リコネクション 偶然の旅行
9月の朝は少し寒かった。6;00の目覚ましで起こされた私は気分がよかった。今日は隣の家で飼われている犬が鳴いていない。私以外は皆寝ている静かな朝だ。朝ごはんを食べていこうか、どうしようかと悩んだ末、羽田空港に遅れるとまずいので向こうで食べようと究極の二択を楽しみで眠れなかった昨夜に決めた。大学4年生になるまで友達と飛行機を使った遠出はしたことがなかった。興味がなかったからだ。人見知りも影響して一人でいることが好きだった。今も好きである。旅行する気なんてまるでなかったけれど、久しぶりに友達からlineがきて一人旅を沢山しているという。そのとき、大学生があと半年で終わってしまう寂しさと焦りを抱えていた私は「広島に一緒に行かないか」と返事をした。
9:00に着くと友達はすでに待っていた。3年ぶりに会ったが直ぐに気が付いた。友達とは変わらないものだ。何を話したかはあまり覚えていない。朝ごはんを食べたかとか、荷物を預けようか、そのような会話だったろうか。空港の朝ごはんで食べた冷うどん、やけに味が濃かった記憶がある。あれは濃かった。朝から天ぷらを食べるなんて贅沢な気がする。旅行となると財布も心も緩んでしまうのはなぜだろう。人間は楽しいことが好きなのだ。そういえば、平日にもかかわらず人が沢山居たことを思い出した。文章を書く意味はここにあるのかもしれない。書いていくほどに思い出す。久しぶりの飛行機はテンションが上がる。早く集合したため、デッキに行って飛行機を見た。快晴で綺麗だった気がする。あとは、空港がとても広かった。「羽田空港って広いんだね」と友達と会話した。友達は一人旅で何回も見ている景色だと話した。少し寂しい気持ち。荷物が機械でやる仕組みになっていて驚いた。そういえば、チェックインも全てネットからできたけど。新しいことをするときはドキドキする。うまくいった。空港で少しびっくりしたことが、保安検査に引っかかったこと。「お客様、引っかかりました」と言われて身体に触れられた。別に怪しいものはないため、問題なかったが終わったときホットした。「たまに引っかかるときあるよね。大阪に行ったときやられたな。」と友達が言っていた。たまに引っかかる人がいるんだな~と思い乗り場に行く。なんとなく距離があって歩いていくと、高校生らしき修学旅行生に遭遇した。どこに行くのだろう。沖縄か、懐かしい。そういえば自分は北海道に行った。高校生の集団を通り過ぎて、奥に行くと懐かしい飛行機が目の前にあった。純粋にわくわくする気持ち。中に入ると近未来的な感覚を味わう。今から「空」というユートピアに行くのだなと小さい窓から滑走路を眺めた。
飛行機が飛び立つ最初の勢いは、いつ体感しても鼓動を激しくする。あっという間に東京スカイツリーよりもはるか上空へ飛び立ち地上がスローモーションで動き出す。東京には山が少ないことが良くわかる。ふとそのとき、景色が雪景色に変わった。ミニチュアハウスが壮大な雲に覆われたのだ。まるで、アイスランドの風景画みたい。思わず写真を一枚。まっすぐに地平線に雲が、地球を平らに勘違いさせる、美しい世界。私の前の座席に外国人の方が居た。どこから来たのだろう。乗り物は人間を無口にさせる。その代わりに想像力を働かせる作用が存在するのだろう。今、どのあたりだろうと考えると、雲の中に入っていた。機体が揺れてジェットコースターのようなフワッと感を味わう。私は好きだ。飛行機の面白いところは、一瞬で見える景色が変わるところにあるのだろう。かなり揺れた気がする、長い間。広島は雨が降っていた。森が沢山あって、なんか感動した。日本という同じ世界でも人間が見る世界は違う。人間の根源は森にあるのかもしれない。広島空港の文字を見て、本当に来たのだということを実感する。いつも間に大阪を通り過ぎたのか。本当に早い、ついさっきまで流れの早い大都会にいたのに。空港周辺は森が沢山あって、とても穏やか。綺麗だった。
飛行機から降りると、寂しい気持ちと安心感が相まって溶ける。チョコレートと納豆を一緒に食べたみたい。もみじ饅頭の自販機を発見した。聞いてはいたが、実際にみるとテンションが上がる。こういう仕掛けが財布の紐を緩ますのだろう。でも、食べたい。広島での一番初めの食事が饅頭。なんと贅沢な。朝早くて眠かったけど、美味しかったな。その場ですぐ食べて胃に押し込む。旅先だと甘いものを食べたくなってしまうのはなぜだろう。罪悪感は全くない。これからの旅でいくつの饅頭を食べるのだろうか、なんかワクワク。
