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余命三年の魔法使いとニヒルな鼠 ─それは余命三年を覆す旅。喋る鼠とともに少年は世界を駆け回る─  作者: 馳せ参ず
第一章『流灯』

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第十五話『魔法とは何か』

 「……魔法とは何か、ラピス君答えられるかい?」


 初めに飛ばされた質問。それは魔法とは何か、という問いであった。

 逡巡した後、すぐに返事をする。


 「頭で思い描いた『偶像』を現実に『転写』する奇跡です」

 「うん、そうだねぇ! ラピス君の言った通り、魔法とはイメージの具現化だぁよ」


 そう言いながら、ハレス先生の右手に深い青の杖が握られる。杖先の正四面体の水晶が反射光で淡く輝く。

 それに少し目を細めると、次に目を開いた瞬間にはハレス先生の周りを氷で作られた(つた)が覆うように地面から伸びていた。

 

 そして、ハレス先生が杖を下ろすと、(つた)もまた地面に帰っていく。


 「今僕が思い描いた偶像は、『氷の(つた)が僕を覆うように伸びる』だよぉ。このように、僕が『できると確信した事象』を体内の()()を媒介に現実に()()する事を、人は魔法と呼ぶのさぁ」


 先生はふっと笑みを浮かべた後、次の瞬間には俺の真正面で俺の目をじっと見つめてきた。


 「ラピス君の得意な魔法は何だい?」

 「水魔法です」


 即答した。

 水魔法──それは水魔法の基礎である、水飛沫を前方に飛ばすアクアスプラッシュ(水飛沫)を初めとした、水を操る魔法を指す。

 使い勝手が良く、コントロールしやすい魔法の代表格なのだ。


 俺の答えにうんうんと頷いた後、先生は新たに問うた。

  

 「では、水魔法は()()()かな?」

 

 その問いに俺は困惑した。

 水魔法は水属性──それはこの世界では常識なはずなのだ。返答が遅れ、先生がそのまま話を続ける。


 「答えなかったのは正解さ。そもそも、この世に属性魔法なんてものは存在していないからねぇ」

 「──え、それはどういう意味ですか?」


 学校で学んだ事と正反対の事を言われ、思わず口を挟んでしまった。

 それも仕方ないだろう、属性なんて存在しないなどと言われれば誰でもこうなるはずだ。


 「ここ、『メトーゼ大陸』は年中雪が降る特殊な気候環境だね? その為、生まれてから最も目にするのは『雪』や『氷』だ。そして、この大陸の魔法使いは主に氷や水魔法を使う。

 お隣の大陸、『ヴィドラ大陸』は風龍が有名で、季節に関わらず強い風が吹くのが有名だよぉ。つまり、いつも感じるのは『風』。主に使われる魔法も『風』だ。


 ……僕の言いたい事は分かるかなぁ?」

 「────」

 「うん、その顔は分かったみたいだねぇ! 物分かりが良い生徒は大好きさぁ!」


 先生の言葉にカトレアがピクリと眉を動かしたが、それ以上はなかった。


 ともかく、話は先生の言っていた事だ。

 先生の言っていることが本当なら、魔法には元々属性なんて──


 「無いよぉ。そう、僕達が属性と呼んでいたもののは、身近に存在していて、誰もが想像しやすいから『火』『水』『風』『雷』と纏められていただけ。実際は魔法に属性なんてものは存在しないはずなんだ」


 そう言って、先生は杖で地面をコツンとついた。

 すると、地面に転がっている小石や折れた枝、落ち葉などが杖の真下に吸い込まれるように集まっていく。


 「これはゾーク(吸引)という魔法さぁ。周囲の物を吸い取って集めるという『偶像』を『転写』したことで起こった魔法だよぉ」


 ハレス先生が目の前で使う、初めて見る魔法を前に俺は興奮を抑えずにはいられなかった。なにせ、これまで培ってきた常識がガラガラと音をたてて崩れ落ちていったのだから。


 「さて、ラピス君の常識を粉々に破壊したところで、魔法についての基本知識を復習していこうと思いますぅ!」

 「待って先生」

 「──カトレア嬢?」


 先生が勢いよく杖を持つ右腕を空に突き上げた時、カトレアがむすっとした顔で先生の話を止めた。

 これには先生も驚いたようで、絵に描いたようなニッコリ笑顔で目をパチクリさせていた。青髪イケメンだというのに、せっかくの美顔が台無しである。


 「私が教える」

 

 カトレアが先生を氷板の前から押しのけたかと思えば、授業交代宣言を自らの先生の前で言ってのけた。


 「いやぁ……ラピス君初授業だし……何より僕は先生で──」

 「メリアとアリア、聞き分けの悪い先生を拘束して」

 「はいにゃ」「仰せのままに」


 「え、ちょっ──」

 「「ゾルカートン(拘束)」」


 カトレアの命令からすぐに、双子のメイドさんが即座にハレス先生を光の縄のようなもので拘束。この間三秒である。

 

 それを見たカトレアはしてやったりというような表情で先生を眺めた後、何事もなかったかのように氷板へ杖を向けた。


 すると、氷板から文字のような凹凸が現れ、段々と文字としての形を成していく。

 

 「私、人前で話すの苦手だから。……良かったらこの板の文字読んで、欲しいな」

 「分かりました!」


 よく分からんが、よく分からん!

