21話『寝る前の回想 シュロとの出会い前編』
暖炉で暖まった後、二人からご飯を頂いた。材料は山菜や魔物の肉を使ったものだったのにも関わらず、思わず表情が緩んでしまうほど美味しくて感銘を受けた。それで二人の料理のスキルが天元突破していることが判明したのだった。
そして現在、俺は猫耳姉妹の家の物置として使われていた部屋をミアに案内してもらっている。ミミはというと、日記をつけるために自室に戻っているらしい。話を戻すが、その部屋は最近までずっと使っていたために手が行き届いていて綺麗だった。
あまりにも良くしてくれるので、本当に良いのか?とミアに問うた。
「神毒以前にそなたはミミの命の恩人だし! 良くしないわけがないよ!」
と、ミアは存在しない双丘を誇示するように胸を張る。その仕草は見栄を張る幼い子供のように見えた。
「むっ……私は多分ラピスよりずっと歳上だよ!」
俺の小さい子どもを見るような目にミアは反応する。ミアは頑張って背伸びするが、俺には届かない。そりゃそうだ。彼女はどう見ても十歳に届いていないように見えるのだから……
「そ、そうだね……」
俺は彼女の言葉を軽く受け流した。
「まあいいや。それより、なんでカントリオムの麓なんて目指そうなんて思ったの?」
「あー……それなんですけど──」
俺は先生が急に出発を決めた事や、道中での出来事も話した。すると、ミアは同情するような目でこちらを見る。
「そうだったんだ〜……その超面白い先生は置いといて、なんで先生はこんなところに来ようと思ったんだろうね?」
「それが分からないんですよね……」
彼女の言葉を聞いて疑問が湧いた。確かにどうしてカントリオムの麓に行かなければならなかったのだろうか?カトレアの反応からして、彼女も言ったことなかったみたいだし。まあ、それでもカントリオム山に入る予定は微塵もなかったのだけれど。
「まあ、今日はぐっすり寝なよ!災難だったね……それじゃまた明日起こすよ!」
「あ、はい!ありがとうございます!」
ばいばーいと手を振りながらミアはドアを閉じた。
「ふぅ……」
溜め息を吐く。今日の疲れは尋常じゃない。肉体的にも精神的にも疲労が溜まる一日だった。
まず、氷上ボート。これを減速させるのに恐らく自身の魔力量の半分ぐらいを使ってしまったと思う。加えてテレポート中の記憶の回廊。精神を蝕む激痛が全身を駆け巡ったのだ。だが、シュロの記憶を取り戻す事が出来たのだからそれも必要な犠牲だと生き残った今は言える。シュロの記憶は完全に思い出せた訳ではないが、ほぼ思い出したと言っていいだろう。
彼女は親友だったのだ。
出会いは俺がまだ五歳の時。母さんと姉さんと一緒に近くの森に行ったときだ。俺の家は高台にある。だから店などが多く並ぶところからは少し離れていた。 だが、家の裏道には森があり、キノコや薬草などが採れた。
しかし、俺は今に至るまで『その森は危ないから』と母さんに行くことを禁止されていたのだ。当然俺は従ったし、それが安全だと思っていた。だから一度も行ったことはなかった……はずだったのだ。そう、失くした記憶を取り戻すまでは。
実際には俺は小さい頃から良くその森に母さん達と行っていたようだ。五歳になる頃には一人で森に遊びに行くこともあった。勿論暗くなるまでという条件付きで。その森は広かった。恐らく街一つ分あるぐらいには。そして、その森には魔物が出ず、木も細かったので見渡しが良く、池や川も流れていて子どもが遊ぶには最高の環境だったのだ。であるからに俺も森を沢山探検した。始めは少しの範囲だけで、遊びに行くごとに段々とその範囲を広げていった。自分で地図を作りながらだったらしい。
そして、ある日。俺は見つけたんだ。
「なんだあれ?」
巨木にもたれかかる古びた鏡を。俺は好奇心に負けてすぐに鏡に触れた。すると全身が鏡に吸い込まれていって、俺は冷たくて白い地面に放り出された。
「うわあっ!?」
「あぶっ──」
俺が放り出された場所はとても寒くて冷たかった。目を開くことでそれが雪だったことはすぐに理解できた。そして、俺は気づく。放り出された時に聞こえた声に。
「あの……大丈夫?」
目の前には俺に手を差し伸べる、白の小さい角を二つ生やした小柄な少女がしゃがみながら俺を覗いていた。
彼女は透き通ったエメラルドグリーンの短髪で、全てを吸い込んでしまいそうな紫紺の瞳を持っていた。
これが、後に親友となる『シュロ』という少女との奇妙な出会いだった。
彼女に手を引いてもらい俺は立ち上がる。辺りを見渡すと家の裏の森のような面影は微塵も無く、見渡す限りの銀世界が広がっていた。ここは雪原の森のようで、俺はその池の周りに出てきたらしい。それにしても──
「くしゅんっ──」
「わあっ……震えてるよ君……」
街とは違い、ここは子どもの俺には厳しい気候ですぐに寒さに震えることになった。それを見た彼女は鼻息をたてて立ち上がる。
「ちょっと見てて!」
「──え?……はっくしゅんっ」
そう言うと彼女は紅く揺らめく不思議な杖を取り出す。頂点に嵌っている球体は全てを灼き尽くすような神秘的な色で輝いていた。彼女が杖を一本の木に向けると、森が静まり返った。
「光刃!」
彼女が狙った大きな木が光の刃によって薪と化す。間髪入れずに空中に浮いた薪に向かって彼女は唱える。
「火炎球!」
すると、みるみるうちに薪に火が灯り辺りに光と熱を放つ。周囲の気温が上がったことにより、体の震えも収まった。
「──すごい。すごいすごいすごいよ!これって魔法っていうんだよね!!」
「──そうだよ!もしかして見たことなかった?」
「うん初めて!」
「そっか……私のが初めて……」
この時、彼女が見せた魔法が俺の初めて見る魔法だった。今思えば生活魔法とか水魔法を母さんや街の人は使っていたところを見ていたかもしれないが、純粋に『魔法』と認識したのはこれが初めてだった。
「どうやってやったの!?」
「ちょっ……ちょっと待ってね──まずあなたは誰なの?」
俺の反応を見て彼女は一瞬戸惑った後、少し嬉しそうにしていたのを覚えている。彼女の質問を聞いて俺ははっとしてすぐに自分の名前を伝える。
「あ、僕の名前はラピス!君の名前は?」
「私はシュロよ!どこから来たのかは分からないけどよろしくね!」
「うん!」
こうして俺とシュロは友達になったのだ。
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