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12話『入れ替わり授業』

2話と7話に挿絵を追加しました。良かったら見ていってください。(主の下手な絵ですが……)

 さて、ヒイロによる結界魔法の授業が始まった。

 昨日の冷たかった顔は何処へいったのやら、現在はふんすっ!なんて言ってそうな顔で腕を組み、仁王立ちしている。


 「これからするのは()()じゃ!」

 「というと?」

 「お主はわっちを受け入れるだけで良い──」

 「え、ちょっと!?」


 ヒイロがズンズンと近づいてくる。止める気配はなく、その足はすぐそばまで迫っていて──


 「こらっ!逃げんか!」

 「だって!?」

 「ふむ……手荒な真似はしたくなかったのじゃが、授業だから仕方ない!」


 そう言い終わるとヒイロは、右手でなにかを手繰り寄せるような動きをする。


 「うわっ!?」

 「捕まえたのじゃ!」


 気づいた時には既に肩をガッシリと掴まれていた後だった。


 「観念せい!」

 「──」


 そのままヒイロの顔が近づく。吐息が触れる程近くなったところで俺は反射的に目を閉じた。


 「──なんだ、これ?」

 『ふふ……不思議かえ?』


 脳内から彼女の声が響く。さっきまで目の前にいたヒイロの姿は無く、思考が二つになったかのような違和感を覚える。


 「俺の頭の中に入った……?」

 『その解釈で問題ないじゃろう』


 そう考えるとなんか鳥肌立ってきた。俺の体に別の存在が入っている状態だと言うのだ。


 『わっちが意識内からお主の結界魔法を補助する。一番手っ取り早い方法じゃろ!』

 「なるほど」


 ゾワゾワした感覚は残るが、あれほどの美人が中に入ってると考えると悪い気はしなくなった。


 『そうとも!わっちは美人よな!』

 「!?」


 俺の考えてること分かるんですか……いや、よく考えたら意識が同期してるわけだし、思考が読めてもおかしくはないか。


 「……それで、何をするんです?」

 『ふふ……よくぞ聞いてくれた!

  今からわっちが体の主導権を握るのじゃ!』

 「つまり、俺の体を明け渡せってことですか!?」

 『そうじゃ。──その顔は『いえす』か!

  それでは始めるのじゃ!』


 この顔で『いえす』は判定ガバガバ過ぎるでしょうよ……


 そして、流されるまま体の主導権をヒイロに渡すのであった。

 受け渡した直後、入れ替わったように『俺』を俯瞰するような感覚を覚える。


 『お主、良い杖を持っているではないか!少し借りるぞよ!』


 ヒイロが杖を振り上げる。


 『──見えるか?ラピス』

 「これは……魔力?」


 『俺』の足元の魔法陣から全身を包むように、魔力の『膜』のようなものが見える。


 『()()がわっちから見える景色じゃ。経験する者としない者には天地の差がある。お主はわっちを通じて結界魔法の骨組みをショートカットしたのじゃ』


 なるほど……そういうことだったのか。

 空間指定と言われて、自分を包むようなイメージしかしていなかったから成功しなかったんだ。

 実際は魔法陣という導線を利用し、魔力の通り道を作ることで結界を完成させなければならなかった。

 視覚として、感覚として、情報を受け取ったことで始めて分かったことだ。


 『吸収が早くて助かるわ!して、大詰めじゃ』


 そう、空間指定だけでは終わらない。その後に詠唱が成立して始めて結界が形作られるのだ。


 ──その時ヒイロは杖をもう一振りした。


 瞬間足元にあった空間指定魔法陣に重なるように一回り大きな魔法陣が展開される。


 ──二振り。


 二つの魔法陣を覆うように魔法陣が新たに展開される。


 「三つ魔法陣を!?」

 『──『飛翔』』


 詠唱が終わると猛烈な浮遊感に襲われた。いや、浮遊感ではなく『浮遊していた』。

 文字通り宙に浮かんでいたのである。


 『ふぅ……久々じゃったが、上手くいったのじゃ!』

 「────」

 『……今主導権を返せば面白い顔が見られるかも知らんな。ほれ、返すのじゃ!』

 「──!?!?!?あばふぁぇぁ!?」


 突如全身を襲う強烈なG。全身がひしゃげそうな速さである。

 なんでこの人は涼しい顔でいられたんだ!?


