【ショートショート/SF】 始まり
「神様、どうかお助けください」
某国の首脳、Ⅾ氏は必死に祈った。第n次世界大戦が勃発し、各国がミサイルを打ち合っている。地球は虫の息だった。
「私は、まだ死にたくないのです。お願いします、神様」
すると突然、Ⅾ氏の目の前がぱっと光り、彫刻のように白く美しい顔の女性が現れた。
「そなたの願い、聞き遂げよう」
Ⅾ氏はぽかんと口を開けたが、夢か現実か分からぬこの機会を掴み損ねてはいけないと思い、早口に言葉を続けた。
「これまでの記憶を全て消して、別の世界で暮らしたいです」
「どんな世界だ」
「緑豊かで、ミサイルも爆弾も、戦争もなく、金や権力を求めなくていい、そんな世界で過ごしたいです」
「分かった、その通りに創ってやろう。ただし、私が干渉するのは最初だけだ。あとは好きにすればよい」
Ⅾ氏は好都合だと思った。神様の気分で世界を変えられてはたまらない。
「ぜひそうしてください。神様、お願いします」
まばゆい光が辺りに満ち、Ⅾ氏は目をつぶった。遠くから神様の声が聞こえた。
「やれやれ。三百万年前にも同じようなことを言われたな」
*
誰かにゆすられ、男は目を覚ました。空腹だ。毛皮の上から腹を撫でた。
石を割ったような刃物を持っている仲間に促され、男は洞窟を出た。