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灯火の回廊 ─余命三年の魔法使いとお調子者の鼠─  作者: 馳せ参ず
第二章『メゾーテ山脈探検記』
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16話『事故と暗転』

追記 冷えた朝のスープは最高→冷えた朝に熱々のスープは最高 直しながら自分でも笑ってしまいました……

 カンカンカンカン!というフライパンの音で俺は飛び跳ねる。同様に隣で寝ていたカトレアも「ひゃっ──」と声を出して目を覚ました。


 「はいはいはい〜朝ですよぉ!!」


 芋虫状態のまま体を起こし、目を擦る。雪原での早朝、テントの入り口から光が差し込んでいる。

 俺とカトレアはモゾモゾと這いずりながらテントから脱出した。


 「ちべたっ──」

 「────」


 入り口の先には積もった雪が立ちはだかっていて、それに気づけなかった俺達は仲良く雪の塊に顔を埋めることになった。


 「ほらっ朝食とってエネルギーつけないとぉ」

 「は……い…」

 「うぅ……」


 先生が用意した焚き火でうずくまる俺達は、先生の声で湯気立つ食卓に加わった。

 

 内容は肉汁をとったスープとパン。加えて狼にあげていた干し肉も皿に乗っている。


 俺は内心ガッツポーズで喜んだ。


 冷えた朝に熱々のスープは最高なんだよなぁ……

 凍った体を溶かすように内側から解してくれる。最高の料理だ。


 仲良く朝食を食べきり、準備を開始する。


 現在地はメトーデ山脈の端っこ。中継地点にすらまだ辿り着けていない。しかし、今日は先生の作戦があるらしい。


 そう考えているうちに、全員の防寒着チェック、狼達のコンディションも好調、持ち物の確認が済んだ。

 先生は全員を見渡し、口を開く。


 「今日は『川滑り』をします!」

 「「お、おぉー!!」」

 「反応がイマイチだな……もう一度言うと──」


 無限リピートを始めた先生は置いといて、川()()とはなんぞや……

 川下りなら聞いたことがあるけど、滑るとはどういう意味だろう。いくら寒いとはいえ、メトーデ山脈の川は勢いがあって凍ることはない。


 「どうやって滑るんですか先生?」


 聞いてみた。


 「よくぞ聞いてくれたね!それは──」

 「それは……?」

 「────」


 そこで止めるなよ!気になるだろ!!


 「結局何なのよ……」

 「─────────────────────────────────────────────────」


 ちょっと長すぎるっす先生。狼達も心なしか呆れてるように見えます……


 「──────後のお楽しみ!!」

 「「うぉぃ!?」」


 タメにタメた結論はここでは言わないとのこと。思わずカトレアと同時にツッコんでしまったが、先生のことだからと薄々気づいてはいた。しかし、それだともっと気になるじゃないか……


 カトレアなんてアホ毛を逆立たせて今にも飛びかかろうとしている。流石に止めたが、さながら狂犬のようだった。


 怖ぁ……

 怒らせてはいけないタイプだ……


 「まあまあまあ、着けば分かるよぉ」

 「がるるるる!」

 「カトレアが狼になってる……」


 早朝で気が立っていたのかもしれない。うん。そう思うことにした。


 先生の言葉の続きが気になるので、すぐに出発することになり昨日よりも早く狼ぞりに乗り始めた。

 始めは昨日と同じように狼ぞりで進んでいく。だが、今日は途中の川に当たってからは移動方法を変えるらしい。

 ここらへんは森になっており、木々が生い茂る入り組んだ地形になっている。夜や霧になると一瞬で方向感覚を失いそうだ。

 だが、そこは文明の利器。コンパスという方角を指し示すアイテムにって迷うことはない。


 しかし、今日も本当に良い天気だ。


 どこまでも青い空は雲一つない快晴で俺達を覗き込んでいる。


 さて、今日の順番は前からハレス、カトレア、ラピスである。初日の最初の編成と同じだ。何かの目的があるから先頭だそうなのだが……


 「お、見えてきた」

 「え?どこよ……」


 先生は見えてきたと言うが、俺の目では川の『か』の字も見えない。

 そこから三十秒すると本当に川が出てきた。先生目良すぎでは?


 「それじゃ始めようか!」

 「でもこれ……」

 「わくわく」


 俺の目が確かであれば、目の前には激流という言葉が似合う横幅が大きな川が映っていた。


 ダイブとか言いませんよね!?!?


