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ファンタジー

我が家が聖女様のホームステイ先に選ばれた

作者: めみあ

春ごろにに投稿した、『身代わりで王になった夫が異世界から戻る日』にでてくる家族の話です。




 玄関を開けたら天使がいた。見た目は成人しているので女神といった方がいいのだろうが、あどけない雰囲気もあるので天使でいいと思う。でもそんな存在が我が家にいるのはおかしいし、もしかしたら私は既にこの世のものじゃないのかもしれない――



「若葉、気持ちはわかるけどそろそろこっちに戻ってきなさい」


 母の声に我に返る。やはり生きていた。あまりにも清らかな存在を目にして意識を飛ばしていたらしい。少し冷静になったところで、天使の後ろに知った顔を見つける。


「あ、宰相様! お久しぶりです。王様は元気ですか?」

「そなたはあいかわらずだな。もちろん王は息災だ」

  

 宰相様と呼んだがあだ名ではない。彼は異世界で宰相を務めているお偉いさんだ。父が異世界の王の身代わりをしているあいだに仲良くなり、父が帰還して一年経った今も親交が続いている。



「それより宰相様、そちらの美しすぎる人は?」


 もう少し再会を喜びたかったのはやまやまだが、ニコニコとこちらを見ている天使の視線が気になってそれどころではない。


「ああ、この方は我が国の聖女である」

「せいじょさま……?」

「ほら、ゲームの白魔法士みたいなものだよ」


 私が聖女という存在をわからないと思ったのか、宰相様の横にいた父がわざわざ注釈した。もちろん本物に会うのは初めてだが、小説やアニメの聖女なら知っている。


「立ち話はそのくらいにして、玄関で話す内容ではないし、中で要件を聞きましょうか」


 母らしくなく話の途中で割り込んだことと、少し棘のある話し方が気になったが、要件も気になるのであとで聞いてみることにし、私もリビングへと向かった。


 



 

 要件は数ヶ月の間、聖女様を我が家に置いてほしいというものだった。


「我が国に迷いこんで戻れない者たちがいるのだが、言葉が通じずこちらの世界の者かもわからないのだ。聖女は耳がよく、言葉を覚えるのが早い。彼女にこちらの語学を学ばせたいのだが、どうだろうか」


「わたくしは困った人たちが元の世界に帰れるように手助けをしたいのです」


 小説のように、異世界に迷い込んでしまう人がいるらしい。それなら元の世界に早く戻してあげたい。

 これは断れる案件ではない。

 ただいつもならすぐに賛同する母がおとなしい。


「もちろんそんな事情なら協力するよ。フィリー」

 

 父が優しい声で答える。フィリーと呼ばれた天使は相合を崩し「ありがとうございます、おとうさま」と答えた。


 おとうさま?


「だからその呼び方は誤解を招くからやめてほしいと言ってるのに」

「あ、また呼んでしまいました! 申し訳ありません」


 頬に手を当て恥じらうフィリー。それを微笑ましく見ている父。


 ――お母さんの不機嫌な理由はこれか。やきもち焼きだからなあ……


 

 それとなく、おとうさまと呼ぶようになった経緯を聞けば、自分の正体を知る者には王様と呼ばれたくないと父が頼んだからだそうだ。

 

 なので宰相様は父のことをショウゴ殿と呼び、フィリーは幼い頃に両親を亡くしているのもあり、おとうさまと呼ぶようになった。


「お父さんが王様の偽物だって知ってたんだ?」

「はい。はじめからこの件には関わっていますので」

 

 年齢は私の一つ下の26歳らしいが、若いのに責任ある立場のようだ。ここに来た理由も人のため、国のため。とりあえずいい子なのもわかった。


 「わかりました。フィリーさんは責任もってお預かりします。フィリーちゃんよろしくね」


 母もそんなフィリーを気に入ったのか、おとなげない態度を改め、彼女に笑顔を向けた。


 

 


 

