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灯火の回廊 ─余命三年の魔法使いとお調子者の鼠─  作者: 馳せ参ず
第二章『メゾーテ山脈探検記』
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15話『順風満帆な一行』

 「ほっほーい!」

 「やっぱり速いわね!」

 「──うわっ、目に雪が……」


 先頭から先生、カトレア、俺の順で木々の間をくぐり抜け、道なき道を滑走していく。時折吹く風のせいで木に乗った雪が落ちてくるのだが、この狼は頭がいいので事前に回避、失速せずに進むことができている。だが──


 「いった!?い、──」


 前から降ってくる雪の塊が痛い。もはや凶器と化した雪の弾丸が容赦なく顔を撃ち抜いていく。

 それを見かねた先生がストップをかける。


 「ごめんごめん……ゴーグル着けるの忘れてた☆」

 「確かに、私も忘れてたわ……」

 「ぜんぜぇ゛い゛」

 「ごめんごめん……確かこのリュックの下の方に──」


 先生は慌ててゴーグルを取り出し、二人に配った。良く考えたら必須アイテムじゃんこれ……顔痛かったし……


 ともかく、ゴーグルを着けた三人は狼達を撫でたあと、再び出発した。

 先の事もあってか列の順番は先生と交代することになり、俺が先頭になった。先生曰く『この狼は頭が良くてね、今回の向かうべき場所もしっかり理解しているんだよぉ』だそうなので、俺はバランスをとるだけていいらしい。まあ、バランスをとるといってもこの狼ぞりは安定感が半端ないので、ほぼ疲労を感じることはない。マジで快適だ。