 「さぁて、それじゃ二人は狼達からそりを外してぇよ」

 「まさか置いてくの!?いやよ!?」

 「それは……」

 「──違う違う。とりあえず従おう。──ね?」


 狼達とはこの二日で少なからず絆が芽生えている。だから俺も置いていくなんて言われたら反対するつもりだったのだが、違うようだ。

 良かった、と胸を撫で下ろして俺は丁寧にそりを外す。すると、外す時にラピッド(俺のそりを引いていた狼に付けた名前)は頭を俺の体にスリスリしてきた。──()いやつめ。


 横ではカトレアが優しくフラム(カトレアを引いていた狼)を撫でていた。フラムはそれが心地よいようで、耳を垂らして尻尾を振っている。


 あちらはもう少しかかりそうなので先生を引いていたフロー(先生に名付けてよぉと言われたので俺が命名した)のそりも外してあげた。勿論撫でました。


 「うんうん、二人とも準備は済んだかな!それじゃ始めようか!」

 

 先生が杖を取り出し、川へ杖先を向ける。

 すると、みるみるうちに川から水の塊が浮かび上がる。その水の塊は空中で形を変え、大きな四角い船のような形になった。そして、先生が一振り。水船は一瞬で氷になり、地上に降り立った。


 信じられないほど精密な魔術──

 目を擦るけど、そこには確かに即席の氷ボートが存在していた。

 並大抵のイメージ、魔力操作では成せない神業だろう。


 「うそ……」

 「凄い…………」


 ラピスとカトレアは感嘆の息を漏らした。


 「ほらっ!早く乗って!!」


 気づけば、狼達は氷ボートの後ろに座っていて先生はボートの後ろで俺達のことを呼んでいた。


 「今行きます!」

 「行くわ!」


 それを聞いた俺達はすぐにボートに乗り込み、荷物を抱きかかえる。


 「よし、しゅっぱーつ──といきたいところなんだけど」

 「「え」」

 「ほいほいのほい」


 謎の掛け声とともに荒れに荒れた川の表面が凍結、真っ平らのどこまでも滑っていけそうなコースが完成した。


 「そして、こう!」


 次の掛け声で氷のコースの中心に縦横1メートルほどの凹んだ線ができる。


 「ここにこう!」


 ボートの底に縦横1メートルの突起が中心線をなぞって形成される。


 ──まさか

 

 「それ、出発!!」


 ボートの後ろから勢いよく先生が押し出し、ボートがコースの窪みにハマったことを認識したらすぐさま俺の横に飛び乗った。


 「ちなみに表面しか凍らせてないから川の流れは止まらないから安心して!」


 先生が規格外すぎて俺とカトレアはボケーっとしていた。おそらく目の焦点がどっかいってたと思う。


 「あ、はい」


 なんか急に冷静になった。


 「それじゃぁみんな捕まっててねぇ!!!」


 これはマズい──

 咄嗟にボートの淵を掴む縁を掴む。

 それと同時、体が後ろへ強烈に引っ張られる。


 「速えぇぇぇぇぇ!?」

 「きゃぁぁぁぁ!?!?」

 「思ったより速いねぇ!?」


 なんで先生も驚いてるんだよ!?

 氷上ボートは爆発音とともに他の全てを置き去るようなスピードで摩擦すら無視して速度を増していく。

 今やボートは竜巻並みの風吹き荒れ、少しでも気を抜いたら吹き飛ばされそうな環境へと姿を変えた。


 いやマジで誇張なしに。


 先生は流石に速度が出過ぎてると判断し、ボートの後ろ、狼達の背後にコの字の氷壁を作成した。それによって空気抵抗により速度が落ち、狼達が吹き飛ばされるのを防いだ。


 少しスピードが落ち着いて(それでも狼ぞりの二倍の速さ)になると先生が涙目で話しだす。


 「ごめん、速すぎた。いやほんとに」

 「先生顔青くなってますよ……う……」

 「───」


 おっとカトレアがダウンした。まあ俺もダウン寸前なんだけどね……


 「もう少しで川から外れるからぁ──」

 「──え、先生?」


 先生がダウンした。揺らしても反応はない。

 ちょっと待ってください?

 え、


 「ヤバいってぇぇぇぇ!?!?」


 いくら速度が落ちているとはいえ、このまま激突なんぞ起これば俺達は放り出され大怪我を負うだろう。

 後ろを振り返ると狼達が心配そうな顔でこちらを見ていた。


 ──カトレアと先生は揺らしても耳元で叫んでも起きない。俺がなんとかするしか……


 先生の最後の言葉から察するにあと少しで川が曲がるということだ。ていうか、コースの窪みを作っていた先生がダウンしたってことは……


 「うわっぁぁぁっあ!?!??!?」


 窪みが途切れた途端に氷ボートはハンドルが外れたように操作不能になり、段々と左右への揺れが激しくなり始めた。


 でもっ、なんとかするしかない。いや、なんとかするんだ!!だが、この左右に振れるボートをどうやったら止めれる?前方向に氷柱を?いやボートが最悪壊れる。曲がる直前に水を出しまくって外に着地?危険過ぎる。まて──


 先生は後ろに氷壁を作ることで空気抵抗を生んだ。ならば俺も風を前方向に放出して減速すれば──


 考えてる暇ないよ!早くしないと!?


