19話『終結』
「はぁっ……ゴフッ──」
口から大量の血が溢れ出る。氷雪世界は既に閉じ、眼前には爆発によって抉れ、火地獄と化した森が広がっていた。
体の損傷具合としては、全身の様々な箇所が骨折、左足に関しては重度の火傷でもはや感覚が無い。それに──
「まずい──」
依然として意識を手放しそうなのは変わらない。出血が酷い。このままだと数分で失血死するだろう。
「ゴホッゴホッ──」
口を押さえる手が血に染まる。湯水のように流れる命の元は手をすり抜け落ちていく。
ああは言ったけどぉ……やっぱり駄目かなぁ……
遠くなる意識を離すわけにはいかないと荒い息で治癒を始める。だが、デセヴァンとの戦いで魔力はほとんど残っておらず、回復したとしても雀の涙程度だ。
そのまま五分が経ち、治癒さえも途切れた頃──
「いた──」
「見つけたか──ハレス!?酷い怪我じゃねぇか!早く回復を!!」
「──先生!?」
「すまない─ジャンティ」
「喋るなハレス。今は意識を手放さないことだけを考えろ。もう少しの辛抱だからな──」
「ぐっ……」
痺れて自由の効かなくなった体にジャンティが治癒を開始する。彼が触れた箇所から痛みが剥がれ、血が止まった。すぐに全身を襲っていた猛烈な悪寒と激しい痛みは和らいだ。
「全身の骨が砕けてます──」
「お前がここまでやられるとは……信じられねぇぜ」
「ゴフッ……少しミスをしてしまってね、自爆に巻き込まれたのですよ。だが、それを差し引いても強かったですね、彼は」
「だから喋るなって……」
彼、ジャンティはこの近くにあるクレート村の村長だ。カントリオムの麓に向かう道中、二日間滞在する予定だった場所。そう、今となってはだったになってしまう。
何故ならラピス君がいないから。恐らく彼はもうこの周辺にいないだろう。僕の『凝視』の範囲内半径1キロ以内に反応が無いのだから。だが彼が確実に無事であると僕は分かっている。何故なら彼は僕の生徒であると同時に、僕が認めた強い心の持ち主なのだから──
「カトレアちゃんはこのポーションかけて」
「分かったわ!」
はぁ……来るとは思っていたけどまさか『幹部』を寄越してくるとは思わなかった。それだけラピスとカトレア嬢に価値があるということなのだろう。少々見誤ってたかもしれないな……
デセヴァンははっきり言って異常だった。彼はドーピングをして自身の限界量以上の魔力を内に内包していたのだ。だが、それによる身体へのダメージは計り知れない。そんな彼が己の寿命を削っても叶えたいのが『この世界が消えて無くなって欲しい』か──
「はぁ…………」
この世界は退屈しなくて結構楽しいと思うんだけどね。まあ、人の価値観なんてものは無限にあるか……
今はラピスの無事を祈るばっかりである。
僕も早く復活してラピス君を探さないとな。彼の洞窟へテレポートしたという話を聞いたのだが、今回もそれが起こったのだと思う。そうでなければこの短時間で僕の探知を外れる程離れられないはずだからだ。
僕の直感だと北かなぁ。
こういうときの勘は大体当たる。僕はそうやって今の今まで生き残ってきた。そうしたらあとのノルマは完全回復と北へひたすらに向かってラピスを見つけること──
まぁ、ひとまず休む。熱く回転する脳をクールダウンし、次に備えなければならない。それに──
「大丈夫だよカトレア嬢。ラピスは必ず見つけ出す。僕に任せなさい!ゴホッゴホッ……」
「そんな感じじゃ説得力皆無よ……さっさと治して、元、気な姿、を──」
カトレア嬢が泣き出してしまった。心配をかけてしまったなぁ……あとで怒られるかな?
まあ、助かったということで──
「先生!?」
「安堵から緊張の糸が切れたか……相当無理したんだなお前……安心しろカトレアちゃん。しっかり村でも治療してやるからよ」
「──はい。お願いします!、」
気を失なったハレスをジャンティが担ぎ、それに荷物を持ったカトレアが続く。辺りの火は村の人々によって消火され、壮絶な戦闘は幕を閉じたのだった。
◇
えー現在恐らく昼頃。辺り一面森、景色に変わりは無し。人の痕跡も無論無し。沢山歩き、時には木にも登ったが何も見当たらなかった。
「お腹空いてきたな……」
寒すぎるこの地において食料は死活問題だ。まず、何が食べられるのかすら分からない。毒キノコでも当たってしまったら即死だろう。
近くに水の気配も無いし、どうすれば……
まて、そうこう言っている間に人の声がしたぞ!!これはチャンス──!
俺は大急ぎで声の元に走り出す。
「くっ……こっちにこないの!」
木々をかき分け走り抜けた先にはナイフを持った男が三人、と杖を構えた少女が一人。
「ぐへへ──こいつは上物だぜボス!」
「ああ、早く頂くとしよう」
「もう逃げられないべ〜〜」
「……これ以上こっちに来たら──」
「こっちに来たらなんだべか?これが見えないべ?」
そう言った太った男は後ろに隠していた人質と思われる少女の首にナイフを向ける。
「ミミ!?」
「に、げてミア……」
「外道が!ミミを離しなさい!」
それを見た瞬間体が動いていた。どう考えてもこの状況はおかしい。俺は男三人の背後から杖を構えて飛び出す。狙いはミミと呼ばれた少女にナイフを向けている太った男。
「突風」
背後から至近距離でぶち込まれた突風は太った男を後ろの木へ吹き飛ばす。人質にされていた少女はフリーになった。
「──ガキ!?」
「──ありがとう!」
人質がいなくなったことでミアと呼ばれた少女が動く。それはさながらチーターのような速さで俺に飛びかかった二人の男を蹴り飛ばす。そして──
「雷轟」
男三人に激しい電撃をぶつけ、消し炭にした。
「あぅ……え?」
人が、三人目の前で死んだ。悪い奴だったとしても命は命だ。さっきまで喋ってた奴が目の前で死んだ。放心状態の俺に彼女は喋りかける。
「そなたのおかげで助かった!ありがとう!礼として良かったら私の家に来ない?」
「あ、はい」
流されるまま了承してしまった。まだ心臓の鼓動は激しく鳴っている。だが、あの状況男を殺さなければミアが殺されていたかもしれない。生きるためには仕方がなかったのだ。これも、経験、か──
ミアが歩き出し、俺は後ろからついて行く。ちなみにミミはミアの後ろでオドオドしながら歩いている。
そして、二人の頭には耳が生えていた。
すいません……短くなってしまい、時間も遅れてしまいました……
次から出来たらストックを貯めながら書こうと思います……
( ゜∀゜)o彡°次回更新は明日です