14話『神隠しの山へ出発!!』
俺は今緊張している。
何故なら、次の授業内容が実践も兼ねた屋敷外での学習だからである。
気持ちを紛らわそうとカトレアに視線を移すが、彼女は微塵の緊張も無いようで、むしろワクワクしているようにも見える。
「どうしてそんなに緊張しているんだぃラピス君?」
「先生……聞き間違えじゃないですよね?」
「──ああ。僕らが向かうのはメゾーテ山脈に位置するカントリオムの麓だよ」
メゾーテ山脈。ここ、メゾーテ大陸を横断するようにそびえ立つ最大級の山脈地帯である。
その中心部には天をも貫くほどの高さを誇る『カントリオム』という山が存在している。
そして、その山は別の呼び方をされる事がある。
『神隠しの山』
登頂したものは二度と帰ってこないと言われ、恐れられたことから呼ばれた異名だ。外観の綺麗さとは別に深い危険性を誇る危険極まりない山である。
先生はそんな山の麓まで行くというのだ。
「大丈夫よラピス!先生がついているもの!」
「──本当に大丈夫なんでしょうか?」
「もうちょっと信頼してくれても良いんだよぉ……」
でも、こんな二人を見ていたら不思議と安心感が湧いてくる。まあ、麓に行くだけだしな……それに先生もいるし意外と平気かも?
「さて、スケジュールを確認しようか!」
先生が俺とカトレアが見えるように紙を広げる。そこには日付とやること、それらをまとめて可愛らしい絵で描かれている微笑ましいスケジュール表が展開されていた。
「なにこれ!?この子私?」
「この白いのが俺ですか……」
「喜んでくれたかなぁ?」
ちょっとまって、なんかカトレアとの差が酷くない?
俺は棒人間に白い髪の毛がひっついて『ラピス』と描かれているのだが、カトレアはしっかり服や目までデフォルメされて描かれている。
「それじゃあ説明を始めるよぉ!」
こうして、少々不満が残るまま説明が始まった。
「──分かったかな?」
「はい」
「分かったわ」
今言われたスケジュールをまとめよう。
まず、俺達の目標は二週間以内にカントリオムの麓に到着することだ。
二週間後といえばジーラが戻ってくる日なのだが、ジーラは契約によって俺の場所が分かるようなので、その問題はすぐに解決した。
次に、ペースについて。
ここからカントリオムまでの直線距離はおよそ1500キロらしい。
いや、遠すぎだろ!と思うところだが、街からカントリオムの距離を見た時、この大陸の中では一番近いらしい。
しかし、1500キロか……
一日に大体100キロ強進まなければ到底辿り着けない距離だ。なにか方法でもあるのだろうか。
食料と休憩に関して。
二週間分の食料と余分な保存食を持っていくのは絶対だが、道中には山小屋や小規模の村のようなものもあるらしい。
カトレアと先生はこの村に行ったことがあるらしく、住民の悩みを助けて仲良くなったという経緯がある。
最後に、夜について。
メゾーテ山脈にはモンスターが湧く。特に夜には湧く量が二倍で凶暴性も増すため、大人しくテントを張って三人で寝るそうだ。
そのテントは先生が防護結界を張ってくれるから安全だとか。逆にテントから出てしまうと──
まぁそういうことだ。
話を終えた俺達は準備を各自開始する。
現在時刻は早朝四時半。早めに屋敷を発ち、山脈地帯に入る事が今日の目標だ。
俺はみんなと別れ、自室で必要な者を漁る。
「魔導書とグレイシア*ピリオドは必須だ。それと、防寒着に服の替え──」
あまりに多いと邪魔になると思ったので、本当に必要な物のみを選別し、リュックに詰めていく。
二週間母さんに会えなくなるのか……
ふと頭に母さんと姉さんの顔が浮かんだ。課題に挑戦してきた二週間。休日に家に帰って二人に会う事が強い支えとなった。
今回、遠征となるため家には二週間戻れなくなるだろう。その旨を手紙で送ったが、やはり顔を見せた方が良い気がしてきた。
「あとで先生に頼もうか」
この街を出発する前に家に顔を出そう。そう考えながら荷物は増えていく──
◇
「さぁて出発しようか!!」
「「はい!!」」
屋敷の人達と挨拶をすませ、屋敷を出発する。ハウインさんは先生と出発する寸前まで喋っていたのが気になったが、手を振って笑顔で送り出してくれた。
ちなみに俺のお願いは、先生が二つ返事で了承してくれた。
「さぁ、まずはラピス君の家に行こうか」
「ありがとうございます!」
「ラピスの家族……」
三人で街を歩く。
俺の家は街の賑わった所から少し離れた高いところにある。なので、屋敷からは少し距離があるのだ。
談笑も挟みながら歩いている中、先生が口を開く。
「ちょっとショートカットしようか!」
そう言うと先生が両手を開き、前に来てと目線で訴えかける。
……吐く準備しとこ。
先生はカトレアと俺が前に来たことを確認すると、腕でがっちり掴んで固定、両脇に生徒二人を抱え足に力を入れる。
「──『躍動』」
結界が展開された。
すると先生が大きな声を出す。
「しっかり捕まっててねぇ……アイシクル!」
「うわぁ!?」
「きゃぁぁぁぁ!?」
視界が大きく振れる。
先生の足元から氷柱が飛び出て、その反動で宙に飛んだのだろう。
「アイシクル!」
「高い高い高い高い──」
「────」
空中で二回目の加速。後ろに吹き飛ばされそうになるが、死に物狂いで腕にひっつく。
隣を見ると、カトレアは白目でブランブランしていた。先生ががっちりと固定しているため落ちることはないが見ていて危なっかしい。
「アイシクル!!」