 「──『躍動』──『突風(ラファール)』!!!」


 俺の渾身の一撃。風系統は原初しか使えないのでせめて躍動で威力を上げてからの全力だ。

 突風(ラファール)は前方向に吹き荒れる文字通りの突風を巻き起こす。それでもボートは止まることを知らずに──


 「止まらな──」


 曲がり角だ。曲がり角が来てしまった。速度は多少落ちたのだろうが、焼け石に水だった。どうすればいい?どうすれば!?先生、カトレア、起きてよ!?ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい──

 目の前に曲がり角が迫り、俺は強い衝撃を予想して目を閉じた。次の瞬間ボートが弾け飛び、中の人達は──


 「ぶへぇおあっ、!?」

 「あぶばっねわばひ!?」

 「あごっ!?」


 頭上から雪塊が落ち、硬い雪の中に三人が頭から突き刺さった。俺の記憶はそこまでで……


 ◇


 「あっはっはっは!なんじゃそれ!?面白いにも程があるのじゃ!!」

 「うぅ……」

 「雪の塊が無かったらどうしてたんじゃお主ら……」

 「助かった……」

 「それに、お主。祝福の制御がなっとらんのう。もっとコントロール出来るようになれないのかえ?」

 「そうですね……」


 俺がちゃんとしていれば雪に頼ることなく止められたはずなのに、俺は出来なかった……

 多分祝福の十分の一も引き出せてなかったと思う。


 「もっと練習を積むんじゃな……久々に肝が冷えたわ」

 「そうします……」

 「おっ、そろそろお目覚めのようだぞよだぞよだぞよ──」


 ◇


 「──起きた!?良かったわ……死んだのかと」

 「誰が死ぬかぁ!?」

 「やれやれ☆……」

 「先生のせいだよ!?」 「先生のせいだわ!?」  

 「ううぅ……こんなはずじゃ……」


 気絶から目覚めた俺も加えて先生への叱責タイムが始まったのであった。


 「待って──ラピッド達は!?」

 「あら!?フラム!?」

 「フローがいない!?」


 雪をどれだけかいても狼達の面影すら出てこない。どこへ行ったんだあいつら!?

 俺達はすぐに焚き火で煙を焚いたあと、三十分でここに戻ってくることを約束し合い、分散して狼達を探すことになった。


 俺は北側、先生は西側、カトレアは東側だ。どこかに絶対にいるはず……必ず見つけ出す。

 待ってろラピッド──俺が止められなかったばかりに……すまん……


 俺は自分を叱責しながら北へ走りだす。


 今分かることはこの近くにはいないということ。何故なら彼らは頭がいいため、はぐれたりしたらすぐに声を上げるはずである。その声が聞こえていないことから声が届かないほど遠くへ行ったか、声を出せない程の怪我をしているか……

 この場合後者ではないと信じたい……

 彼らのためにも後で先生をシメよう。そう強く心に刻んだ。


 かれこれ数分走り回ったが、彼らの面影は見当たらない。いくらあの速さだったとはいえ、遠くに行き過ぎることはないはずだ。


 なにが起きて……


 「オオーン…………」


 聞こえた!!!この高い声はフローだ。間違いない。俺はすぐに声の元に走り、背中に傷を負ったフローを見つけることになった。


 「先生を呼ばないと!」


 息が荒い。フローはこのままだと命が危ないと判断し、俺は先生とカトレアを呼ぶために天に向けて炎の玉を飛ばした。


 「あと少し、待っててなフロー」

 「クゥン……」

 「良い子だ。俺はフラムとラピッドを探してくるから。今に先生とカトレアが来る──」


 こっち方向に飛ばされたのは分かった。このままではラピッドとフラムの命も危ない。先生がここに来るから俺はそのうちにさらに北へと走った。


 「ラピッド!!フラム!!どこだ!?」

 「オオーン!!」


 声だ!!しかも二つ重なっている!!

 俺はその声の元に急いで走った。


 「いた!ラピッド!フラム!!」


 蹲る二匹を見つけ、これで安心だと思ったその時──


 視界が暗転した。

読んでいただきありがとうございます!

良かったら次話もよろしくお願いします!


( ゜∀゜)o彡°次回更新は明日です!

ちなみにこの山脈はメトーデ大陸の南から北にかけて、縦長に伸びています。そこでラピス達は中心であるカントリオムから最も近い、中心のちょい東からカントリオムに向かっているのです。

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