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ここは四話。講習とそのあと。

 アイラが二階の突き当りにあるという学習室にやってくると、そこでは筋肉の山が紙を魔術で印刷していた。

 入っていいのか迷うが外で待つのもめんどくさい、と感じた彼女は普通に入室する。


「こんにちは。講習はここですか?」


「おお、もう来たのか。下でだらだらしてから来るのかと思ったぞ。連絡はすでに受けているから準備は済ませていたぞ」


 彼、ダルレアンはそういうと魔術印刷を止めて白板に黒の棒で「今日の講習」と書き込んだ。無駄に達筆であった。

 その後一枚の紙をアイラに渡し、隣で説明する。


「まずはこの紙に名前と忘れてたら覚えているだけの情報を書いてくれ。信仰の欄は心当たりがあればでいい」


 アイラは名前を書き、めんどくさいので二日前その辺に断片的な記憶で投げ込まれた、と書いた。この紙はただ文字が書けるかを確認するだけなのでこれでいいとのこと。ここで言語が違ったり名前が書けなければ何かしらの処置が下される。

 講習期間の延長だったりが主で、名前の場合は態とである場合も多いから慎重に事を運ぶとかなんとか。

 ダルレアンの説明でミャルナントは、大二柱の許可制なので大抵は連れ出した神が根回しをしていることが殆どであるのだとか。


 そのあと一日の始まり方を聞かれ、時計が読めるかを確認された。ダルレアンは何かを書いてから、簡単な四則演算と語学力のテストを渡されたのですらすらと解いて返す。


(知らない単語もあったので語学力は満点とは言えないけど、四則演算のほうは行けたよね)


 そう思って窓に視線を向ける。

 とても昼寝日和だ。ここで寝てしまいたくなる陽気である。人間、とりわけ子供は教室での昼寝が好きらしい。


「えっと、一般常識はおおむねクリア。となると残りの講習は世界の成り立ちと現状、そして犯罪とそれに対する法規定などだな」


 眠気で話が聞き取りにくく、刷り込みのような形で聞くことになってしまう。ダルレアンが止めないので、まぁ大丈夫なのだろう。


 そして世界は灰色からだの、世界は大二柱と十二柱、そして旅神がこの世界にいることで成り立つだの、ダルレアンの主神は酒癖がひどく十二柱に迷惑をかけているとかとか。大二柱に迷惑を掛けていないか、など心配が尽きない様子だ。


「そういえばアイラはこの世界の住人が旅をする理由を知ってるか?」


 旅、というのはアイラにとってそれなりに興味があるのでここだけしっかり聞こうと体を持ち上げる。半目がちでダルレアンが見えないが、意識はしっかりしている。


「いや。私は来たばかりなので」


「だよな。実はこの世界に居る旅神や十二柱はたまに祈願祭を開いていてな、旅人はその祈願祭で自分の願いをかなえてもらうために世界を巡ってるんだ」


 祈願祭、それは神の暇つぶしであると断言できるほど神の趣味に傾いた祭りなのだそう。実行神、運営神、人間側の参画は自由を保障されている。参加も自由で、あまりにも内容がひどい場合は批判も平然と言えるらしい。

 そんなだから神に挑み恥ずかしい祭りを強制的にやめさせる人間も現れる。底辺の神がたまに無人でむなしく祭りをしている。

 そんな祭りは願いを叶えて貰える事がある。量と質は決められているが、質問くらいならいくらでも通るのが通説だ。

 自分に合う商売は何ですか、とか無くしものを知りませんかとか。たまに自分の神が恥ずかしいので制裁を下せませんか、とかもあるらしい。

 もちろん願いが叶えられても、それは試練を達成してから、という場合で祈願者に困難が降りかかるときもあるので油断はならない。

 クリアできるかできないかの難題を与えられるので試練者があまりにも腑抜けていたり、奇抜すぎる趣味を持っているとたまに恥ずかしいことになる。

 試練者は内容と名前が公表されるのだ。その器に見合わない大願を願った祝福すべき修練者というお題目で。

 まさに神の暇つぶしである。神側にも規定と趣味や矜持はあるので本当に時と場合で結果と経緯は様々だ、とダルレアンは締めくくる。


「技術神なら技術関連以外の質問には答えてくれるし、願いの上限回数がもったいないから武器位貰ってきたらどうだ? って受講者がなんかめんどくさい顔をしているのでこれにて講習は終わり! まぁ元気がありゃ行けばいいさ」


