1話『瞬き』
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眩い閃光が一面に広がり、少年は目を覚ました。
「…………」
今日は一段と体が重い。
再び眠ろうとする体を必死に起こし、俺は頭をかく。
「ほら起きて!もう時間だよ!」
──!!!!!!
声が聞こえると、俺は焦ってベッドから這い出ようとしたが無様に落下した。
ヤバイヤバイヤバイ!もう朝!?
今日の早朝に『流灯』が始まるというのに未だ寝巻き。これは非常にマズい。
「今出るっ!」
「わっ!?」
そう、今日はこの地に『流灯』が降り注ぐ。数百年に一度拝むことのできる現象であり、空一面を光が一人占めするというなんとも信じ難いものだ。
だが俺はそんな大事な日に大寝坊をかましてしまった。
「ごめん待たせた!」
慌ただしくコートとマフラーを装備し、鼻水を垂らしながら姉さんのいる玄関へと走った。
「ほらっ……行くよ!」
姉さんとともに家を出て、街の中央広場へ向かう。
聞けばお母さんは先に場所を取りに行ってくれていたらしい。
ドアが開かれた途端、外から冷気が吹き込んでくる。眼前には積もりに積もった雪が辺り一面に広がっている。
上着無しだと身体が凍ってしまうような寒さだ。
「さぶいぃ゙ぃ゙ぃ…」
「ほらっ!あとちょっとだから!」
凍える寒さの中、二人で広場に走っていく。
前を走るのは姉のシトラス。そしてその後ろをついていくのが俺、ラピスだ。
白いコートに白いマフラーを巻いているため、傍から見たら雪だるまのような格好をしている。
数分経つと、前にいる姉が息を切らしながら声を上げた。
「見えてきたよ!」
前を見ると、確かに広場が見えてきた。良く目を凝らすと母が手を振っている。どうやら間に合ったようだ。
「あ、ようやく母さんを氷漬けの一歩手前まで待たせた坊やが来たね」
「ごめん……」
「余裕を持てとあれほど言ったのに……」
ため息混じりに母に怒られた俺は白い息を漏らしながら俯いた。
そして、母と合流した俺は辺りを見渡した。
まだ日も昇る前の早朝だというのに広場には沢山の人が集まっていて、空を見上げ手を合わせる者もいれば、白い息を吐きながら両手を擦る者まで。
しんと静まり返った大広場はいつもと何処か雰囲気が違っている。
「流灯……どんな感じなんだろうね?」
「──きっと綺麗だよ!」
周りから人の声が聞こえてくる。広場の空気はその静けさに反して確かな熱気を帯び始めていた。
俺も感じる。そろそろ始まるのではないかという期待と緊張で心臓の鼓動が大きくなり、身を支配していっているのが分かる。
数分が経った。
「まだかな?」
「そろそろきても良い頃だと思──」
母がそう言い終わるか終わらないかぐらいに空が瞬いた。
流灯の始まりを告げたのは薄暗い朝を吹き飛ばす程の光の渦。雲をかき分け天地を繋げるように渦はその大きさを増して膨張していく。
目がやられてしまうのではないかと思ったが、普通の光とは違うようで直視しても平気なようだった。
見上げる空一面が輝いて見える。
俺はすぐにその光に釘付けになった。
いつしか光は世界を包み込むように大空を覆っていた。
──唐突に。
光の一つと目が合った。それは他の光とは違う雰囲気を放っていたと思う。
考えるより先に手が伸びていた。
「────え?」
引き寄せられるように、一筋の光が右手に吸い込まれる。
俺の周りは蒼白い光で覆われていた。
「何だこれ!?」
「──どうしたの?」
姉さんには見えていないのか!?何が!?