 そんな感じで聖女様の短期ホームステイのようなものが始まった。


 見るもの触るもの全てに驚くフィリー。電気水道ガスからはじまり、テレビ洗濯機冷蔵庫パソコンなどの電化製品に目を丸くし、興奮からか熱をだしてしまうほどだった。

 

「ごめんなさい」


 布団にもぐり、すまなそうな表情で看病をされるフィリーを見ていると、病気になり気弱になるのは異世界人も同じなんだなと思ってしまう。

 

「ここでは癒しの力みたいのは使えないの?」

「はい。魔力は使えませんので……」

「やっぱり魔法を見るならあちらに行くしかないのかー」

 

 少し悔しそうに言えば、フィリーは「そんなに魔法が見たいのですね」とくすくすと笑った。

 



 元気になり、フィリーは本来の目的である語学の勉強をはじめた。今はヒアリングで数カ国の言葉の雰囲気を学んでいる。


「このパソコンというものは本当に便利ですね。なんでも知ることができて、どこにでも繋がるなんて」

「あちらの世界とも繋げられればいいのにね。そうすればフィリーといつでも話せるし」


 離れたあとのことを思いそんな言葉をかけると、「私もそう思っていたところです。同じ気持ちですね!」とフィリーはとても嬉しそうに笑い、私はなんだか柄にもなく照れてしまった。



 フィリーに外の世界をたくさん見てもらいたかったのだけれど、この国の空気はフィリーにとってあまり良いものではないらしく、極力家から出ないようにと宰相から言われている。

 それは本人も納得のうえでここに来たと言うが。


「でも気晴らしは必要よね」

「少しなら大丈夫じゃないか? 閉じこもりきりでは心が病んでしまう」


 両親は言い訳を並べて彼女を短時間だけ外に連れ出すことにしたようだ。とはいえ、金髪碧眼で自ら発光しているかのような輝きを放つ女神をそのまま連れ出せないので変装は必要。


 とりあえず焦茶のウィッグに帽子をかぶせ、地味な眼鏡をかけマスクをし、Tシャツにジーンズというラフな格好にしたが、輝きは抑えられなかった。


「車だし大丈夫でしょ」

「夜だし」

「すぐ帰ってくるし」

「はい!」

 

 

 フィリーは街並みや車の行き交う様子を眺めながら感嘆の声をあげ、信号で止まるたびに「赤ですね」と言い、車内は和やかな雰囲気に包まれた。


 1時間にも満たないドライブだったが、初めてだしこのぐらいにしておこうかと家に戻ろうとすると、フィリーがちょっと待ってほしいと言った。


「あの……実は寄ってもらいたいところがありまして……」


「あまり遠くなければ連れていってあげるよ」


 父は気楽に応じたけれど、彼女の表情はなぜか硬い。

 

「どこに行きたいの?」


 やっぱりいいですと言い出しそうな雰囲気だったので、私が水をむける。


「あの……世界を救った勇者様の家……です。ここから近いので」


 と住所の書かれたメモを取り出した。


「「「は?」」」


 いやまさか元勇者が同じ町にいるなんて。



 移動しながら聞くと、15年前に魔王が復活し、魔術師たちがそれに対抗するために異世界召喚をおこない、その際に召喚されたのがこの町に住むという男だそうだ。


「やっぱり拉致もしてたんだ……」

 小説や漫画のようなことが現実でもおきているとは。


「ええ、前の王の時代はそういったことが頻繁に行われていました」


 (えっと、15年前はまだ前の王だったってことだよね。じゃあ今の王様が即位したのはそれから数年後だろうし、お父さんは10年間王様の身代わりをしていたから……ということは)


「今の王様のイメージってほぼお父さんなんじゃないの?」

「そうなんです。でもそれが良かったようで、今は平和になりました」


「ははは、みんなが頑張ってくれたからだよ」


 父は得意げに笑っているが、きっと宰相様がかなりフォローしたのだろう。

 