 よし、文字を読もう!


 助けを求めるような目を先生から向けられ、俺は目を逸らして氷板の文字を読み進めていく。


 書かれていたのは以下の文である。


 『魔法と呼ばれているものの正体は、偶像の具現化である。

 思い描いた偶像を、身体に巡る『魔力線』から魔力を媒介に現実に転写、そして物理法則が適応された後に発動する。


 そのプロセスには三つの手順がある──』


 「ここ……大事」


 カトレアの細い指が氷板に触れると、新たに文字が浮かび上がってきた。


 『第一に魔力を『マナ』へと変換し、魔脈に流すこと。

 第二に流したマナを体の意識した表面から、または媒介物を介して外界に向けて『偶像を乗せて』放出すること。

 そして、第三段階はそれに『命令』を加えて完成させること。


 ──これをクリアすることで、初めて魔法が完成する』


 「凄い分かりやすい……」

 「良かった」


 カトレアが照れ臭そうに体を左右に揺さぶった。その度に黒髪が揺れ、笑顔が見え隠れする。


 「僕の授業なのに──ぃ!?」

 「喋るんじゃにゃい」「大人しくして下さい」


 その頃、先生は拘束から脱出しようと足掻いていたが、双子メイドによって完全に阻止されていた。不憫である。


 ──先の文を少し補足すると、俺も含めて、全ての生命には生まれつき『魔力線』と呼ばれるものが備わっている。血管のようなものだと思っておけば良い。

 魔法を使う時、魔力をマナに変換しながら外に送り届ける役目を担う、魔法使いにとって生命線とも呼べる重要な器官なのである。


 また、マナと呼ばれるものは魔力に偶像を練って混ぜ合わせたモノの総称であり、魔力のままでは普通魔法にはならない。

 人によってその変換速度には個人差があり、その変換速度そのものが魔法の展開速度と同義と言っていい。


 (うん……意外と覚えてるもんだな……)


 三年以上前に教えられた事を、一語一句間違えずに思いだす事ができた。恐るべき記憶力だと、自分で思う。


 (それだけがむしゃらに魔法を勉強してたんだなぁ……)


 懐かしい思い出が頭を流れ始めたが、今は授業中だ。すぐに何処かへいきかけた意識を引っ張り出した。

 

 氷板の文字が消え、再び文字が浮かび上がる。見出しに書いてあったのは『詠唱』の二文字。


 『魔法を行使する際、人々は詠唱する。詠唱には様々な効果があり、一番に上がるのが魔法の区別。


 例えば、同じような魔法を使いたい時に、その魔法へ事前に名称を付けておくことで、次回詠唱した際にそれを連想しやすくなる。


 次に、魔法の安定化。

 詠唱によって魔法をコマンド化することによって、身体に浸透させてスムーズに魔法を行使することが可能になる。


 そして、最後に──』


 文が途切れるところまで読み切ると、カトレアが口を開いた。


 「言霊(ことだま)という言葉を聞いたこと……ある?」

 

 言霊(ことだま)──それは『言葉には力が宿る』と言われる事を指す。よく聞く事だ。


 「あります。言葉には力があるとか、なんとか……の事ですよね?」

 「そう。強力な魔法を行使する時、私達はその魔法に関連する()()()()()()言霊(ことだま)にして乗せる。大切だから、覚えておいて」

 「分かりました」

 「うん、良い返事」


 そう言って、カトレアは満足そうに教壇を降りて俺の隣の椅子へ戻った。それと同時、ようやく先生は拘束から解放されたのだった。


 「はぁ……散々な目に遭いましたぁよ……」


 ズボンを叩き、汚れを落として体を伸ばした先生がカトレアをジト目で見ながらそう言った。


 「さて──」


 先生のその一言で、場の空気が変わったと思う。温度が一度下がったような、不思議な感覚だ。


 「一限目が終わる前に、ラピス君にお願いしたいことがあるよぉ」

 「……何ですか?」

 「あぁ、そんなに身構えなくても良いよぉ! 僕が今からするのは()()だからねぇ」

 

 そう言って、先生はこう言った。






 「──()()()()()()()と、唱えてみてよ」






 俺の意思とは別に、右腕が勝手に動いた。

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