「ラピス!?」 「────!」
姉の呼ぶ声が聞こえた気がする。
しかし、それもすぐに遠のき、世界は暗転したのだった。
◇ ◇ ◇
──物音で意識が覚醒する。
目を開くと見慣れた天井が視界に入ってきた。均等な脱力感と頭の下の柔らかい感触から自室のベッドに寝かされている事を認識する。
「う……」
「あ、起きた……急に倒れたから心配だったんだよ?」
ベッドの横には姉さんが座っていた。
その手にはホットティーが握られている。
「温かいから飲んで」
「ありがとう……」
姉さんから受け取ったホットティーを目が覚めるように一気に流し込む。
するとぼやけた記憶が段々と晴れていった。
俺が倒れる前のあの時。光の渦が辺りを埋め尽くす中、俺の右手に絡みついた光。そして、姉さんとは異なる別の声。鮮明に頭へ刻み込まれている。
「ありがとう、美味しかった」
「ん……ちょっとしたら下来るんだよ?母さんも心配してたからね」
姉さんはカップを受け取った後そう言い残し、一階に降りていった。
いまいち状況が読み込めないが、あの時に何があったのか確認する必要がありそうだ。
いや、確認しよう。
少しの恐怖とワクワク感を抱きながらベッドから反動をつけて飛び起き、その勢いのまま階段を駆け下りる。
──勢いがあり過ぎて最後の一段を踏み外す事になるのをこの時の俺は知らない。
「ラピス!身体は大丈夫かい?」
「もう大丈夫……いや大丈夫じゃないかも」
そう言って足首を擦る俺を見て、母さんはきょとんとした後に笑った。
「それで、俺ってどれくらい寝てた?」
母さんの隣で鞄を広げ、明日の支度をしていた姉さんが答える。
「六時間ぐらいね」
「──もうお昼近くか、」
え、俺ってそんなに寝てたの。
それはかなり母さん達に心配をかけたのだろう。急に息子が倒れて六時間も起きずにいるというのだから……
しかし、今回ばかりは不可抗力なので致し方ないというものだ。
「ちょっと外を見てきてもいい?お昼までには戻るから……」
「うーん、お昼までにしっかり戻ってくるなら良いけど、路上で急に倒れたりしないでよ?」
「──ありがとう」
お許しを頂いたということで、すぐに支度を終わらせて街へと出発しよう。
◇ ◇ ◇
セーターの上から白いコートを羽織り、ふかふかの手袋にニット帽。やり慣れた防寒対策を終えたのは俺、ラピスだ。
小柄で歳を実際より下に見られやすく、雪と見間違えるほどの真っ白な髪が特徴的、だと思う。
「寒い……今日は一段と雪も寒さも増してる気がする……」
完璧な防寒をしてきたつもりだったが、今日の天候はそれを上回るらしい。水でも撒いたら一瞬で凍りそうだ。
「しかし、せっかく早起きしたのに倒れる羽目になるなんてな……」
期待に胸を膨らませて、うまく寝付けなかった夜の時間を返して欲しいものだ。
さて、母さんたちにこれ以上心配かけないように、例の声に思い残すことを無くして布団でぐるぐる巻きになろう。
そう決意した俺は、美しい街並みを横目に足取りを早めていく。
「そろそろ着くな」
この街、『シャル』の最北に位置する大広場が見えてきた。
唐突だが、ここでシャルについてのちょっとした説明をしよう。
シャルは円形の雪国の街で、中央には少し盛り上がった地形の上に大きな屋敷がある。
そんなシャルで多くの人が集まる憩いの場所。
それが大広場である。
その大広場の展望場所付近で倒れたのが今朝。
今でも頭に氷の礫がクリティカルヒットでもしたのだと信じたいが、それでは蒼白い光と声の説明がつかない。
「何も無ければ何も無いで良いんだけどな……」
そう言って、特大のフラグを立ててしまったとも気づかずに展望場所へ着いた。
白い息を吐き俺は立ち止まる。
「着いたけど……なんか騒がしいな。何かあったのか?」
展望場所に着いたものの、そこには普段の広場からは考えられないほど人が集まっていた。
よく見ると下を指差して話をしている。
「ここの下っていうと洞窟ぐらいか?どちらにしろ今は関係ないな」
母さんや姉さんに無理言ってここまで来たのだ。今さら目的を見失ったりしない。
右往左往して数分。倒れたであろう場所を発見した。
「ここだな。ここで光と目が合ってそれから……」
早朝に立っていたであろう場所を発見した俺は、そこに歩みを進めた。
──その瞬間、全身を猛烈な浮遊感が襲い、視界が一瞬真っ暗になったのだった。
『瞬き』終──
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