 『予想通り、面白い顔じゃな!』

 「止めてくださいよぉぉぉ!?」


 驚くのも仕方がないだろう。

 何故なら彼女が使った結界魔法は『上級』なのだから。


 習得難易度が最も高いと言われる上級結界。その中でシンプルかつ、難度の高い結界が『飛翔』である。

 細かい事は書かれていなかったが、魔力量によって自由自在に空を飛べるようになるらしい。


 『仕方がないのう……ほれ主導権を貸すのじゃ』

 「はいぃぃぃ!」

 

 またも意識が入れ替わる感覚を覚えながら主導権を渡す。瞬間、宙を暴れまわっていた『俺』は一瞬で停止し、地に降り立った。


 『これをやれとはいわんが、感覚は掴めたじゃろう?』

 「かなり荒いと思いますね……」

 『文句かぁ〜!?』

 「い、いえ!とても素晴らしいものを見せていただけて光栄でした!」


 もう二度とあんな経験はしたくないかな……

 思い出しただけで吐きそう。

 

 『さて、お主の番じゃ。やって見せるのじゃ』

 「──分かりました」


 感覚は掴めたと思う。いや掴めたというか、()()()()()()()()()()()()()()()


 息を吐く。吸う。


 「──」

 

 まずは空間指定。自身を覆うように魔法陣を伝って骨組みを作る。


 杖を振りかざすと足元に魔法陣が出現した。


 次に魔力を流す。骨組みに沿って丁寧に流す。『膜』を作るみたいに。


 淡い光を放つ膜ができた。


 ──最後に詠唱。


 「──『躍動』」


 成功した──という確信を得た詠唱が紡がれた途端、体が軽くなる。


 『成功……じゃな!』

 「──よっし!」


 やっと。やっとできた。

 実感がわかないが、体の軽さが成功を物語っている。

 根拠は説明できないが、もう失敗しない気がする。


 『よくやったのじゃ!』

 「ありがとうございます!」


 よく分からないが、これは白い空間でしか出来なかった事だと思う。


 これはズルではない。ショートカットだ。


 「っ……」

 『お主も限界じゃろうし、わっちも戻ろうかえ』


 そう言うと意識から一つ何かが抜け出すような感覚を覚えた。これはヒイロだろう。


 「また明日も待ってるのじゃ。

  ──よく恐怖に打ち勝ったな、ラピス」

 

 そう最後に聞こえた気がした──



 ◇



 「おっはよぉぉお!!!朝だよぉぉ!ラピスくぅぅぅん!?」

 「うわぁぁぁぁ!?」


 え。

 もう五時?


 どうやら朝の筋トレとストレッチの時間を寝過ごしたらしい。一日しか出来てないじゃん!?


 そのままの勢いで先生に抱きかかえられながらカトレアの部屋にも突撃し、両脇に生徒を抱えて先生は走るのだった。


 「はーいお疲れ様ぁ!」

 「はぁ…はぁ…」

 「────」


 鬼の追い込みが終わり、ぐったりとその場に倒れ込む。


 まだ……まだ結界は使わない。俺ではまだコントロール出来ないので、効果が強くてバレる可能性があったのだ。能ある鷹は、爪を、隠すって、ね……


 ん……意味が違うって?

 確かに……


 休憩の後に朝食を頂く。

 一日のエネルギーとなるのだ。沢山食べないとやっていけない。

 今日もお腹いっぱいになるまでご飯を放り込んだ。


 「それではぁ一限目を始めまぁす!」

 「はい!」

 「はぁい……」


 さて、今日も内容は変わらない。

 俺は俺の課題を、カトレアはカトレアの課題を進めるのだ。


 「それじゃラピス君。始めようかぁ」

 「はい!」


 はーど授業の成果を存分に見せつける時が来た。

 白い空間。の時と同じように……


 「──『躍動』」

 「…………」


 杖を振り、詠唱を終えると俺の周りには淡い光の膜が現れた。


 「これは……まるで昨日とは違うねぇ。コツでも掴めたのかい?」

 「そうなんですよ!」

 「──才能あるね。君!」


 先生は両手でグッドマークを作ってそう言った。

 ヒイロの補助があったとはいえ、嬉しいものは嬉しいのだ。俺は少しニヤけてしまった。


 「この調子で残り九個もいこうか!」

 「分かりました!」


 賑やかな雰囲気を感じとったのか、カトレアがこっちを見る。


 「なっ!?」


 カトレアは一瞬驚きの表情を作ったあと、再び真顔に戻って杖を振り始めた。

 彼女の方をよく見ると足元の土は抉れており、的と思われる氷塊もボッコボコになっている。

 あの調子だとあと少しで完成してしまいそうな気がした。

 

 「次へ!次へいきましょう先生!」

 「そうだね!それじゃあ次は──」


 この日、カトレアと競い合うように俺は結界魔法の習得を急いだ。

 結界、十個のうち三つを埋める事が出来たのだが残りは時間の問題だろう。

 必ずものにしてみせる。


 そう心に刻んで幾日か過ぎていった。


『入れ替わり授業』終──

読んでいただきありがとうございます!

良かったら次話もよろしくお願いします!


( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月15日です!


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