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ここは二話。魔獣と私。

 アイラは右腕を瘴気に伸ばし、左手に灰色の霧を纏わせる。魔獣はその灰霧を一瞥し、瘴気を滲み出しこちらを睨んだ。アイラを捕食すれば魔力を摂取できると踏んだのだろう。

 そしてギラギラと睨みあい、視線でけん制する。動物はその間にゆっくりと後方へ下がっている。


 絡みつくような空気の中ら先に動いたのは此方だ。タイミングを取るため一つ頷き走り出す、そして手元に貯めた灰霧をナイフへと変化させた。まるで元から手元にあったかのように手に収まるそのナイフは、銀の輝きで煌めくようである。

 一思いに走り出してまず向かうのは頭に生えている三本の角だ。魔獣の部位は特定の条件を満たせば切り裂くことは容易で魔力を一定密度にするか、一定の比率にすればいい。

 その条件でナイフも用意したからにはすんなりと切り落とすことは可能だ。

 走り続け、頭を駆け上がり、アイラの肘まで程の角にナイフで一閃する。脅威である武器を無くそうとした試みだが、その武器である頭が同時に向かってきた。しかし巨体のせいなのか、動作にズレが生じているようで当たることはないようだ。

 切り裂かれた一つの角が切り離されやがて空気に散っていく。散った角は瘴気となり周囲を漂ってい始める。

 頭が此方に向かっているのを認知したので、踊るように避けていく。踊りすぎて躓いた瞬間アイラの横には魔獣の頭が通過するが、アイラは流れるまま頭を踏みつけ二本の角にナイフを降ろし、返す刃で切り上げた。

 角のを失った魔獣はアイラが思ったより強いことに警戒したのか大きく後ろに飛ぶ。飛んだ先で角を失ったことを怒っているようで重く唸り声を上げてるが、痛覚は無いようだ。全く痛がる様子は無い。


(ナイフが短い。これでは体をすべて散らすことは難しいな)


 だが灰霧を集めるには少々時間がかかるのだ。元々保有する灰霧では長剣やリーチのあるものを創るには足りず、周囲から集めなければいけない。

 アイラが熟慮しているのを隙と思ったのか魔獣が飛び掛かってくる。さっきの愚鈍さとは違い、油断なくキレのある腕の振りおろしを繰り出してくる。

 背筋が凍るような剛腕の振り降ろしは、想像以上の速さで避け切れず二の腕付近に掠ると、たったそれだけの衝撃で吹き飛ばされてしまう。着地を和らげようとアイラはナイフを灰霧に戻し、その灰霧で抵抗を創り滑空した。しかし不完全な状態なので灰霧は霧域から脱していない。

 魔獣が飛ぶことは無いようで、今が好機なのでは……と思ったが次の瞬間魔獣から棘が飛んでくる。慌ててそれを避け少し遠い場所に着地した。

 そして遠くに飛んで冷静になれば思い出す。瘴気があるのなら、攻撃するのに自分に魔力を取り込まなくてもいいことを。

 詠唱宣言を詠おう。詳しく知らない力だけど、使えるものは使わねば、やられるのはアイラである。


「これはわが手足の導。汝、混沌の霧にその身を窶せ! 棘を出せるのはあなただけじゃないよ!」


 鈍色の棘が魔獣を襲う。その太さは魔獣と比べるべくもなく小さい。だが、その数は多くまともに受ければ魔獣の大部分が散るのは必至だ。

 ――有効に当たるとは限らないが。


 制御が拙く、どうやら確実に当てようとして一点集中したのが仇となり、魔獣は足を二本犠牲にし、すべてを受け切られた。


「はぁ!? え、困るんだが」


 魔獣はそっと息を吸う動きをすると、周囲の瘴気を吸収し魔獣の足は再びその力を振るうことができるようだ。最初とそん色ない状態でその機能を果たしている。

 この魔法モドキは直ぐに使おうとするならば周囲の魔力を即席で魔力比率を調整し射出する。

 それ故に偏った魔力の塊である瘴気はアイラにとって扱いやすいものなのだが、既にあんまり残っていない。瘴気が減っていくのを気取ったのか魔獣も瘴気を体内にとどめているようで周囲の煙はほぼ晴れてしまった。つまり、即座に利用出来る魔力には余裕が無いのだ。


「ふぬぬ……」


 戸惑い、頭を抱えたくなる。友好的な攻撃手段がなく、明らかに劣勢なのだ。しかし魔獣を攻撃し体を散らさないと先に進むことはできない。

 一度攻撃し、魔獣から霧散して離れたものであれば使われることはないが、体内の魔力に手を出すことはできないのでさらにアイラは悩む。


(これは、無理にでも回収すべきか)


 少なからず周囲の魔力は残っているので、それを吸収し変換すればナイフ以上のものが出せる。しかしその手順に時間が掛かるのだ。

 思考している間も油断を辞めた魔獣は攻撃してきていて、ナイフでけん制しつつ剛腕を避けるのが精いっぱいで掻き集めるのも難しい。


 襲い来る魔獣の剛腕に対して最低限強度を上げたナイフで受け流し、大きく後ろに弾かれ攻めあぐねていると、突如背中に重りが乗った。その重りはふさふさしていて毛皮のようなものが付いている。ちらりと見ればリス型の小動物のようだ。

 それから最初の一匹のそれに続くようにどうやらアイラの服に動物が次々飛びついてきているようである。大きな体の動物は邪魔するだけだと思ったのか石などでけん制し退散するだけだが、確実な助力だ。


(もこもこ、もふもふ。守らなければ!)