「ういす。ありがとうございましたー」


 アイラは聞いたことを頭の中で丸めてほっぽり出して講習を終えた。なかなかに信じ難いが、事実らしい。

 自分を起こしたのも旅神なのかな、とか思いはするもののとりあえず旅して母親を見つけることを優先しているので技術神あたりに訪問しようかな、と考えたあたりで部屋の鍵を閉められかけたので慌ててアイラは部屋を出た。ぼーっと考えすぎたようだ。


 ◇


(なんかいろいろ聞いてたら終わった。ご飯食べてみようかな)


 アイラが階段を降りるとソレアに呼ばれたので再度受付に向かう。職員以外のほかの人は大分減っていて、建物の中は伽藍としている。

 


「よしよし。計算や言語も大丈夫だね。この世界では基本的にこのやり方で通るから安心するといいわ。これに記入してね……はい、これ証明板」


「これが例の証明板ですか。なんか普通の板ですね」


「まぁ、あんまり特別にしても中身が無いからもったいないわ。とは言っても神力が入ってるから材質だけで言えばそこそこの物だとは思うけど」


 至人証明板と呼ばれる長方形の板にはアイラの名前と魔獣の討伐数にちょっとした依頼書達成数しか表記がない。

 実は基本的に生活するだけなら至人――ミャルナントのことらしい――である証明もいらない街の仕組みになっている。

 これがあると少しだけ暮らしやすくなる、というだけの話で魔獣を討伐したり依頼書などで暮らさないならなくしても問題が起こることはそうない。

 つまりはよくこの世界においでくださいました、というだけの板でありふれたものと化した存在だ。

 ついでに言えば魔獣討伐などを生業とするこの世界の人も同じ物を貰っている。

 銀行のカードとしても使えるが別で作ってもそんなに変わりがないとか。


 そんな説明を開けっ広げに聞いたアイラは少しだけ嬉しかった。なぜならば結構普通として扱ってくれるのだな、と思ったからだ。

 そうなると、昼間の視線はただアイラが奇異に見られていたということに気が付いていない幸せな頭である。


「ところでアイラちゃんはもう宿とった? 取っていないなら三階がすこし開いてるわよ。加入して少しの間しか入れないから気軽にどうぞ」


 アイラはその言葉に宿があることに安堵を感じ、野宿だと怪しまれる、そして社会生活になれないと、と焦りを覚えた。

 宿はこの協会支部では単に職員用の部屋を宿として用意しているだけで宿泊用というわけでもないが、必要になった場合には使用しているらしい。


「あっ。取ってないです。手続きお願いします」


「はいはい。ここに魔術でサインは……できないのね。じゃあ電子でいただくわ」


 実は魔術という魔術が使えないということに、魔獣との戦いで気が付いた。正確には特定の魔力だけを放出させることはできない、だ。魔力放出は灰霧になるか空気と同比率の魔力しかだせないので魔道具が反応しないのもここで知った。