「ちょっと楽しんでません!?!?」
「──」
次々に氷柱の足場を作り、結界で上がった速度で空を駆ける。先生はどこか楽しそうで、抱えられている俺は恐怖と戦っている。
一向に緩める気配はなく、この速度のまま数分で俺の家に到着した。
「すみません。屋敷でラピスさんの講師をしているハレスという者なのですが!」
「はーい。今開けます──ラピス……とその子は」
おっと、今母さん目線は凄い事になっているだろうな。ドアを開けたら笑顔で髪をたくし上げる糸目講師、雪の溜まったところにダイブして気持ち悪さを無くそうとする俺。大の字で倒れて目がぐるぐるしているカトレア。
そりゃ驚くだろう。
「まあ、元気なこと……それと、いつもうちのラピスがお世話になっております。本日はどのような要件で?」
「それがですね──」
母さん強っ……
事情を説明され、母さんは口を開く。
「つまり、遠足みたいなものですよね?」
「そうですねぇ!二週間空ける事にはなりますが、また顔を出しに来ます!」
「ラピス、楽しんでくるのよ!」
『神隠しの山』と聞いて『遠足』という単語が出てくるとは……ま、まあ説得は成功したのか。
ならいっか……
思考放棄v3。
「それじゃあメトーデ山脈へしゅっぱーつ!」
「出発!」
「うぇ──へ?え?」
一人置いてけぼりのカトレアを連れて俺達一行は街を出発する。
現在時刻は六時。スケジュール通りに街を発つ事ができた。
「私は……何を」
「今はメトーデ山脈に向かう道を歩いているよ、カトレア」
「え、嘘」
ほんとです。
あなたは街を出るまでおぼつかない足取りで付いてきたんですよ……
「まずは山道入り口に着かなきゃ始まらないよぉ」
「はい!」
「ち、ちょっと──」
とりあえず山道入口までは歩くみたいで、早朝の涼やかな風に冷やされながら、俺達三人は順調に街道を進んでいく。
少し経つと周りがひらけてきた。人工物はほぼ無く、まばらに木が生える真っ白な雪原へと姿を変え始めている。ちなみに今日は快晴で、雪は降っていない。
俺が辺りをキョロキョロしているとき、先生がカトレアに話しかける。
「しかし、まさか付いてくるとは思わなかったよぉカトレア嬢。いつもみたいに拒否られるかと思ったら即答だもんねぇ」
「──面白そうと思った、それだけよ」
「いやぁ、イオ様が遠出された時は頑なに屋敷から出ようとしなかったのに?」
「う、うるさいわね!」
何やら後ろで騒がしくしているが、周りを見渡していた俺の耳に届くことはなかった。
「あ、先生何かいますよ」
細長い木の周辺に白い何かが見える。おそらくモンスターではないだろうか。
加えて、よく見るとそれは一体ではなく、ざっと十体はいる。
「ん……あれはメルツェだね。練習相手にはぴったりだ」
そう言うと先生は俺を押し出す。
「彼らは雪玉を投げてくるだけで攻撃力は低く、動きも遅い、つまり雑魚モンスターだよ。ラピス君はまだ戦闘経験はないよね?」
「はい、戦ったことはないですね」
「いい機会だ。あのメルツェを倒してみよぉう!」
雑魚とはいえモンスターはモンスター。俺の初陣として倒されてもらおう。
その間、二人には後ろで見てもらう。
やばい武者震いしてきた。
メルツェ達の前に立ち、俺は杖を抜く。メルツェはちらほらと俺に気づき始め、雪玉を投げようとしている。
雑魚とはいえ、手加減はしない。授業の時と同じように…
「水弾」
バシュッという音とともに水の弾丸を三連射。弾丸に対してメルツェ達は為す術なく、全ての個体が木っ端微塵になった。
「オーバーキルじゃない……メルツェ達同情するわ」
「そっち側!?」
「ちょっとやり過ぎだけどぉ、初陣としては満点だぁね!」
こうして、始めてモンスターを討伐したものの、カトレアからの好感度は下がった気がしたラピスだった。
◇
「見えてきたねぇ。あれが山脈地帯への入口だよ」
「本当だ──」
「私は何度か来たことあるわね」
カトレアから回数マウントを取られたが、ここがメゾーテ山脈への入口らしい。
「おお……ハレスさんじゃぁないか」
「おはようございますランゼルさん。今日もお願いできますか?」
「ああ、任せておけ。ちょっと待ってな」
「分かりました」
入口に入ると、そこにはちょっとした小屋とガタイのいいおじさんが待っていた。
数分経つとおじさんは三匹のとても大きい狼を連れてきた。灰色の毛にピンと立った耳、大きく振られている尻尾はとてもふっさふさだ。
「先生これは……」
「狼ぞりだよ。ここからずっと引っ張ってもらうのさぁ!」
「結構楽しいわよこれ」
カトレアお墨付きの狼ぞりか……めっちゃ気になる。
「お代はこれで──」
「まいどあり!」
こうして、俺達三人は狼ぞりで山脈地帯を滑りまくる事になった。
「この狼はただの狼じゃなくて、ネーヴェ種という雪に特化した狼なんだよ。だから人一人くらいならとんでもない速度で安定して走れるってわけさぁ」
「へぇ……そうなんですね」
「そんなことより、早く行きましょう!」
「そうだね、行こうかみんな!」
「はい!」
先生の掛け声を合図に一斉に走り出す狼ぞり。
俺達一行の二週間の旅が幕を開けた。
読んでいただきありがとうございます!
良かったら次話もよろしくお願いします!
ここからは山脈が舞台となります!
三人の冒険を見ていってください!
( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月17日です!