 アイラに張り付いた動物の魔力は少ない。少ないが必要と思ってかアイラに魔力を提供しはじめた。一匹の魔力無くなれば後方に飛び、交代した。

 命名、もふもふチャージをしている間、完全に戦闘を引き継いだのは鹿。大きな角が欠け立派な毛皮も土で汚れ、血で汚れても魔力が空になるまで引き出し魔獣の気を惹く。

 劣勢でも、武者震いをしても一歩も引かないその勇姿は見るものに大きな勇気を与えるだろう。


 もう皆が皆、満身創痍だ。鹿など死なないのが驚きだった。それでも疲労と緊張からか惜しくも鹿の角が片方の半ばを剛腕に折られた時、それは成る。


「みんな、ありがとう。もう大丈夫」


 アイラには彼らの思考はわからない。でも動物達は何を思って飛び込んできてくれたのかはわかる気がする。


(やらなきゃいけない。こいつを吸い尽くさねば私の意義は、無い)


 ――この世の理を語ろう。


 ――始まりは白と黒である。

 ――この世の死、それは救いだ。

 ――しかして死にゆくものに誉を。

 ――生きること、それは意義。

 ――けれども生きる幾億の命に救いあれ。

 ――すべて捧げるはわが身と仲間の混沌。

 ――切り裂け、切り裂け霧切の如く。

 ――歪に生まれし魂なき子に死の救いを。

 ――灰色霧は万物なり。


 祝詞のような物を上げたアイラから灰色の霧があふれ出る。それは森を覆う、とは言わないにしてもここら一体を覆いつくすような勢いだ。その溢れ出る灰霧はあらゆるものになった。きれいなガラスのようなもの。そしていろいろな大きさの武骨な剣。たまに光るものがあると思えばそれは光。あらゆるものが産まれ消え、すべてが追撃していく。

 魔獣は生まれて初めて恐怖なのか、ばたばたと後ろに避けようとしたようだ。しかし背後には鹿がいる。熊がいた。大きな動物達が、魔獣を後ろに行かせまいと行動したのだ。横には岩が2つ、逃げることはできないだろう。


「グアッッ――」


 魔獣は最後の足掻きなのか雄たけびを上げようとするが、口を開けた瞬間大剣が喉奥に刺さり、まだらの霧を残し散っていった。


 わーっと喜んだように騒ぐ動物達。アイラの元にも動物たちが寄ってきてアイラの服の中に入り込んだりする。アイラはくすぐったい様だが我慢しているようだ。

 鳴き声、叫び声、演奏のつもりなのか何かを叩く音。賑やかな宴会場となった森の一角には平和があった。


 しばらくしてアイラはまだらの霧を見つめてから、静かにその体に吸収した。舞っていた残りの灰色の霧もついでに回収して弱弱しく座り込む。

 俯き、呆けて手のひらを見ている顔は何も映してはいなかった。動物達は何匹か心配するものの、大半は騒いだままだ。

 そしてその状態からしばらくして、アイラは大声を上げて笑い動物達もそれに乗ってさらに騒ぐ。


(私にやれることは沢山あったのだ、なにを恐れていたのか。なにを悲しんで引き籠りなんてしていたのか)


 そんなことを考え大いに笑い、嗤い疲れた後、戦いでぼろぼろになった鹿を背に転がる。後ろ手に鹿を撫でながら思考した。

 

(きっと、この森だからこのままで居られるのだろう。外では弱肉強食だ。たまにリスなんかは尻尾を私の口に入れてきてるし、外をちゃんと楽しめよと言ってくれているのだろうか)


「よし、みんなで川に行こう! 汚れを流して長生きするぞ!」


 戦闘後で気分がいいアイラは勢いよく立ち上がり、動物を背に歩いた。戦っているうちにもう森の外が近いので、これが最後の川になるだろう。アイラの体にも様々な血が付いている。

 唯一服には付いて居なかったが、それでも髪などは泥だらけだ。腕も冷やさないといけない。


 ぼろぼろ動物の行進だ。森の外付近にいる理性がない動物は体を震わしてこちらを見ているが気にせず歩く。アイラはこの様子を人間が見れば怯えるか拝むのどちらかだろうな、と考えるが気にしない。

 我が道を行く、我が道を作る。そして世界を巡ってお母さんに会いたい。昼寝をして、ご飯を食べて。お金をちょっともらって本を読んだり。

 色々な想像をしていると、いつの間にか寝落ちてしまった。


 うっすらと覚えているのは冷たい水の感覚、モコモコとすこし高い所に運ばれるその優しい手つき達だ。

ありがとうございました。

下の星、欲しいな。


筆のスピードが落ちました。


アイラの一言。

「もふもふ……いたい……」

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