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9話『カトレアの不満』

活動報告に書かれている投稿時間が誤っていました。すみません……

 ──カトレア視点。


 「やるわね……」


 今、私は嫉妬にも思える怒りを覚えている。その矛先はラピス。最近この屋敷に住みだした男だ。


──話は二日前に遡る。

 私は『流灯』が見れると聞いて、早朝にベランダからその光景を目の当たりにした。空一面に広がる光の渦は圧巻で、終始目が離せずにいた。


 私はそれが終わると同時に『声』が聞こえた。


 強く何かを求めるような『声』だが、その内容は認識できない。私はこれに強く惹かれた。


 正直退屈だったのだ。今の生活が。


 お母様のいない屋敷、生活に意味は無い。まして、いつ戻ってくるか分からないというのだから、全てに力が入らない日々だった。そんな中で風向きが変わるような出来事が重なったのだから『声』に惹かれたのは必然とも言えるだろう。


 私はハウインに無理を言ってなんとか探索隊の一員となり、声の元に近づくことが出来た。

 だが、洞窟内中腹近くのフロアでモンスターと交戦中にそのフロアが崩壊。


 「カトレア嬢!?」

 「!?」


 足場が一瞬のうちに崩れ、バランスを保てなくなる。そのまま私は下へと落ちてしまった。


 「幸い……杖はある」


 落下中杖を落としそうになったが、気合で握っていたため滑り落ちることはなかった。

 だが、着地地点が悪く足にダメージを負った。


 「こんな時に先生がいればすぐに治ったのに……」


 ううん、とその考えを振り切る。

 それより──


 「これは……」


 瓦礫の反対側からぞろぞろとモンスターが這い出てきた。普段の洞窟ではあり得ない光景だ。

 何かがおかしい……違和感を感じる。何か、別の意志が介入しているような。


 「まあいいわ。ひとまず道を開けてもらうわよ──」

 

 思考する前に目の前の問題を対処しなければ始まらない。少々骨が折れるが、蹴散らして合流する程度なら出来るはずだ。


 ──敵は五体。横一列に並んで馬鹿みたいに走っている。真ん中三体を崩せば通れる。

 考えて直ぐ実行に移す。


 一番安定する魔術は……


 「鎌鼬(かまいたち)


 風の派生魔法『鎌鼬』。風刃を思いのままにコントロール出来る魔術だ。

 狙い通り真ん中三体に風の刃が突き刺さり、その巨躯が横に吹き飛んでいく。

 私はそれを確認する前から走りだしている。足の怪我をカバーするために結界も用いながら。


 「よし、抜けた。早く上への通路を探さないと──」


 私は油断していた。

 いつもの洞窟のように走ってしまっていたのだ。それが意味する事とは──


 「──がっ!?」


 視界が大きくブレる。結界によって強化された速度を保ったまま瓦礫に足を取られ、私は盛大にコケた。

 速度が速度だったので上半身を地面に打ち付けるように数回転、受け身も取れずに地面に衝突する。


 やらかした。


 息を整えている間にも後ろから走る音が聞こえる。駄目だ、冷静になれ。


 「はあっ……はぁ………………はぁはぁはぁっ」


 恐怖心が心を蝕んでいく。モンスターとは何度も戦った事があるのに……なんで……

 いやあの時は『授業』だった。隣に先生がいて、なんら危険は無かったのだ。だから平気だった。

 でも今は違う。先生はいないし周りに人の気配は無い。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


 足の震えを抑えてる間にモンスターが追いついた。嗚呼、もう、ダメなのかな……

 反射的に私は目を瞑った。

 次の瞬間全身に痛みが────走らない?


 「怪我はねぇか嬢ちゃん?」

 

 目を疑う光景が広がっていた。

 私に飛びかかってきたモンスターが何処から現れたか分からない一匹の鼠に蹴り倒されていたのだ。

 しかも喋りかけてくるという始末。頭の整理が追いつかないが、感謝をしなければならないと、反射に近い速度で返事を返す。


 「──ありがとうございます」


 どうやら私は助かったらしい。


 その時、聞き覚えのある声が後ろから響いた。安心する場面のはずなのに、やけに嫌な予感がするのはどうしてだろう。


 「はぁ……」


 始まってしまった。何故かハウインと命の恩人が戦いを始めたのだ。私はすぐに止めにかかったが、その努力虚しく、大規模魔法が飛び交う戦場となるのは早かった。


 少し経つとハウインが膝を付いた。駄目だ、と内心で思った私は二人の間に走り出した。


 「待って──!その方は危険じゃない!私のことを助けてくれたから!」 


 やっと言えた。

 すると、それを聞いて呆れたように首を振る鼠と動揺するハウインが見られた。


 「何があったんだこれ……」

 「勘違いが引き起こした事故だぜ事故」


 !?!?!?

 気づいたら横に少年が立っていた。驚くほど真っ白な髪にズタズタで血の付いた服。声を聞くまで気が付かなかった。それから訳の分からないまま、私達は一緒に上へ向かうことになり、道中話を交わすことになる。

 その中で白髪の彼が私と同じように『声』を聞いて洞窟へ来たこと(望んで洞窟に来たわけではないことを後で知る)、私が蒼に選ばれたということも知ることになった。


 私は驚かなかった。何故なら蒼の素質についてお母様から聞かされていたからだ。私が選ばれる確率が高いということや、その詳細も。

 逆に彼、ラピスと呼ばれる白髪の少年は私が素質持ちなのに酷く驚いている様子だったけれど。


 その話を受けて私はハウインにお姫様抱っこされ、ラピスはジーラに雑に担がれて向かうことになった。


 あれ……大丈夫なの?


