17話『襲撃と怒り』
「──あの方向は……ラピスか!」
ラピスが向かった北の方向に火柱が立ち昇る。おそらく発見したのだろう。
「ていうか、教えてないのに火魔術使えるようになってるぅね……」
疑惑が確信に変わった。十中八九、ラピスを支えるなにかが存在しているのだ。
いや、今はそんな事より──
「──あまりにも遠すぎる」
そう、遠すぎるのだ。いくらボートが速かったとはいえ、狼達があそこまで飛ぶはずがない。いや、そもそもあそこまで速度が出た事が不可解だ。
僕は氷柱でボートを押し出しただけだったはず、何故あそこまで速度が出た?
北に向かって氷柱を足場に加速しながら思考する。
僕は勿論、ラピスとカトレアはまずない。二人が魔法を使ったならば、僕がすぐに気づくはずだからだ。
であればモンスターか?
いやここら辺のモンスターは出てもメルツェ並だ。ボートをあそこまで加速させることは出来ないはず。
人か?
いや、僕の祝福である花級『凝視』の範囲内で魔法を行使すれば一瞬で僕が気づく。
「──まさか」
僕が感知できない程の手練だったとしたら?
「クソっ……無事でいてくれラピス」
今はただ祈りながら走るしかない。
◇
「あ、先生!こっちよ!」
カトレアの声が聞こえた。その声の方を見るとフロー、フラム、ラピッドが倒れているのが確認できる。だが、三匹はうずくまり生気が感じられない。
あの背中の傷は……爆傷か?
まさか──
「カトレア嬢!そこから離れて!!」
「────」
カトレアは瞬時にバックステップでその場から離れる。次の瞬間、カトレアがいた場所が爆発し火柱が立った。
「あれ?死んでないの?」
「最高のタイミングだったのに!」
「失敗ですかー」
爆炎の中から黒いフードを被った三人が現れる。
一人は片手になにかを持って──
「──フラム!?!?!?」
カトレアが悲痛な声を上げる。
「あーこの肉の名前か。それ返すよっ」
ベチャッという音とともにフラムが投げ捨てられる。カトレアが駆け寄るが、首だけになったフラムは返事を返さない。焼けた生臭い匂いが辺りに充満する。
「うっわ臭い!」
「待って待って待って!これお前らのだったの?ご愁傷さまぁ」
「なんて……事を……」
爆発を起こした三人は啜り泣くカトレアを見て笑い出した。腸が煮えくり返りそうだ。まるで同じ人間とは思えないような鬼畜の所業。そして、ボートで楽しく進むはずだった予定を壊した奴の正体も分かった。
絶対に生かしてはおけない。
こいつらは人間じゃない。
「おーいそこのお前!お前だよお前!なにボーと突っ立ってんだよ!おい!無視すんなよ。おい。こら」
自制が効かなくなる前に、カトレアを逃さねば。
「カトレア嬢。このまま北に走ってください。北に進めば村があります。村長に事情を伝えて待っていてくださいね。お願いします」
「先生……大丈夫なの?」
「何を言ってるんですか。僕はあなたの先生ですよ。さあ行って──」
それを聞いたカトレアが北へ向かって走り出す。
それに奴らは反応する。
「逃がすわけ──」
「アイシクル」
「──危なー」
カトレア嬢に杖を向けた男に氷柱を飛ばす。だが、男は首を捻り、頬に掠る程度にダメージを抑えた。
「余所見なんて余裕あるんですねぇ、あなた方」
「図に乗るんじゃねえよ」
今のを避けるか。
これは久しぶりに本気を出さざるを得ない、か。
「ちっ、逃がしたか」
「追わせませんよ。そして、死んで償え外道ども」
私の生徒に危害を加え、あまつさえ狼達の命を奪った彼らを生かすわけがない。即刻死んでもらう。
ここまで怒りが湧いたのはいつ振りだろうか。
「──散れお前ら!」
「グラン・突風」
三人に向けて体を引き裂く竜巻をぶつける。三人はそれを避けるため、一斉に散らばり竜巻を回避した。だが、それも想定内──
「一人目」
「速──」
左に飛んだフードの男に急接近する。氷柱を足元に出して加速する芸当は幾千回とやってきた。今さら失敗するわけがない。
男は俺の接近に対処できず、無防備な体勢で地面に着地する。大きな隙が生まれた。
僕はもう杖を向けている。
「水弾」
至近距離から音速で水の弾丸を三発撃ち込む。弾丸は男の胸に風穴を空け、奥の木をなぎ倒していった。
使い勝手がいいな……これ
ラピス君が編み出したこの派生魔術を真似してみたのだが、コストパフォーマンスが素晴らしい。
少ない魔力で高い火力を出せる万能技だ。
「──なっ!?」
「二人目」
仲間の屍を見たフードを被った女は動揺し、少し固まっていた。致命打を与えるには十分過ぎる隙だ。
こいつはフラムの首を持っていた奴か──
女の足元を凍らせ、身動きを取れなくした後に杖を向ける。
「アイシクル」
「ぐふっ──」
胸に三発氷柱を突き刺した。急所は狙っていない。
放っておけば時間差で死ぬだろう。
「あららー死んでしまいました。もう少しもってくれないかなー?」
「貴方もすぐに仲間の元に送ってさしあげますよ」
「面白いこと言うねー!