 ここまで速いと思ったより余裕あるのかもな……


 横を見るとあまりの速さに木々に残像がついているかのように見える。逆に落っこちた時のことを考えると不安になるが、この安定感だとそんな事は起きなさそうだ。


 それから二時間というもの、ひたすらに滑走し続けたため、少し広い雪原が見えてきた。

 すると先生はここで休憩をすると声を上げる。


 「みんなこれを飲んでねぇ」

 「ふぅ……生き返るわ」

 「温かくて美味しい……」


 先生が炎を焚き、熱々のスープを作ってくれた。ふぅーふぅーと白い息を吹きかけ、口に運ぶ。即席だがその味は冷え切った体に染み渡り、舌を躍らせる一品だった。


 この休憩は人間だけじゃなく、そりを引く狼を休ませるためでもある。いくら脚力モンスターだとしても疲労は蓄積し、思わぬ時に爆発するものだ。こまめな休憩は必須である。

 また、先生は干し肉を軽く炙ったものを狼に食べさせていた。もふもふの尻尾をフリフリする姿はとてもキュートだった。


 一通り休憩をとったところでラピス一行は再度出発する。温かい食べ物で体力が満タンになり、ゴーグルまで着けた三人はもはや無敵だった。


 「結構進んだんじゃないですか?」


 狼ぞりにも多少慣れてきて、後続に話しかける余裕ができた。この問いに応えたのは先生だ。


 「いやぁ、まだまだだよラピス君。今日の目標は進めるだけ進むことなんだけど、全体距離五十分の一も進めてないよ?」

 「マジですか」

 「多分高低差があるから、進んでるような錯覚を覚えてるだけだよ」


 確かにずっと登りだったな……

 思ったよりもずっと長いのかも。


 「まあまあ、気長に行きましょ」

 「そうだね」


 どれくらい進んだか考えてると気が遠くなりそうなので、この思考はシャットアウトすることにした。


 二時間走り、休憩。それを繰り返しているうちに日が落ちてきた。光が反射してキラキラしていた山道はすっかり雰囲気を変え、オレンジ色の光が焼き付く。

 しばらくすると先生が後ろから声を張る。


 「もうじき夜になるから今日はここで野宿です!」

 「了解しました」

 「分かったわ」


 狼ぞりとはいえ、何時間もバランスを保ち続けるのは骨が折れる。みんな少なからず疲労が蓄積していた。


 少し開けた場所に移動し、簡易的な拠点を作る。

 先生はテントと寝袋を用意、カトレアと俺は魔法で火を焚いて夜食の準備をする。

 夜にはモンスターが大量に湧くため、夜間に行動するのは得策ではない。故にテントを作り、周りに結界を張るのだ。

 先生が使ったのは霧を作る結界。よっぽどのモンスターや出来事がなければこちらの存在に気づくことはない。


 役割分担をして準備をテキパキと進めていたので夜食の用意はすぐに済んだ。

 功労賞であるうちの狼達も円卓に加え、ご飯を食べる。


 「「「いただきます!」」」

 「「「アオーン!!」」」


 食料問題の点からいつもと比べてかなり質素だが、今日一日の頑張りや凍えるような寒さから、熱々のご飯というだけでジーンとするものである。

 

 「今日のラピス面白かったよね!」

 「そうね。かなり不幸体質なんじゃないのラピス?」

 「やっぱりそうかぁ……」


 そう、指摘されている通り俺はかなりの不幸体質らしい。


 急に風が吹いたと思ったら木の上の雪が降ってきて雪だるまになったり、休憩中に背後からメルツェに雪玉をぶつけられたり、足場は深い雪なので、引っかかることはないはずなのに、石にぶつかって転んだりと散々だった。


 でも、俺は楽しいという感情も感じている。普段見ない景色、普段見ないモンスター、非日常的な日々。刺激に溢れた毎日が生きがいとなっているのだ。

 他の人から見たら哀れに思われるかもしれないけど、ハウインさんや先生、カトレアに屋敷の人達など。優しく面白い人々に出会えて、こうやって冒険に出れたのも皮肉にもマナリヤや流灯のせいである。


 だから俺は頑張れる。


 「──どうしたのラピス。そんな笑顔で」

 「いや、楽しいなって。普段絶対に体験しないような事がいっぱいで毎日が楽しくてさ」

 「そ、そうなんだ……」


 あれ、ちょっと引かれてる?

 少し傷つきました……


 「そう思ってもらえて僕も嬉しいよ!屋敷で過ごした時間が楽しいって言ってるのと同じだもんね」

 「そうですね……本当に感謝しかないです」

 「だから、かしこまらなくて良いって!でもその話は大事だけど、明日も早いから早く寝ようか」

 「はい!」

 「分かったわ」


 温かいで溢れたテントでの夜食は終わりを迎え、一行は眠りについた──はずだった。俺を除いて。


 寝れない寝れない寝れない!!!


 先生はなんでテント一個しか持ってきてなかったんですか!?


 ご飯を用意する時は気づかなかったのだが、確かに先生の準備が早い気がしていた。

 加えて寝る順番。そう。順番がマズい。

 『僕は狼の面倒も見ないといけないから入口側ー』とか言って入口側から順に『ハレス』『ラピス』『カトレア』となってしまった。


 いや寝れねえよ!?!?


 俺だって年頃の男子なのだ。同い年の女性が隣で寝ているという事実が受け止められない。


 勿論背を向けて寝ているが、そこにいるという事実が睡魔を遠ざける。

 ていうかなんでカトレアは納得したんだよ……


 気持ちを紛らわそうとテントの外へ出る許可を先生からもらった。カトレアは寝ているが、先生はバリバリ起きていたようだ。ただ、出るといっても結界の範囲と強く言われた。そんな真似はしませんよ流石に。


 テントから出ると涼やかな風が体を撫でる。


 「凄い──」

 

 快晴の夜空には満天の星々が輝いていた。一つ一つが光を放ち空を彩っている。

 あまりの綺麗さにさっきまでの心の動揺も収まった。星空様々だぜ。


 何事もなかったかのようにテントに戻ってすぐに眠りにつくことができたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

良かったら次話もよろしくお願いします!


すみません、現実で色々あって今回は短めになってしまいました……いつもは大体4000文字程度を心がけているのですが……


( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月19日です!

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