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ここは八話。持ち物確認に目的地。


 ムエナがと一緒に旅に出ると決意を固め、そこから暁が開けた朝に、アイラはムエナの腕を抱いて寝ていることに気がついて目が覚める。

 その様子を見て、微笑んでムエナは言う。


「ふぁぁー。ここまで抱き癖があると小さくてもアイラさんの抱き枕を買ってもいいかもですねー」


「うん。でももう私あんまりお金無いよ。むしゃくしゃして全部鞄とかで使っちゃった」


 アイラは一人でひっそり旅に出る予定だったので、あの時の買い物で使い果たしても何も問題はないのだ。食事は要らない、汗はかかないし服も汚さなきゃ汚れない。宿も次泊るところまでに魔獣を狩ればいいしその他はすでに大体買ってある。


「あーやっぱりそうなんですね。その辺の話もしましょう」


「話し合い?」


「そうです。お金の扱いや必要経費、部屋などですねー」


 寝台の上でああでもこうでもないと話し合って数十分。

 決めたことはとりあえずの稼ぎは共同財産。そこから各々欲しい物、必須物などの出費を相談して決める。今は何もないが必要な事、物への積み立ては相談して無理ない範囲で。

 片方だけが何らかで積み立てをするなら同じ金額を理由のない積み立てに回す。

 納得できない出費等は互いにプレゼンし、最終判断は完全無機物手入れの心配なしそもそもムエナの物でもないミェナに託すことなった。

 そのことにミェナは驚いた反応をしていたが、少しの後自信満々に了承したようだ。

 あとは前回の稼ぎから一定以下の金額は余程の事がない限り口出ししない、とかとか。

 とりあえずお金の話を手早く終えて休憩となると、徐に雑談が始まる。


「いやー。実は私が居た世界は神の代理戦争がひどくてですね。信者が私しか見当たらないような私の宗教とかバレたりしたらもう確実に追われましたからねー」


「すごいね、そんな世界もあるんだ」


 アイラは静かに驚く。そして自分はこの世界しか知らないことに気が付いた。そしてそれぞれの事情があってこの世界に来るのだと講習で聞きかじったことを思い出す。


「そうなんですよー。それでも神官ですから、宗教に関係なさそうな孤児や浮浪者に料理を振舞って勧誘したんですけどね。いつもその土地で強い宗教に通報されておしまいでした」


 少しだけ苦い顔して笑う彼女を見ながら、アイラは続きを促した。


「女ひとりの宗教ですからね。あの世界ではそれでも報酬を貰えたでしょう。しぶとく生きてた自覚はありますし」


 先日遠い目をしていたと思ったのはこの話なんだと静かに確信する。それでもムエナに気負った様子はない。


「幸い私の神様は珍しく既得権益に関心を持たれませんでしたから、積極的には勧誘せず誰かのお手伝いをして食材を貰い、ご飯を食べれない方に振舞い過ごしてました。それくらいは一応同じ人間なので余程でなければ黙認されましたし」


「一応そんな良心があったのね」


「ええ。まぁ一部は問答無用なのでなんの心配もなく、ただ私が振舞いたいと思える相手が出来て私は嬉しいです。えへへ」


「そっか。大変だったんだね。ムエナの神様とはどう出会ったの?」


 ムエナの話に頷いて、純粋な疑問を小首を傾げて伝えた。


「私の神様唯一の神殿で餓死したら、再誕させてもらえました。そこからの付き合いですね。死に方と日付、色々偶然が重なって運がよかったのか悪かったのか、実は老化は止まってるんです。身長は元からですが」


「え、じゃあ結構いってるんだ」


「はい。体年齢二十七から数えていません。けど餓死以外の死は起こるので、大変でした」


「はー。んじゃ三百とかいってるかもね」


 ムエナはいやーそれはないかもですねーわからないですけどー、とのんびり返している。体を揺らして述べる様は割と子供染みているが、接するとわかる大人らしさを感じる。


 曰く、ムエナの年齢は体年齢二十七歳で、正確な年齢はムエナの神様は記録しているかもしれないがムエナ自身は数えていない。ムエナは大幅な数字を言っても何もいいことは無かったので二十七歳と言うのがのが癖になっているとのこと。