バスで広島駅に着くと、都会だった。あまり東京と変わらないんじゃないかと思ったが、道路を走る路面電車を確認して広島だと思った。なんか東京より平和そう。涼しかった。安心感があった。広島に来たら絶対にお好み焼きを食べると決めていた。広島駅には思った通りお好み焼き屋さんがずらりと並んでいた。東京駅のラーメンストリートのようだ。どのお店に入るべきか一通りみて、一番お客さんが少ないお店に入った。こういうお店が案外美味しかったりするのだ。友達とご飯を食べることも久しぶりだったため、少し緊張した。お好み焼き、広島焼、そば、うどん、焼きそばなどの看板を見て本当にお好み焼きが有名なことを思う。美味しそうだ。友達がパシャパシャ写真を撮っていた。普段は料理の写真なんて一切撮らないが、一応撮っておこう。特に投稿はしないのだけれど。料理の写真はどっちかというと苦手だ。料理の思い出は口の中に置いておきたい。けれど、もう二度と食べない気がすると、すぐに飛んでこれるのに思ってしまう。旅行の不思議な食通。中にはしっかりと麺が詰まっていた。麺が入ったお好み焼きなんて初めてだ。美味しそうではなく美味しい。お好み焼きは元々好きなため、心が躍る。味わってゆっくりと食べようと思ったら、友達がめちゃくちゃ早く食べていた。味わっているのかどうか心配になるくらい。美味しい食べ物ってそういうことなのか、いや違う。生まれつきだ。だって、自分はゆっくり味わおうとするが、友達は早食いなのにとても美味しそう。遠出するまで気が付かなかった。友との旅は、身近にいる人の新たな個性を見つける旅ともいえるのだろう。
お会計を済ませてホテルに直行した。ビジネスホテルにしては綺麗なホテルだった。初めてビジネスホテルに泊まったけど、値段の割には綺麗で快適だった。全てタブレットで行うところがビジネスらしい。部屋は二人で過ごすには少々窮屈だったけれど、綺麗だしテレビが大きい。ベッドの上で一休みすると動けなそう。「えっ、ここから3分で広島城に行けるじゃん」と急に友達が言い出した。時間があるし行ってもいいな。一日目はフリーにしたのだ。友達がフリーが得意らしい。フリーが得意ってなんだ。ものすごく熱い紅茶を飲んで、加湿器を起動させて準備をする。知らない町の景色を眺めることが好きなのだ。大学生活で飛行機を利用した旅行が初めてだったため、目に焼き付けておきたい。外に出ると、路面電車が魅了する。音は電車なのに信号を守り道路を走っている、不思議な景色。まるで、北極にライオンがいるような感じがした。珍しいものに人間は甘い。
広島城まではバスで移動するらしい。ちょっと残念。バスに揺られてすぐだった。城の周辺は静かだった。写真を撮っている友人を横目に、そんなに撮る必要があるのかと思いつつ自分も撮る。人間は半分が遺伝子で残り半分は友達の影響と聞くが、正しいらしい。スマホは人間を支配しているようで好きではないが、景色を何枚も撮ってなんの意味があるのかと。思い出は心の中に。そんな綺麗ごとは世の中通用しない。私は城にはそれほど興味が持てず、中に入って少しすると飽きてしまった。早く展望台に行って終わらせてしまいたい。そんな気持ちが頭を過る。広島城はこんな感じ。
外を歩くと、東京にいるような錯覚を覚えるが車のナンバーを見て我に返る。夕飯を探しに暗い道を一緒に歩く。かなり暗かったため、警察志望の友達が居るのは心強い。あなご飯が有名らしい。調べてくれた。そういうところが優しい。優しい男はモテルと聞いた。暗い小道を歩いていて、こんなところにあるのかと疑念を抱いていると、急に風情あるお店が現れた。ミステリー小説を読んでいて、最後の数ページで震えるようなそんな展開。ここにしかないような気がして嬉しい。店の中にはカップルか夫婦が数名いた。こじんまりとした旅館のような印象だった。四人掛けのテーブル席に二人で座り、あなご飯千円と書かれたメニュー表を眺める。学食慣れしているせいで普段なら高く感じる千円が、なぜか旅行となると安く感じる。久しぶりにあった親が老けて見えるのと同じだろうか。あなご飯は豪華だった。非常に美味しそう。旅行の夕飯にふさわしく感じた。上から目線。これは写真に収めたいと直感で思う。ゆっくりと味わう。初めて食べたあなごはうなぎよりも美味しく感じた。私は好きだ。ご飯も味付けが浸み込んでいて、美味しい。感動した。まるで、初めて子供がママと呼んだようなそんな感触。最後の一口が名残惜しい、寂しい。食べ終わって暫く喋った。友達は相変わらずお喋りが達者だった。後輩の面倒をみているとか卒論の話とか、最初は楽しかったが途中から疲れてしまった。足をドアに向けてホテルに戻りたいジェスチャーをしてみる。無意識だ。今気が付いた。
