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10話『氷雪』

ここまで読んでくださった皆様に感謝を申し上げます!

pvや、評価を頂くことが小説を書く原動力になっています!

これからもよろしくお願いします!

 「はぁ……はぁ……はぁ……」

 「うーん……二十回中一回かぁ。今日の所は休もうラピス君。魔力切れ寸前じゃぁないか」

 「でも……」

 「先生命令だ。今日はもう休みなさい」


 新たな課題を課せられてから二日が経過した。二日前が嘘だったように進展が無い。『それが普通なんだよぉ』と言われても心は焦る。俺は普通じゃ駄目なんだから。


 ──そう、俺は今更『死』というのものが怖くなってきたのだ。


                ◇ ◇ ◇


 『死』を意識し始めたのは昨日の夜。いつも通りに白い空間で授業の復習をしていた。ヒイロは奥の方で本を読んでいて、こっちのことなど気にしていないようだ。


 ふと、だ。ふと下を見たんだ。何が映っていたと思う?

 右目の下に()()()()()()がある俺の顔だ。ゴミでもついているのかと擦ってみても取れることはなかった。


 すると、後ろから声が響いた。


 「それはタイムリミットじゃ。お主の灯火(いのち)のな」

 「それってどういう意──」

 「愚問じゃ。神毒がお主の体を蝕んでいる証拠じゃ」


 ヒイロは静かにそう言い切った。見れば分かる。分かるけど口には出したくなかったのに。


 「……今日はもう寝ます」

 「結界魔法を練習するんじゃなかったかの?」

 「──疲れたので」


 ヒイロは俺の目を見つめていた。何を考えているかも分からない顔で。そうして、この日は練習を切り上げて早く眠りについた。


               ◇ ◇ ◇


 周りの人はすぐ俺の異変に気がついた。だが、気遣ってくれたのか、それを口に出すことはなくいつも通り接してくれた。


 カトレアもあの調子だともう気づいていると思う。『俺が三年後に死ぬ毒を受けている』なんて言ったら心配をかけてしまい、普通に接することができなくなると思ってあえて言わなかったのだが、それももう駄目かな。


 授業は変わらず真面目に受けている。受けてはいる。だが、冷静さは欠いていた。


 「ラピス君? 少し眠った方がいいんじゃなぁい?」

 「──あ、すみません。大丈夫です!」


 段々と思い詰めていく俺の精神はピンと張ってしまっており、思考が狭まっていた。

 そして、焦った人間が陥る末路は間違えた選択だ。例に漏れず俺も間違いを犯してしまう。


 ◇


 今日は先生からの命令で休むことを義務付けられた。何度やっても何度やっても魔法陣は出てこなくて、代わりに魔力だけが無駄に消費される。それを数十回繰り返していたらすぐに魔力切れを起こしてしまった。


 足りない。


 これくらい出来ないと俺は生き残れない。だから早く完成させて、次のステップへ……


 足りない。


 みんな親切だ。この屋敷が有名な家系で、俺なんかが入っていい場所なんかじゃないのに家族のように接してくれる。


 足りない。


 結果を残さないと。早く。でないとジーラの隣になんて立てない。


 足りない。


 もっと練習しないと。もっとやらなければ。足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない──


 行き着く先は自室のベッド。屋敷の中で魔法を使うと先生にバレてしまうから白い空間に行く必要があった。


 ボスンッとベッドに倒れ込み、目をつむりながら意識が落ちるのを待った。


 「──今日は早いんじゃな?」

  

 前からヒイロの声が聞こえる。


 「このままじゃ駄目だと思いまして……」

 「ふむ、今日はやめるんじゃな。お主の体は限界だぞよ」

 「それでも……」

 「わっちは忠告した。あとは好きにするんじゃな」


 と言って何処かへ行ってしまった。

 逆に好都合ってものだ。

 これで誰にも邪魔されずに練習できる。


 「──『躍動』」

 「──『躍動』」

 「──『躍動』」

 「──『躍動』」

 「──『躍動』」

 「──『躍動』」

 「っはぁ……はぁ……どうして。なんで。なんでできないんだ!?」


 杖を握る力が強くなる。

 どうして、と問う。何故、と問う。諦めたい、と思う。諦められない、という事実がこだまする。

 ループ。ループ。ループ。思考がループする。


 全てを投げうつ=死。諦めずに練習する→できない。最悪の二択だ。


 「──『躍動』」

 「──『躍動』、?」

 「─『や、』」

 「、」

 「」


────────────────────────

────────────────────

────────────────

───────────

──────

──   


 「大丈夫?」


 瞼がゆっくりと開く。

 目の前には小柄な少女が僕を覗いている。

 でもその服はボロボロで、あちこちに血が滲んでいた。


 「──」

 「大丈夫じゃなさそうだね?こっちにおいで」


 寒さで意識が朦朧としてきた。

 レンズが曇っているようだ。拭かないと…… 


 「──危ない」

 「う……」


 トサッと少女に支えられながら雪に傾く。

 手足の感覚が無くなってきたなぁ……


 「私を見て」

 「?」


 少女は僕の手を強く握りながら訴えかける。なんでこんな事してくれるんだろう?