 アイラはその事実に衝撃を覚えたものの、自分も実年齢はわからない点で言えば同じなので驚きの言葉を飲み込んだ。

 話は移り、お金の稼ぎ方と必要な物の話題へと転換していく。


「老後の心配と言えば、二人してお金を稼ぐのは容易っぽいけど。必要な物とか何があるんだろう」


「あー。私は協会で料理手伝いしてもいいですし、片手間仕事ををしても依頼を受けても、アイラさんと魔獣を狩ってもなんとかなりますね。さっき決めたやり方なら昨日稼いだのが使えるのである程度の買い物なら問題はないかもですね」


「あ、ありがとう。使い切っちゃったからうれしい。でも私は言うほど手段はないんだよね。何とかなりはするのが、この世界の優しいところかな」


 そうですねーふふふ。これからが楽しみです、と小さな彼女は笑顔で言うものだからアイラも思わず笑顔になる。そして頭の中で整理していると、地図がないことに気が付く。


「あ! ねぇねぇ、地図がない。そもそもこの世界的に旅とかするのは無茶じゃない? 下手すると月にに一回は書き換えないといけない? 採算合わなくない?」


「ほんとですね! どうするんでしょう。ダルレアンさんに聞いてみます? あの人は定期的に巡礼しているらしいですし」


 この世界は世界の成り立ち上、地形変化や森の出現、突如荒野になったりする場所が多い――たまに一面麦畑になったりするらしい――それ故に列車などの早すぎて大きい乗り物は存在しない。着地などができなくなる可能性があるのだ。

 原理は解明されているが、それを何とかしようとすれば大量に魔獣が出ることは確定しているので諦めたのだ。


「それじゃあ行こう。なんか手がないわけないもんね」


 持ち物も少ないので対してやる事のない支度を手早く終え、二人はまずは一階に行く。

 現在十時頃。一階には昨日の宴会で見た面々も居たが、すこぶる元気の様だ。二日酔いは魔術やらなんやらで何とかしたのだろう。

 総合受付に行き、ダルレアンの居場所を聞こうとすればそこには相変わらず若干暇そうなソレが居た。


「ソレアさーん。今ダルレアンさんいるー? 聞きたいことあるんだけど」


 昨日の出来事で、肩ひじ張って一人になる必要が無いと感じ、アイラの口調は完全に軟化している。態度の軟化に驚いたのかソレアは一瞬目を見開いたように見えたが、刹那のうちに顔を整えた。いつもの美人顔だ。


「ダルレアン? やだ私の夫でも狙ってるの? とらないでよー」


「え、ソレアさんの旦那様なのですか!? いいなーうらやましいですね」


「ええ、そうでしょうとも。職場結婚ってやつね。家もこの街よ」


「ちょっと、今聞きたいのはその事じゃない。それもそのうち聞きたいけど」


 ムエナは境遇からなのか結婚や付き合っている人物が居るととても気になるようだ。しかし今話すことでは無いと感じ慌てて止める。


「えっとさ、旅に必要な物を聞きたかったの。 というかダルレアンさんの奥さんなら知ってるのかな?」


「旅? ああ、お母さん探すのよね」


 あの場に居たのかは定かではないが、何かしらで伝え聞いたらしい。別に聞かれて困るような話でもない。

 ソレアは頭で反芻しながら考えてくれているようだ。


「えーっと、寝るための結界天幕とその他道具はムエナちゃんが持ってる鞄を見れば揃ってるだろうけど……食料も何とかなりそうだしね。 あ、もしかして地図とかないんじゃない?」




 ズバリ言い当てられたアイラは関心と驚きでつい、おおーっと声を上げてしまう。ムエナも驚き顔で口と目が丸い。

 ソレアは二人のその様子にキリリとした目をにんまりと曲げて、語り始めた。完全に反応を面白がっていた。


「実はね。地図を持っていないミャルナントは多いし、この世界の構造的にそれも仕方ないのよ。その上生半可な地図では高価なのに対して最新でもない。

 じゃあ、どうやって過ごしていたのかと言われれば大勢で街を行き来するとか、何にも負けない対策や、力を鍛えるとか。そういう力業だったのよ」


「だった、ですか? 何か革新的なものが出来たのですね」


 そう、と言ってから二人を見つめて間を溜めに溜めたソレアは期待に溢れる二人の視線を受け止め答えを口に出した。


「そう。それは、世界で初めて人工的に魔法技術と科学技術を融合させることができて実現した、すべての人間が使える可能性のある、正に技術の神の名を借りるにふさわしい『スミェーラト』と呼ばれるものよ!」


