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幸太朗泣く

 森田さんに覆いかぶさったまま、今度こそ刺される!と思って目をつぶった。もうどうしたら良いか分からなかった。その時、


「あかりっ!」


珍しく私の下の名前を叫ぶ幸太朗の声がして


「ぐぎゃあ」


潰れた時に人が出す声がして、


「こいつ催涙ガスで目潰す?」


間中の不気味な声と


「俺の汗臭いTシャツでまず縛ってやる。あとで新品買ってね。」


という細田の声がした。


 恐々と顔をあげると、雨の中、黒いレインコートの人をうつ伏せに幸太朗が馬乗りになって押さえていた。間中はその人の頭に腰かけて腕を後ろ手に固定し、細田がTシャツを破って紐状にしたもので縛っていた。


 飛ばされた刃物、横倒しになった2台の自転車、間中の傘は折れて路上に転がっていた。傘、戦ってくれたのか。


 私が勝手に抱きついた形になっている森田さんはと見ると腕から血が出ていた。ブルブルと震えていた。


「もう大丈夫なはずだ」


そう言う私の声も震えていた。制服のポケットからティッシュを出して森田さんのケガの血を拭った。幸い血管とかではなく沢山血が流れているわけではなかった。あまり深くは無さそうで安心した。刺されたというよりは刃先がかすった感じだろう。


 ほどなくして騒ぎが聞こえたのか、校門の守衛室から守衛さんが来て通報してくれて警察がやってきた。


 それぞれ事情を聞かれたが、刃物があったこと、森田さんの腕の刃物によるかすり傷から傷害事件となって、幸太朗達の行為は正当防衛にあたると言われた。


 森田さんのケガは軽かった。


 良かった。本当に良かった。



「よしよし。大丈夫か?幸太朗?」


取り調べが終わってそれぞれの保護者が迎えに来るのを待っている間ずっと幸太朗が私の足にしがみついて離れないばかりか泣いているのだ。よく涙が枯れないものだ。貸してあげたハンドタオルがずぶ濡れだ。


「如月、雨、血、傘…」


しゃっくりをあげながら号泣していて全く酷いものだ。血、確かにセーラー服の白地についてしまったが、私の血ではないのだ。幸太朗のお母さんが迎えに来てあまりの泣きように幸太朗が怪我したのかと慌てるほどだった。


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