「証明板は神力で出来ているから、心配しなくていいわよ」


 創造、破壊、再生の魔力比率が空気に近い人はミャルナントにはそれなりにいるのでアイラは何も言われず電子操作で入れる部屋番号と部屋を伝えられた。


「電子証明ってこの世界だと技術神様の加護があるから成立してるけど、よその世界だと信用が成り立たないと使えないわよね」


「ですね、とはいえこの世界でも銀行なんかは信用業じゃないんですか? 詳しいことは知りませんが」


 まぁそうなんだけどねーっと返事をしながらもソレナは手元で電子板を操作している。そうこうしてアイラはカギを渡された。


「部屋はあとで見ればいいわ。夜までまだ時間があるからお金を証明板に入れるかおやつを食べてゆっくりしなさい」


「はい。ソレアさん、ありがとうございました」


 アイラは後ろを向き、特に必須ではない食事を始めることにした。

 座る場所は、壁際の日差しを背に受けられるカウンター席だ。


 座ってメニューを読んでいると、前から水が渡される。渡してきたのは白衣を着た恰幅のいいおばちゃんだ。


「いらっしゃい、夏と麦綿亭へ。初めてのミャルナントさん。注文はどうするさ」


 それを聞いて慌ててメニューを読み始め、その種類の多さにアイラは悩んだ。知識を得たとはいえ、ほとんどの料理が初見だ。あれはどう、これはどうと悩みに悩み答えをだす。

 太陽という名前に、どこか惹かれたのだ。


「ティメトの太陽焼きでお願いします」


「あいよ! 少しだけ時間かかるよー」


 快活そうな声で答える推定料理長は冷蔵庫へと向かった。

 調理風景を見てしばらく待っているも、窯に入れれば調理風景の動きはなくなる。手持ち無沙汰で落ち着かなげに周囲を見渡すアイラを見ておばちゃんは声を掛けた。


「ミャルナントさんはこれが初めてのご飯かい?」


「ミャルナント……あ、えっと、そうですね、これが初めてになると思います」


 挨拶と返事をしながら背中の日差しを満喫するアイラ。


「おっと、アイラちゃんね。よろしく。アイラちゃんの初めましてのご飯、それは光栄だね。私の太陽焼きはソレア直伝さ。きっと満足するよ」


「おお、楽しみにしてます。調理場に居るからわかりますが、ソレアさんも料理上手なんですか?」

 

「というか、太陽焼きは彼女がこの街に流行らしたものだからね。この街のティメトを見て作っていたら美味しいそうな匂いでいろいろな人を誘惑したとか、なんとか」


 ほら、と言われアイラが鼻をスンスンと鳴らすと辺りの匂いは食欲を湧かせ、どこからか音が鳴りそうな匂いへ変わっていった。

 お腹が空くことはないアイラだが、つい空腹になりそうな匂いでついお腹を押さえてしまう。

 その匂いで見た目と味を想像して暫く経つと、それはできた。

 

「あいよ! ティメトの太陽焼きお上がり!」


 アイラは出されたそれに目を見開き、まずは見た目から分析する。


(おお! 丸い生地の上にティメトのペーストかな? そしてティメトの輪切りとチーザが乗っていてめっちゃおいしそう。この香りを抱いて寝たいほど心地よくなるね)


 まず少し頬張れば口の中にはティメトの酸味。そして駆け抜ける香草の香りでガツンと舌に刻み込まれたチーザのコク。まさに草原を照らす太陽の如しだ。一緒に出されたサービスの乳清と一緒に飲めば無限に食べられるだろう。

 アイラが黙々と食べる様は小動物の様で見るものを魅了し、ソレアなどの女性職員は熱視線を送っている。食べることに集中しているアイラはそんな環境をものともせずたっぷり時間をかけて完食した。


「お代はこれ、でいい?」


「ああ、いいとも。また注文よろしくね」





 アイラは満足げにお腹をさすり、まだ寝る時間ではないものの先ほどソレアに言われた部屋で休憩することにした。鍵は一枚のパスカードで、扉の横にある機器へそれで触れるだけだ。

 部屋の中には簡素な寝台に机と椅子、それからちょっとした収納スペースやお風呂場なども付いていた。

 二枚の窓からは夕日が差し込み始めていて、遠くには戦いの光が見えたり鳥が飛んでいたりするのが見えた。魔獣狩りだろう。


 部屋の中が新鮮なもので溢れている、がアイラはそんなこと気にせず寝台へ飛び込んだ。


(夕日、綺麗だ。夜も綺麗なのかな。少し休憩したら狩りに行ってみようかな)


 アイラは銀時計の付けていたアラームを二十時に設定し暫しの間に休憩へと入る。ゆっくり食後の余韻と夕日に溶け込むように、静かに眠った。

ありがとうございました。

下の星、欲しいな。ブックマークと感想も欲しいです! 


アイラの一言

「部屋で自伝書いたけど、旅した方が早いので諦めよ」



久しぶりに書いてそのまま一人称を書き、はて三人称はどこまで許されているのか。そんなこんなで先達の本を多少参考に書き始めました。

私の書式は過剰だったようだ。まさかオーフェンもそれとは……いや、それが普通なのだろう。

なのでこれからはオノマトペ関連と、箇条書きにならないための三階構造を和らげます。

それとセリフをもう少し足してもう少しもう少しとこれからも面白くしていくので、よろしくお願いいたします。

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