俺は厭世主義者『哀』の幹部、デセヴァン。お前の名前はー?」
「──ハレス・メイジ」
最後に残ったのは一番強そうな奴だ。魔力量に関しては三人の中で最も高く、殺した二人分を足しても届かない程だ。
「──その名前。どこかで……」
「アヴァランチ」
「話の途中なのにー火爆発」
雪崩は爆発によって弾かれ、男はさらに杖に魔力を込める。
「やだなーもっと話をしようよー!」
「今は時間がありませんので早く消えてもらいます──」
来る──
「火爆発火爆発火爆発火爆発火爆発!!!」
「ちっ」
「逃げないでよーハレスさんー!」
男が狂ったように爆発を撒き散らす。一発一発が重く、大きい。当たれば相当なダメージが入る。
だが、避ければどうということはない。僕は瞬時に後ろへ飛びながら氷壁を何重にも重ねて押し出す。
「面倒くさいねーグラン・火炎球」
氷壁が特大の火炎球によって蒸発しながら穴を空ける。
──森に燃え移る。これが狙いか!?
すぐにその場を離れ避けたものの、木々に火が移り、辺りに黒煙が立つ。雪をものともしないのはあの球の火力を物語っていて──
「グラン・火炎球グラン・火炎球」
埒が明かない。いや、いい。大技で突破する。
「虹の弾丸!!」
「なに!?」
火炎球を突き破り、多属性の六つの弾丸は男へ音速で飛ぶ。
「手応えありです。クソ外道さん」
「ぐふっ──この技は……ハレスさんってまさかー、『魔術の天才ハレス』ではー?死んだのかとー」
「──黙れ」
「おっとー正解ですかー?」
六つのうち、二つしか当たらなかった。どんな反射速度をしていたら避けれるのだろうか。だが、その傷は決して浅くはない。男の脇腹と左腕に穴が空き、血が流れている。
──にも関わらず、男の能面のような笑顔とヘラヘラとした話し方は依然として直らない。
なにか策があるのか?
「この程度じゃ死にませんよーそれよりー魔力の消費キツイんじゃないですかー?」
「アイシクル」
「当ったらないー火爆発火爆発火爆発」
即座にバックステップで離れる。
しかし、どんな魔力量をしているんだこいつは……
高火力の爆発を何発も連射してケロッとしていられる魔力量。異質だ。なにか仕掛けがあるはず──
「ちょろちょろ避けないでよー当てにくいじゃーん」
「ほざけ」
男は小爆発を撒き散らしながらこちらに迫ってくる。厄介だ。
「爆炎」
「ぐぅっ」
爆炎の中から急に現れ、視認したころには炎が迫る。僕の探知に引っかからない程の魔力を隠す練度、そして高火力。隙が無い。
咄嗟に氷柱で下がったが、左足を火傷した。
「痛そーー治してあげようかー?」
「水飛沫」
「炎壁無駄無駄無駄無駄だってー」
咄嗟に出せる最高の速度で放った水の散弾を炎の壁が防ぐ。
近くにいては駄目だ。
俺は瞬時に氷柱を放ち、離脱する。
虹の弾丸はクールタイムがある。連発は出来ない──
そして、並大抵の火力じゃ炎壁を突き抜くことは出来ない。かといって風系統を使えばものの数分で辺りは火地獄と化す。
ならば、使うのは氷系統の高火力魔術。
冷静に対処し、隙をついて高火力の氷をぶつける。
「あ、そうそうーあの狼達は後で俺が美味しく食べてあげるからねー感謝しなよー」
「────ふざけるのも大概にしろ」
目の前が真っ赤になった。挑発だと分かってはいるけど許せるわけがない。
「氷雪世界」
「──」
こいつはここで殺す。
そう固く誓った。
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