 でも……温かいな。

 温かくて……優しくて……


 「ダメ!目を閉じないで!」

 「……」


 眠くなってきた。なんか暖かいなぁ……

 はは……


 もう目の前すら見えない。耳も少ししか機能せず、ノイズだらけだ。でもなんか、心地良いな。

 こんな終わり方も、悪くない、な。


 「ラピス!!!」

 「──シュロ……ごめ、ん」

 「喋らなくて、良い……ラピス……」


 シュロ。

 嗚呼、そうだ。なんで名前を忘れていたんだろう。

 あれだけ一緒に遊んだのに。


 痺れる手を伸ばす。手の感覚は無いはずなのに何処か温かい、な。


 「はは……好き、だよシュロ……」

 「──」


 彼女の体が震えた気がする。それもそうだろう、もう僕には時間が残されていないみたいだ。

 言いたいことも言えたし、もう、良いかな……


 「絶対……」

 「?」

 「絶対に、絶対助ける!」


 もう、遅いよ……

 涙声で喋るシュロの声が聞こえる。

 やだなぁ最後くらいは笑って欲しい。笑う君が可愛いんだから……


 思っても口は動かない。本気でもう駄目そうだ。

 はぁ……もっと遊びたかったなぁ……


 ごめんなさいお母さんお姉さん。無理言って森に行ってごめんなさい。沢山迷惑かけてごめんなさい。最後に悲しませるような結果になってしまってごめんなさい。僕は先に死んでしまいそうです。


 ──終わりか。


 何処にいるのか分からない神様へ。また、僕の家族やシュロみたいな人が周りにいますように……

 それ、くらい、頼ん、でも、いいよ、ね………………


──

──────

───────────

─────────────── 

───────────────────

───────────────────────


 「──ス!」

 「ラピ─!」


 うるさいなぁ……今神様へのお願いをしていたのに……


 「ラピス!!!!」

 「!?」


 右手に痛みが走る。その反動で上半身が飛び上がる。


 「あ……」


 目を覚ますと目の前には屋敷の人達が集まっていた。右にはカトレアがいて、僕の手を握っている。

 あれ……夜?でも僕は森で、俺は白い空間で……


 「良かった……このまま起きないんじゃないかって……」

 「はぁ……どうしてこんな真似を君は……」

 「──」


 カトレアと先生が言を投げる。

 あれ、俺は何を……


 「痛っ──」

 「ラピス!?」


 酷い頭痛だ。中をぐちゃぐちゃにされるような。

 記憶が混在している……?


 少し息を整える時間をもらい、俺は正気に戻った。


 ──あんな記憶知らない。


 そもそもあの森に行ったことなんてなかった。お母さん達から幾度も危険だと言い聞かされた森だからだ。それに『シュロ』という少女は誰なのか見当もつかない。考えるほどに頭が痛くなる。


 俺はその出来事を話しそうとしたが、頭痛がそれを許さなかった。


 「ラピス。どうやったのかは知りませんが、無茶は辞めなさい。身を滅ぼします」

 「──でも!」

 「現にあなたは死にかけました。神毒関係なく、このままでは体が危ないですよ」

 「……」


 ハウインさんに正論をぶつけられる。この上なく正しい意見だ。

 どうやら俺は間違った選択をして、結果的に屋敷の人達に大きな迷惑をかけてしまったらしい。

 俺の身勝手な行動で。


 「──ごめんなさい。俺が言う事を聞かないで勝手な事をしたせいで皆さんに迷惑を……」

 「気を使う必要は無いですよラピス。子どもは迷惑をかける生き物なのですから。ねえカトレア嬢?」

 「──うるっさいわね!」


 カトレアがハウインさんに声を上げる。その光景を見ていたら、なんか心を巣食っていた黒い焦りが薄れた気がする。なんか思い詰めてしまっていたようだ。

 みんな優しいな……


 「──!?どうしたのラピス……そんな、涙を流して!?」

 「──いや……皆さんのおかげでまだ頑張れそうだなって……」


 なんで涙が……止まれよ……


 「そんなの良いのに……そ れ よ り!」


 カトレアが杖を突き出してきた。


 「まだ勝負は終わってない!早く立ちなさいよ!」

 「──」


 ──その通りだ。

 まだ勝負は続いているではないか。だとしたら、こんなところで寝てる場合じゃないな。


 「──ありがとう」

 「え?」

 「おかげで心がスッキリしました。カトレア、先生、ハウインさん、屋敷の皆さん。

  ……俺はこれからも間違えた選択をするかもしれません、それでも見守っていて欲しいです、近くで……」

 「近く?」

 「だから……」


 ここは飾らない気持ちを伝えるべきだ。心から。


 「これからもよろしくお願いします。そして、このようなことは二度としません」

 「良いよそんなかしこまらなくて!」

 「痛ぁ!?」


 良いところだったのに……

 そんな俺達を見て、周りの屋敷の面々は笑っていた。俺はこの人達とならなんでも出来る気がした。 


 それから屋敷の人達との壁が無くなったような気がする。今では食堂のメイドさんとはよく話す仲だ。


 良くも悪くも気持ちを伝える場が必要だったのかもしれないな。そう、強く思った。


 そして俺は、この最高の環境で運命に逆らうことを改めて決意した。


 「待ってろよ、マナリヤ」


 俺の人生を捻じ曲げた権化に向けて。


『氷雪』終──

読んでいただきありがとうございます!

良かったら次話もよろしくお願いします!


メモ

当主である『イオ・レネット』が遠出するのにあたって、屋敷の半分以上の人がついていきました。

ですので、現在の屋敷には最低限の使用人と、優秀なハウイン、カトレアの先生であるハレスが残されたという流れが実はあります。


( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月11日です!


追記 記憶の回想の場面を一部修正しました。

   後付けになってしまい、申し訳ないです……

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