった。


 「だから、さようなら。また──」

 「待ってよ!!」


 俺は気づいたら大きな声を出していた。自分でも驚くぐらいに。


 「俺も考えをまとめるから木曜日。また話してほしい。頼む……」

 「……分かった。また木曜日に会おう」


 俺の選択は延長だった。

 いずれ来る別れの延長。言葉を変えれば逃げだった。


 ──一日前。

 何も考えられない。


 ──そして、当日。


 「はぁっ……はぁっ」


 辺りは白く濁り、視界を数多の雪が遮る。打ちつける雪をどけながら鏡へと進む。俺は甘えていたんだ、彼女に。ここ数日で分かった。


 でも俺は彼女に伝えたい言葉がある。


 今日は必ずそれを伝えなければならない。一昨日に逃げたその言葉を。

 鏡に触れて、エテルネルの森へ足を踏み入れたその瞬間。俺は信じられない光景を目にした。


 「ラピス──逃げてぇっ!!!早く!!!!」

 「シュロっ!?」


 目の前にはフードの集団に囲まれ、杖を構えるシュロの姿があった。服は血に塗れ、息が切れている。

 待て、ここで俺が助けられたら……


 「ラピスじゃ敵わない!早く──」


 上げた手を戻す。俺は彼女に魔法を当てられたことが無かった。つまりそれほどの実力差があるということ。だが目の前の彼女は傷つき、血を流している。それが示すことはフードの奴らに俺が勝てる可能性は無いということ。


 「くそっ──」


 俺は走った。走った。走った。走っ──

 なんで足が動かない──


 「──数が多い……」

 「──かかれ」


 フードの声がかかり、集団がシュロに飛びかかろうとした瞬間に意識は途切れた。脇腹に走る冷たくも熱い痛みとともに。


 そして、俺は記憶を失うことになったんだ。

 多分これが致命傷だったのだと思う。シュロはその後、倒れてる俺を発見して『記憶を失う』という代償を使って俺を復活させたのだと推測できるが、俺はそれ以上の記憶はない。


 故にヴィドラに行く以外に手がかりは無いのだ。


 「はぁ……」


 少し、疲れたな……

 今日はしっかり寝てまずはここを出ないとな。意識を切り替えて瞼を閉じる。今日は安眠できなさそうだ。


 深夜、ラピスの目尻から一筋の線が走った。

読んでいただきありがとうございます!

次話もよろしくお願いします!


( ゜∀゜)o彡°次回更新は明日です!

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