 ラピスは涙目でジーラに捕まっていた。私は絶対にされたくないな、と密かに思った。


 「執事長!カトレア嬢!無事でしたか!そしてそちらの方々はだ…どなたでしょうか!?」


 探索隊に合流すると、先生がこっちに走ってきた。相変わらずの元気さで、手を振りながら声を張り上げている。

 これで安心かな、と私は思った。それが間違いだと知ったのはすぐで──


 「全員伏せろ!」


 辺りに先生の声が響く。私は何事かと考える前に先生の言葉に従った。次の瞬間辺りに深い霧が広がった。私はすぐに伏せたので先生の結界内に入ることができ、霧の影響を受けずにいる。

 だが、反応出来なかった大多数は糸が切れたように倒れている。違和感の正体がここで明かされる事になるのだが、全く嬉しくない。


 先生は忙しなく人々を結界内に運び、安全を確保していった。結界外の出来事は霧が深すぎて見ることが出来ないが、戦闘の音が聞こえる。


 「──ラピスがいない?」


 見渡しても彼の姿は見つからない。結界の外に取り残されているようだ。


 まさか巻き込まれた!?


 会ってから短くはあるが、それが彼を気にしない理由にはならない。加えて激しい爆発音のようなものが洞窟を揺らすというのだから不安は尽きない。


 それから数分、霧が晴れ視界が明瞭になった。

 見えた人影は三人。ハウイン、ジーラ、そしてラピスだ。ハウインは肩で息をしていて、ジーラはラピスの元に駆け寄っている。ラピスの姿が良く見えない。


 ハレスが結界を解き、障壁が無くなった。

 そこでジーラ達のいる所へ向かった。


 「──白髪!?」


 私が着いた頃に、ラピスが倒れた。顔は真っ青で手足が痙攣を起こしている。

 私は間髪入れずに先生を呼んだ。それが最善だからだ。先生は彼に応急処置を施し、治癒魔術をかけた。

 それでも容態は一向に良くならず、屋敷へと運ぶことになった。

 そして私は、彼の無事を祈りながら他の人の対応にあたるのだった。


 それからなんやかんやあって何故かこの屋敷にジーラとラピスが住むことになった。それを聞かされた時は啞然としたものだが、『別に良いか』という気持ちと『何で?』という気持ちが反発し、ハウインと口論になってしまった。結局彼が屋敷に住みこみで授業に参加することになった理由は教えてくれなかった。

 そうやって不満が残るものの、私は了承することになったのだ。


 ──ということが一昨日に起きた全て。

 まだ、私は彼を認めていない。いや、認めたくない。急に授業に参加したと思ったら初めてなのに派生魔法を使いやがったのだ。で、あるからして私のプライドはとても傷ついた。

 

 「何で上手くいかないのよ!?」


 私は十歳になってから魔法の教育を受け始めた。だから彼とは三年のアドバンテージがあるはずなのだが、私の数ヶ月がものの二日で達成されたものだからどうにも面白くない。

 絶対に先に課題をこなしてやる──そう対抗心を燃やし、私は杖を振り続けた。


               ◇ ◇ ◇


 ──ラピス視点


 なんかカトレアに凄い睨まれてる……

 今、俺は二つ目の課題に挑んでいる。先ほど一つ目の課題をあっさりと終わらせてしまったために、増やされた次第だ。

 しかし、先ほどから妙に落ち着かない。それもそのはず、カトレアに凄みのある顔でめちゃくちゃ睨まれているからである。

 これって俺が悪いの!?

 実際に口に出す勇気なんて無いので勿論心の中で呟く。


 「よそ見しない!ほらまずは空間指定からぁ!」

 「はい……」


 よそ見していたら先生に怒られた。ごめんなさい……でもこれ俺が悪いんですか……?

 それはさておき、今俺が反復練習しているのは空間指定だ。結界魔法は攻撃魔法と異なる工程を挟む。それが空間指定。今俺が悪戦苦闘するハメになった元凶でもある。


 「……」


 『空間を指定する』という感覚が分からないため、範囲指定の魔法陣を出す→詠唱、の中で『範囲指定の魔法陣を出す』ことができずにいる。

 先生は苦手だからといって出来ないわけではないので、成功例を何回も見せてもらってはいるが、依然として分からないままである。


 「攻撃魔法はすんなりいったのにねぇ……」

 「どうすればいいのでしょうか」


 先生に問う。

 

 「これは時間の問題だと思うねぇ。まだ魔法に触れたばかりで、脳が理解できていないんだよ」

 「……というと?」

 「つまるところ、ひたすらに反復して脳に刷り込むことが最善だねぇ」

 「やっぱりそうなりますか……」


 結界魔法に関してはまだまだかかりそうだ。

 こうして、この日はひたすらに空間指定魔法陣を出すためのイメージトレーニングに全てを費やすことになったのだった。


『カトレアの不満』終──

読んでいただきありがとうございます!

良かったら次話もよろしくお願いします!


カトレアは重度のマザコンです。

( ゜∀゜)o彡°次回更新は3月9日です。よろしくお願いします!


追記──ラピスは授業後にしっかりと手紙を出しました。内容は、『休日が1週間に一度ある←その日は家に帰れる』です。

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