「あ、スミェーラトってそれの事なんですね」


 アイラは何のことかわからないのでキョトンとしているが、とりあえず話を聞くことにした。よく見ればたまに板状の何かを持って操作している人がいるが、その事のようだ。ソレアの右手には見せつけるように握られた、推定スミェーラトは薄くて軽そうだ。


 この話はソレアの琴線に触れたようで、目を輝かせて早口で語り始める。

 曰く長年魔法技術と科学技術は使用魔力が違うから技術的に大きく重なることは無いと思われていた、とか。

 曰くどうあがいても質量的に大きくなるので埋めるしかないが、その代わり性質上魔獣に狙われることがないのが画期的、や。

 そもそも今までのスミェーラトも画期的ではあったが、どちらかしか繋げることができない時点でスミラトの名を借りるに値していない産廃物だった、など段々口が悪くなってきた頃話は締めくくられる。


「そして何よりも! 魔力分立を起こしていないこのスミェーラトを繋ぐ技術は、等間隔に埋めれば安全に空間を固定する出力こそない物の決して地形に溶け消えることは無い! つまり地形観測も逐一行われ、毎分七十更新。もう完璧な技術よね!」


 あまりの豹変っぷりにアイラは引いてしまう。隣を見ればムエナも苦笑いだ。

 スミェーラト金額を聞けばミャルナント基金で割引、そんなにべらぼうに高い金額ではなかった。ただほかの物を大きく買う余裕はないだろう。大きな抱き枕とか。


「ふぅ。ごめんね。私、技術系の信徒なのよ。まさに教義に沿ったような完全な技術だったからこの話すると止まらないのよね」


 そういいながらも落ち着きを取り戻したソレアは基金申請書を用意している。手早いその手腕は見事なものだ。

 アイラは感心しながらどこで買えばいいのかを聞けば、隣の隣街くらいなら紙の地図も安いので端っこのこの街で買うよりかは、南南東くらいにある製造元で買った方が多少安いのだとか。

 そこなら使い方も丁寧に教えてくれるし、最新機種を買えるだろうとのこと。

 まずは二人一つで買い、慣れたころに二人分を買えば使わなくて無駄になることは無いという情報も教えてもらえた。二人は離れて長時間過ごす意味もないし、仲の良さ的に一つでも困らないだろうとのことだ。


「本当だったら隣隣くらいなら転移門を申請できたりしたんだけど、今色々大変みたいで十二柱の方々も転移門の使用はやめとけ、って言うのよ。まぁ転移した瞬間に山に埋まったり、空気に溶けても仕方ないしね」


「え、空気に溶けるの? 転移って言うくらいだから山に埋まるのはわかるけど」


 気負った様子なく、ごく当たり前の事象の様でソレアの反応は薄い。この世界に生きる人ならではの反応だろう。


「たまーにね。体内魔力比率が空気に近くて、絶望した気持ちで通るとたまに。あまりにも予想外なので大二柱様が出て来たりしたっけ。流動魔力論やらよその技術で何とかの斧とか。そんな問題はありはしたけど、本人が、あ、彼はアーレラって言うんだけど」


『たとえ私が私じゃなくても、私は今からアーレラテミナを名乗り、私が只のバージョンアップしたと言うのであれば、私は私のまま別人であり私のままで居られる。そうなればうるさく言わんだろう?』


 テミナ、とは新とか真とか。という意味らしい。よほどすごい体験をしなきゃたとえ真と思っていても自己を見失ってしまいそうだが。


「とか、なんとか。ほらやっと申請通ったわよ。準備が終わったら行ってらっしゃい。識別情報は向こうに送ってあるのと、基金は常に報酬から天引きされているので心配しないでいいわ」

ありがとうございました。

下の星、欲しいな。あとブックマークと、感想も欲しいな。


アイラの一言。

「色々意外な一面。ダルレアンさんの技術神の話も納得」


2023/02/24に帰宅。皆様お待たせしました。ほぼ説明会で申し訳ない。話は進んだから……次回は夜までぐっと進める予定です。まだ十時だし。


それとそのうち活動報告で書くと思いますが、小説の事とは別に日常的な用事が増える予定なので、二日から三日に一回更新になるかもしれません。来週、また予定を確認しつつですね。

 様子見て何も問題なければ活動報告はありません。

あ、ゆっくり改稿中です。拙さが恥ずかしい。

 結果は一緒ですが理論の表現や印象を変え、言葉の不足を補いました。改稿日時を参照の上お読みいただければ。まぁ、辿る結果は一緒なのでめんどくさければどのみち出るたびにふわっと説明するので無理に読まなくてもいいです。

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