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出口の無いワンダーランド

作者: てと

不思議の国へようこそ


※誤字脱字報告ありがとうございます!




「チェシャ姫様は本当に不思議の国のアリスが好きですよね」


「ええ、まるで夢の国にいる気分になるのだもの」


クスクスと嗤い、挿絵のアリスの顔をインクで塗り潰す。そんなアリスにチェシャ猫は嗤う。


「ねぇ、今日の舞踏会には氷の王様も出席するのでしょう?」


「氷の王様……クレイ皇帝陛下の事ですか?」


「ああ、そうそう……そんな名前だった」


「チェシャ姫様!!また何か考えてますね?駄目ですよ!!他国の王に失礼な事をしては!!」


「約束は出来ないわ……だって私はとっても気紛れなのを知ってるでしょう?」


クスクスとくだらない話をする。そして私は鏡に手をつき自分の顔を覗き込む。紫色の髪に金色の瞳を持つ私。赤い口紅を塗った唇がニィっと嗤っている。紫と黒色のグラデーションのドレスを纏い、艶かしく蠱惑的な雰囲気だ。


「チェシャ姫様、その嗤い方は悪巧みをしてる笑みですね?」


「……優しくて可哀想なお姫様なんてもう流行らないのよ?物語のように綺麗に生きていけない世界。……本当の自分が知りたいなら、まず鏡に聞かないと」


鏡の中の世界は私のもの。『何処へ何をしに行こうか?』と鏡の中の私は嗤い、道を踏み外そうかと私を誘う。


すると、ドアをノックする音が聞こえる。


「チェシャ、準備は出来たか?」


「ええ……イライジャお兄様」


部屋に入ってきたお兄様の手を取り、会場へ向かう。ゆったりと静かに鼻歌を歌いながら、煌びやで素敵な夜の幕が開ける。




ーーーーーーーーーー




私は会場の中で、一際目立つ白銀の髪の男性に目をやる。まるで彫刻のように美しい。その顔を歪めてみたい。私は真っ直ぐに氷の王様に向かって行く。私の視線に気づいた氷の王様は微かに眉を寄せたのが分かった。令嬢達は私を見ると、恐れた顔で道を開ける。


私はゆっくりとカテーシーをとり頭を下げた。


「何の用だ」


「クレイ皇帝陛下、私はチェシャと申します。……皇帝陛下は私の思い通りにならない気がして。こうして少し貴族の道から踏み外してみました」


「……不敬だと分かって態と言ってるな。その目……何が目的だ」


「クレイ皇帝陛下はどの位その手を汚されたのでしょう。……その汚れた手で私の手を取って踊ってくれませんか?そして、目障りな有象無象は全て二人で喰らい尽くしてしまいましょう」


クレイ皇帝陛下は何も言わずに手を差し出して来た。私は蠱惑的に嗤い、その手に自分の手を絡ませる。



クレイ皇帝陛下と私は優雅に回り踊る。まるでパズルのピースがはまるように。


「クレイ皇帝陛下……憎しみも愛情もぐちゃぐちゃにして一緒に味わいましょう?狭く甘い甘い真綿の檻の中で、ひとつに溶けてしまうくらい」


私は自分の欲しいものを気まぐれに追いかける。クレイ皇帝陛下は王位継承権の争いで、その手を血で染め上げ、王座についたのだ。仄暗い後ろめたさが私達を誘う。


「……お前は変わっているな」


「あら……愛を請う仕草で黙り込んだ方が良いですか?慎ましい振りをした方がお好きですか?」


「いや……そのままで良い」


私は態とターンをする、それを追いかけるようにクレイ皇帝陛下は私に合わせる。シャンデリアに当たる光が私達を照らす。


「ふふっ、まるで夢の国のようでしょう?」


見つめあって視線を絡ませ、ここから始まる不思議な物語。キラキラ夢の中、朽ちて行く現実は貴方の瞳にはどう映る?私には眩しくて、ねえ、今はどうか側にいて。血だらけの手を取って私達は踊る。


深い闇に落ちていけば違う世界。誰かに呼ばれてる気がする。貴方は誰のもの?


私なら宝物は誰にも譲らないわ。


昔見たおもちゃ箱みたいな舞踏会。ガラスの靴を磨いても無駄。王子様なんて此処にはいない。


手が離れてしまえば、暗闇の中で行き先を見失ってしまう。離さないで、側にいて。離さないで、迷わないように。今は側にいて、離さないで。


迷いの森に迷い込んだように、泥だらけの道を踏んで、足を泥で濡らして静かな小道を歩きましょう?落ちて、忘れられていくwonderland。綺麗なものは全て夢。


私のおもちゃ達、私をこのまま無邪気な子供のままいさせて。ウサギがとろける罠に向かって跳ね、ウサギも嗤う。


そして、二人共違う方へ歩き、恋に落ちて、互いに呼び合う声だけを頼りにして。そして、手の鳴る方へと向かいましょう?


一人だけじゃ迷路の出口は見つからない。でも、もう一人じゃないから、寂しさは無くなる。


思い通りにならない事だったら、一緒に道を踏み外してみましょう。進めば迷わされる。迷えば狂わされる。深みにはまりこんで、抜け出せはしない出口の無いwonderland。


「……まるで、不思議の国へ迷い込んだみたいだ」


「ようこそ、私の不思議の国へ」


私は綺麗に結われた髪を解き、私達はクルクルと回りながら嗤いあう。



私は歪んだ鍵で扉を閉じた。








チェシャ猫は嗤う

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― 新着の感想 ―
[良い点] むずかしいところもありましたが、主人公のチェシャ姫がもしかしたら あのチェシャ猫の前世なのではないかと思い、少しワクワクしました! それにチェシャ猫はオスよりメスの方が似合うと思うのです!…
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