20話『猫耳な二人』
「着いたよ!」
小柄で猫耳を生やしたショートカットの銀髪少女、ミアが言った。
前に立つ二人の先には二階建ての立派な家が建っていた。
「ここが……?」
「そう! あと私の名前はミア! そして隣にいるのはミミ!」
「は、はいミミ……です。先ほどは助けてくださり、ありがとう……ございました」
「いやいや、勝手に体が動いただけだから頭を下げる程じゃ──」
ミアの後ろから出てきた黒髪ロングのミミはロボットみたいなぎこちない動きでパタパタと頭を下げ始めたのですぐに辞めさせた。なんか気まずいな……
「あと、あなたの名前を聞かせてくれる?」
あ、そうだった。俺の名前をまだ伝えていなかったか──
「ラピスです。普通にラピスって呼んで良いです」
「そうかラピスか良い名前だね──」
ミアは俺の名前を聞くと手をとって近づいてきた。だが、俺と目が合うと急に言葉が途切れた。
「でも──いや、まずは中に入ろう!」
なんの間だったんだろう?
いや、今はミアの言う通りに中に入らせてもらおう。実は寒い中ずっと歩き回っていたせいで足の感覚が無くなっていた所だった。あと少しで凍傷寸前だっただろう。
「温かいホットティーだ! 飲んで!」
「!? ありがとうございます!」
広い家の中に入り、彼女達に導かれるままに席につく。机の上は本やペンのインク、食べかけの林檎などが散乱していた。それを一気に端に寄せてホットティーが目の前に現れる。それを一気に流し込むと、芳醇な香りが脳に突き抜ける。恐らくなにか果物を入れたのだろう。
それにしても──
「二人はどうして襲われていたのですか?」
「ああ、それはね……ミミ!ちょっとこっちに来て!」
「は、はい!」
突然ミミを呼んだと思ったらミアが後ろからミミに抱きついてこう言った。
「私達は『白銀猫』族の姉妹。それを狙った奴隷商に襲われていたんだよね……」
「白…銀猫?」
「ありゃっ……知らない感じ?」
「はい」
二人は驚いた顔で向き合う。ていうか、二人とも尻尾生えてる……
触ったらフワフワだろうな……
「あ、」
「今やらしいこと考えた?」
「え、え、あ……」
「いやいやいやいやそんな訳ないですよ!!はははは………」
咄嗟に誤魔化したけど、二人はむーっとした顔でこちらを見ている。視線が痛いよ……
「コホンッ……まあそれで私達は希少な種族で狙われやすくてね!」
「それで油断してたら私……捕まっちゃったんです」
「なるほど……」
俺は耳にしたこともなかったが彼女らは獣人族の中でも希少な『白銀猫』という種族らしい。それを狙った奴にミミさんは捕まって、あの状況になってしまったとか。
「だからあなたには感謝してる! 何か聞きたいことがあったら何でも言うよ! そなたはここら辺の事を全然知らないようだからね!」
「──分かります?」
「うん。ここら辺に獣人族を見たことがない人なんているはずないし、足取りもおぼつかなかったから」
つまり、ここら辺では獣族が沢山いるってことか?そんな場所聞いたことがないんだけどな……
「ミアさんの言う通りです。俺は──」
彼女達に、一連の経緯をざっくりと話した。流石に記憶の事は話していないが、テレポートしたこと、先生達とはぐれてしまった事、荷物を全て置いてきてしまったことなどを。それを聞いたミアは目を細める。
「テレポート……?それで遭難かぁ。うーん……」
ミアさんの耳が垂れてしまった。尻尾もシュンとしている。
「まず、今私達がいる場所は『カントリオム山』で──」
んんんんんん?
「そなたが言った場所からは相当離れている。それで──」
「ちょっと待ってください……カントリオムってあのカントリオムですよね?『神隠しの山』と言われる」
「まあ、そうとも言われるね。どうしたの?」
え、目的地を越えてその山の中にいるの俺。ミアとミミは突然立ち上がった俺に驚いて少し縮こまってしまった。
「ごめん、驚かせてしまって……」
「いいよ。それより何でそこまで驚いているの?」
「いや神隠しの山ですよ!神隠しの山!一度行ったら帰れないって言われるあの──」
「それは語弊があるよ!」
「え?」
「ただの噂に過ぎないでしょ? 実際こうして私達が住んでいるのだからなんら危険なことは無いって!」
「そ、そうです。ここは寒いですけど、安全ですよ」
「そ、そうなんだ」
まあ、確かに噂だもんな。こうして二人は住んでいるんだし事実はもっと違うのかも。
「あ、でもラピス」
「なんですか?」
「この山には結界があって、試練を受けない限り一生この山から出ることは叶わないって事を付け足しておくね」
「え」
「そ、そうだった、ね……」
「あー確かに。それで『神隠しの山』なんて呼ばれてたんだ!」
それって、試練とやらをクリアできなければ一生山に監禁ってこと?
まんま神隠しですやん。
「ま、まあ。外に出たいっていうのなら手伝うよ!ミミを助けてくれたんだし!」
「げ、元気出して……」
「あうぅ……」
どこまで神様は意地悪をするのだろうか……
ともかく、彼女らの助けがいるということは分かった。
「お願いします……」
「うん!大丈夫!きっとなんとかなるよ!」
「あわわわわ……」
ガクンと項垂れた俺を見て二人は慌てだす。
早く合流出来たら良いな……先生達は無事なのだろうか……
その後、同情してくれたのか俺の部屋まで用意してくれた二人には何度も頭を下げた。いつか恩返しをしなければならないな……
そもそも二人がいなかったら俺は今頃餓死か、凍死していただろう。考えるだけで恐ろしい……
「寒くない?もう少し寄っても良いよ?」
「ありがとうごさいます…………」
今、俺はミアとミミに挟まれる形で暖炉の前で暖まっている。なんか、こう、その……近くないですかねぇ……
落ち着かない俺を見て二人はきょとんとしている。二人にとっては普通の距離感なのだろうか?
うーん……
「今日はそろそろ日が暮れるから良いとして、明日試練について教えてあげる」
「何から何まで申し訳ない……」
「だって君……その顔の痣──」
「あ、そういうことか……」
二人は俺の顔の傷を見て眉を潜める。そう、これはマナリヤの『神毒』を受けたことによって生じたものだ。それを二人は理解しているらしい。故に──
「長くは生きれないんでしょ?ラピスって……」
「──」
俺の残り時間も分かっているらしい。
だが、二人は少し勘違いをしているようだ。
「いや、俺はまだまだ生きるよ。三年でなんか死なないさ。俺はこの『神毒』をかけたやつを必ず倒してもっと、もっと生きる。だから大丈夫だ!」
「──!」
どんな事があろうとも、俺はすぐに死ぬ気は無いし、絶対にマナリヤを倒すと決めたのだ。
「こんな人初めて見た……ラピスは強いんだね」
「え?」
「私達応援するよ。明日の試練なんてさっさとクリアしてそいつを早く倒しちゃいなよ!」
少々飛躍している気がするが、二人の心配するような顔は無くなったし良いかな。
彼女達の言っているように、早く合流できるように頑張らないと──
俺は密かに拳を握り、決意を固めた。
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