外に出ると一人だったら怖いくらい暗かった。ホテルの近くのコンビニでノンアルコールビールを買って晩酌する。なぜノンアルにしたかというと、アルコールが入るとお喋りがさらに激しくなることがうんざりだったからだ。というのは冗談で、半分くらい本音だが。明日に影響が出ると考えたからである。旅行は睡眠が短くなる場合が多いが、早めに眠ることができた。
翌朝、目が覚めると空は晴れていた。雨模様が出ていたため、嬉しい。朝ごはんを食べにホテルの会場に行くと、お仕事だろうか大人のおひとり様が多く見られた。ビジネスホテルならではの気がして面白い。朝ごはんでもお好み焼きやあなご飯があり食べたくなる。少々眠くて、特にそれといった会話もなくゆっくりと食事を楽しむ。ふと、友達がピンク色のハーブティーのようなものを飲んでいた。隣の女性も飲んでいる。珍しいものは飲みたくなる。「それ何?」「ハーブティー」なんだハーブティーかと思いつつ、一口飲んだ。部屋に戻って、宮島に行く支度をする。宮島はメイン観光地だ。存分に楽しみたいと思い、早起きした。何で向かおうかと調べていると、路面電車で行けることが判明した。「路面電車で行ける、1時間ちょいかかるけど」「時間がかかってもいいから路面電車で行こう」と決め、うれしい気持ちなる。電車には自信があったが、知らない町の知らない電車は少々不安になった。路面電車に揺れていると、同じ日本人なのに違った人種のように見えた。女子高生だろう女の子が前に座っていたが、スマホをいじっていなかった。広島の高校生は電車でスマホを触らないのだろうかと、ちょっと感激。気づけば、あたりは森に囲まれていた。とても美しかった。フェリー乗り場に着くと、修学旅行生が大勢いた。そうか、修学旅行生で混んでいたら嫌だなと思ったが、自分たちの自由な観光を感じてちょっぴり優越感を味わう。今日は平日だが、一般の人も多くいた。船の上から写真を撮ると、スマホを海に落としたらどうしようと余計な思考が頭に浮かぶ。海の匂いがした。自然が沢山あって心が浄化される。いい気分。暫く散策していると、鹿がいた。話には聞いていたけれど可愛い。動物が好きなため、駆け寄りたくなる。久しぶりに間近に鹿を見て、ずっと見ていられると感じた。観光客が沢山居たため、一気に旅行の気分になる。ほかの事を一切思い出さずにいられる幸せの時間。商店街に入ると鹿がおらず、その代わりに人間が沢山集まっていた。もみじ饅頭のお店がいくつもあり、やりたかった食べ歩き。旅行はお金を使ってもいいと決めているため、友達が沢山買っている姿を見て喜ばしかった。「揚げもみじが食べたかったんだ」と友達が言い、無性に食べたくなった。普段は揚げ物になど一切手をつけない性分なのだが。しばらく歩くと、山が見えた。「山と水族館どっちに行く?」「山の方がいいかな」といって、山に向かう。人は少なくて快適だった。バスでロープウェイの乗り場に行き、上からの眺めを楽しんだ。とても晴れていて綺麗だったが、太陽が直接照らしてきてとても暑い。海が綺麗だった。ずっと眺めていたい。老夫婦が木陰でお弁当を食べていて、小学生のケンカのような平和があった。途中、中学生が運動着でランニングをしており懐かしい感覚で優越感に浸る。山を登っていると想像以上に汗をかいて体力的にきつかった。山の醍醐味である挨拶を交わして登っていき、人見知りの私には緊張した。意外だったことが、鹿が一匹もいないことだった。本来なら山にいるべき動物なため、こちらのほうが数が多いと予測したが外れた。鹿も人間と同じで歩くのが楽な平坦な道を選んだのかもしれない。オフィスワークから在宅ワークに移行したような楽な道へと歩んでいくのだ。今年一番汗をかいた。かなりきつくて幼稚の元気さを失うとともに自らの心の成長を学んだ。頂上には先ほど会った地元の中学生たちと山好きそうな大人が数名居た。景色を撮ろうとするが疲れと汗で気持ちが悪い。早く下りたい気持ちもあるがめんどくさい気もする。山好きに怒られる発言であるだろう。「大丈夫、生きてる?」と友達に聞かれ、しんどかったため雑に返事を返しておいた。戻ってきたときの安心感は、疲れた一杯のビールのような感じだ。お腹が空いたため牡蠣を食べよと決めた。その前に厳島神社の中に入る。神社や世界遺産にはさほど詳しくないが、美しさと人がいるのに妙な静けさがあった。