第一話 ~クリスマスの夜~
~追悼~
明日も働く矢崎氏に捧ぐ。
俺は矢崎優助、21歳。
高校卒業後に専門校へ通い、卒業と共に国土交通省の流域調整課に就職。夜遅くまでデスクワークに追われる日々を送っていた。
「お仕事お疲れさまです。健康第一保険の福田です。矢崎さん、ストレスチェックのアンケートやってみませんか?」
「やめといたほうがいいですよ。目に見えてるんで」
「じゃあ机に置いときますね、結果はメール送信もできますから」
「そうですか、ありがとうございます」
机の上に無造作に置かれた資料を避け、僅かに空いていたスペースにアンケート用紙を置いて、彼女は帰っていった。所詮、ビジネスでの付き合いに過ぎない。相手のことはよく知らないし、向こうもきっと、俺のことを心配してストレスチェックを受けてもらおうとしている訳ではないだろう。
そんな風に考えながら、アンケートには目もくれずに仕事の続きに取り掛かった。
気がつけば、あたりはすっかり夜だった。今ストレスチェックなんて受けたら間違いなく診断結果の欄に「入院必須」と返ってくることだろう。
「くぅーっ!今日も疲れた。ラーメンでも食べに行くか」
そう言って俺は横断歩道を渡る。
あれ、なんか変だな。突然、景色が変わった気がする。空を見ているのだろうか?
「あ……ぐっ……」
声が上手く出せない。ふと意識を身体に向けると、なんだか地面の感触が無くなったように感じる。もしかして、俺は今空を飛んでいるのだろうか?
「……」
直後、強い衝撃と痛みを全身に感じる。気持ちの悪い鈍い音が耳に響き、意識が波打つように遠のいていく。
「矢…………丈夫……返事…………」
誰かが俺に話しかけているような気がしたが、返事をするような気力は残っていなかった。
身体が少しずつふわふわとしている。生命が流れ出ていくような感覚と、誰かの声。もしかして、俺は死ぬのか……。
こんなことになるなら……この前カラオケに誘われたとき……めんどうくさいなんて断らなければ良かったなぁ……。
12月25日の夜に、一人の男が命を失った。
死因は、飲酒運転の車に轢かれたことによる出血と内臓破裂であった。
彼の葬式はその一週間後に執り行われた。
そして──
矢崎優助という男は、この世を去った。
ランキングに載るまで働きます。
2022/01/03 投稿
2025/4/16 更新