 そんな話をしていたらフィリーがここですと言い一軒の家の前で停車させた。


 その家は世界を救った勇者が住んでいるなんて誰も想像すらしないだろう、普通の建売住宅。


「勇者様は、この世界に戻る際に記憶を消してほしいと望みましたから、あちらのことを何も覚えていません」

「え、なんで?」

「……世界を守るためとはいえ、多くの殺生をしたことに苦しんでいました。自分はそれが耐えられないから全て忘れたいと……」


 フィリーの寂しげな表情をみて、もしかしてと思う。


「フィリーは勇者様のこと、好きだったの?」

 

「……はい。初恋でした。私はまだ10歳で子どもでしたから、どうして元の世界に帰るのとか、忘れないでほしいとかワガママを言いました。今なら気持ちはわかります。ただもう一度顔を見たくて……」


「知らないままの方がいいこともあるよ?」


「生きていることをこの目で見たいんです」


 揺るがない目で見られれば、わかったというしかなかった。



「でもここにずっと停めていたら不審者扱いされるからなあ」

 父が家を見上げる。日曜の19時。家の照明が消えているのでどこかに外出してまだ帰ってきていないのかもしれない。


「……もう少しだけ待ってみるか」



 ほどなくして家主は柴犬と共に現れた。散歩から帰ってきたところらしい。隣には恋人か妻らしき女性もいる。勇者というからにはイケメン細マッチョを勝手に想像していたけれど、タンク職が似合いそうなガチムチ系で驚いた。

 


 父はいつもの飄々とした態度で車から降り、この辺りに住んでいた恩人に会いに来たけど迷ってしまったと言い、大通りへの道を教えてもらっていた。


 その様子を後部座席から表情もなく眺めるフィリーがなんだか可哀想で、思わず手を握ってしまった。



「お幸せそうで良かったです。声も聴けましたし。連れてきていただいてありがとうございました」


 車を出発させてからしばらくしてフィリーが笑顔を浮かべてお礼を言った。

 




 それからのフィリーはより一層語学の勉強に真剣に取り組むようになった。ちなみにフィリーが日本語が堪能なのは勇者から教わったからだそうだ。


 そういえば宰相様も我が家に初めて来たときに日本語を流暢に話していた。スキルかなにかだと思っていたが、ただ優秀なだけだった。


 

 お菓子を一緒につくったり、映画を観たり、たまに近所をドライブしたりして過ごしているとあっというまに月日はすぎた。


 そして別れの日。宰相は約束通りの時間に現れた。



「またクリスマスに遊びに来ます」

「待ってるぞ」

「ごちそうを用意しておくから」


 数ヶ月後に会う約束をし、私たちはしんみりとした雰囲気にならないようふるまった。


「またね」

「はい」

 

 

 ひとことだけの別れの言葉。住む世界が違うから、もう会えない可能性もある。もっと言葉を募るべきか迷ったけれど、これ以上話したら泣いてしまいそうだったからやめた。





 その後フィリーは迷いびとの保護に力をいれ、彼らの話を聞き、願いに応じられるよう尽力しているという。


 あと、王家が聖なる血を残すためにフィリーとの婚姻を望んだが、彼女はハッキリと断ったらしい。






「自分の人生は自分で決めたいんです」


 約束通りクリスマスの日にやってきた彼女は、とても生き生きとしていた。


「もし王家がしつこいようなら逃げるんだよ」

「そうね、そうしなさいよ」

「確かドラゴンの鱗が押し入れにあったよね。それを売れば衣食住の心配はないから」


「おとうさん、おかあさん、若葉さん、ありがとう」


 涙ぐむフィリーに母が手を重ねた。

 いつのまにか母はフィリーにおかあさんと呼ばせているようだ。


 まるで昔からいたかのように、四人でテーブルを囲み団欒する私たち。


 ――もう家族だよなあ。


 私はフィリーになんと呼ばせようかと思いつつ、ケーキを二口で食べ終えた。



 







読んでいただきありがとうございました。


矛盾点などあると思いますが、いつもこんな感じだからな、と流してもらいたいです……



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