普段は関係なくお賽銭をするが何となく五円玉でなければいけない気がして五円をお賽銭する。「健康でいられますように」普段と変わらないつまらないお願いだと我ながら思う。橋のほうへ行くと潮が引いていた。引いた海では小さな子供が遊んでいる。写真では見たことがあるが、本当に水がなかった。不思議な感じ。厳島神社を終えて散策し、一軒の牡蠣専門店に入る。牡蠣は食べられるかどうか不安だったが、宮島に来たら食べなければいけない気がした。山登りで想像以上に疲弊しており温泉に浸かりたい思いで焼き牡蠣をいただく。初めて食べたが、お好み焼きのほうが好きだった。独特な味わいが好きな人もいるのだろう。沢山のもみじ饅頭を食べた。宮島は東京とは景色がとても違っていて、同じ日本だが異国のような雰囲気だった。
「そろそろホテルに向かおうか」と言って、送迎バスに乗り込む。バスを走らせている間も鹿が沢山居た。むしろ、山の中や人が沢山いる道路よりも人が少ない平坦な草原に多く存在していた。まるで、自分たちの王国のような誰にも邪魔されない天国だった。初日とは違うリゾートホテルに泊まると、リゾートホテルらしい、丁寧なホテルマンが出迎えてくれた。小学生の修学旅行生が来ており、幼い子鹿のようで可愛かった。部屋へ入ると、清潔な和室で広かった。景色がとても良く、綺麗な海と森があって鹿が沢山草を食べていた。まるで、サファリパークのホテルみたいな感触だ。「疲れたから先に風呂に入りに行こう」と話して大浴場に向かう。そういえば、初めてのビジネスホテルは大浴場がなくユニットバスだったため、少々戸惑った。湯船にはどうつかるのだろうかと。我々以外に人は誰もおらず、お風呂が広く見えた。風呂から上がると、小学生たちがいる部屋が少しだけ見えて、微笑ましかった。ホテルマンが手を出さないかどうか監視している様子で、気まずく足早に部屋へと戻る。19:30に夕飯の予約をしており、出てきたものはとてつもなく豪華だった。大学生が食べて良いのかと思えるコース料理であり、なんと贅沢な。優雅な気分だった。見たこともないような食材が目の隅から隅まで浮かび上がりどれから食べようかと箸が躍る。旅館の料理は大人なのだ。大人の料理も食べられるようになったと気分が上がり、美味である。次から次へと料理が運ばれてきて、宝の山みたいだった。その宝の山をゆっくりと口の中で味わった。夜も静かで明かりが少ない。車の音も人間の音も一切聞こえない神秘的な場所である。この時間がずっと続けばいいのにと秘かに思った。明日は最終日だが、思いのほか寂しさはなかった。朝になって、朝食会場に行くと人がとても少なく快適だった。昨日の夕食と似たような形式で出てきて高級感を味わっていると、すぐ目の前の庭に鹿が何頭かいた。野生動物を間近に見つつご飯を食べるといった、なんともいえない贅沢を感じてホテルを出た。
次来るときはいつだろうかと思いつつ寂しさを残して原爆ドーム行きの船に乗り込む。船でしばらく行くと急に戦争にタイムスリップしたような近未来と現実が相まった建物が、脳に認識されるスピードでゆっくりと身体全体に流れ込んだ。天気が良くて修学旅行生が沢山おり、永遠に平和だったように感じられた。とても綺麗で神聖な場所に思えたが、どこか空気が重く胸に痛みを与える不思議な感覚だ。平和祈念資料館の中に入ると黒く灰がかったような過去が浮かび上がり、外の明るさと相反して未知の世界に飛び込む怖さを感じる。何も喋ることなくゆっくりと煉瓦のような足取りで明るい廊下へと出る。よく晴れた綺麗な外の風景と先ほどまで見ていた悲惨な過去とが頭の中を螺旋階段のようにぐるぐると酔いさせる。行ってよかったと思った。近くに折り鶴タワーという観光名所があり、そこに立ち寄った。最近できた建物であろうか綺麗だった。一番上の展望席に腰を下ろして一息つく。高いところからの景色が人間を穏やかにしてくれるのはなぜだろうか。天気がよくてずっと見ていられる。原爆ドームを上から眺めると、資料館にも展示があったように当時の瓦礫が中に散乱していた。そして、そのすぐ脇を路面電車や車が走っている風景が人間は変わることができると言っているようで変に頑張ろうといった気持ちになった。昨日行った宮島も見ることができたが、なんとも表せぬ不思議な感情である。
「大学一年生の頃に偶然入学式で隣になって連絡先を交換して、そこから3年越しに旅行に行くことになるとは思わなかったね。」大学の友達は人生の友達であると認識できた瞬間である。終わりは少し寂しいが、以前ほど寂しさは募らなかった。また会えると思えるからである。