2.持つべきは都合のいい友。
今日も今日とてゲーム日和。
ゲームのいいところはいつでもできることだと思う。雨天中止とか絶対ないし。私はこの先の未来仕事とかスポーツがすべてオンライン上で行われることを知っている。だから今やっていることも未来への投資であり、けして現実からの逃避ではない。
「お、2Xちゃんじゃん!」
ログインしてギルドに向かう途中で懐かしい顔にであった。
「最近、調子どうだ?」
「まぁまぁ」
この人は現在このサーバー内トップクラン「桜花繚乱」のクランマスターにて私と同じランク8のハンター、GAINAさんだ。たしかプレイヤーランキングも2位くらいだった気がする。そこは覚えていない。
この人は私がこのゲームを始めたときに、ほぼ同時にチュートリアルをしていたのでその流れで相手からフレンド申請してもらった。ゲームのリリース日からの仲なのでフレンドの中では一番付き合いも長い。そして、唯一自分の本音を話せる相手でもある。
「クラン入れて」
「いやー、俺も本当は入れてあげたいんだけどなー...。なにせもう定員オーバーでさぁ。おかげさまでトップギルドなもんでね!」
「でも、空きが出たら入れてくれるって...」
「みんなのガチ勢だから一日放置すらせんよ。なんだったらいつ寝てるのかすらわからんやつもいる」
く...やはり腐ってもトップクラン。
こうなればクランメンバーを脅してでも一人空きを作るほかないのか。
「因みに脅して抜かそうとかするなよ?」
「そんなことするわけない。失礼」
「そうか?お前なら平気でしそうだがな」
考えを読まれているというのか?この計画はだめだな。というか、脅すにしても私口下手だからそのままプレイヤーキルしちゃってまじで相手何が起こってるのか困惑しそう。やっぱり、やめておこう。
「ま、空きができたら真っ先に連絡するからよ。ていうか、自分でクラン作ればいいんじゃねーのか?」
この男正気か?この半年間の付き合いで私のこと何もわかっていないじゃないか。もし、私がクランをたちあげたとしてもメンバー勧誘はできないし、クランメンバーとも話ができないからすっごい空気ギスギスする。決まってる。
「まぁ、そうか。そりゃ失礼した」
「さっきから私の脳内読まないで」
「目の奥で訴えてくるからよ...」
私の考えが読めるんだったらさっさとメンバー1人クビにして私を迎えてほしい。理由は半日インしてなかったとかでもいいから。さぁ、早く。
「さて、そろそろ俺は行こうかな...」
「チッ」
こいつ知らないフリをしやがって。
「何もすることないくせに」
「なーに言ってんだ。これでもクランマスターだぞ?クラン運営忙しいの!」
「でも、サブマスターがほとんど運営してるってこの前聞いた」
「?!…だれから?」
「本人」
「リーナのやつ…。つーか、いつの間に仲良くなってるんだ?」
「この前、クランにあそびに行ったとき。あの人色々気にかけてくれるから好き」
「そーか。餌付けされてんじゃねーかよ」
餌付けだろうが、なんだろうがあちらから積極的に声をかけてくれて私が何も喋らなくても気に掛けてくれるのは私的に一番いい存在である。こいつにはもったいないくらいだ。もし、彼女が入ってくれるのならクランを作ってもいいとすら思う。
こんな生臭マスターとは違っていい子なのだ。というか、前から思っていたことがあった。ガイナと初めてあってフレンドになったとき、クラン作ったら普通私誘わないか?どうして次あったときには50人フルでクランができてるんだよ。おかしいだろ。
「ま、いいや。でも、俺らこのあとレイド行く予定だからよ。お、そうだ。久しぶりにお前参加するか?」
・・・。
「!…いく」
なんだかんだ言って本当に申し訳ない。
やっぱりガイナ様なんだよなぁ。トップクランのマスターは良いやつしかいない。彼が証明してくれた。
「そうか。それじゃ、クランで話通しとくわ。今日の22時にクラン集合な」
「わかった」
「それじゃあな」
そういうとそのまま去っていった。こういうことをしてくれるからあいつとは唯一親しく出来る。というか、声質的に多分リアルでも成人してるだろうしそういう大人の包容力的なのがちょうどいいのかもしれない。知らないけど。
そういえば、このゲームの世界観を説明していなかった。
この「Black Luna」はVRMMORPGで現在アクティブユーザーが世界で500万人いる超ビッグタイトルゲームだ。世界観としては聖国と帝国という2つの陣営に分かれてハンターとして冒険するというもので、当然PVPもある。
PVPエリアはマップ上に数箇所あり、キルしたポイントでのランキングもある。私はあまり対人戦をしたことがないのでランキングには載っていないのだが。
PVPエリアがあるように中立エリアというものが存在する。ここでは両陣営のプレイヤーが唯一友好的に接する事のできるエリアでありプレイヤーキルは禁止されている。しかし、基本的に相手陣営に対してあまり好ましくない人が多いので殺伐としているのはたしかだ。まぁ、一応戦争中の2国という設定だしロールプレイングと考えれば忠実ではある、のか?
あと、この場所に商業エリアというものがあってプレイヤー同士がアイテムのやり取りをすることができる。個人間のやり取りなので商業ギルドというやつも現れ始めたらしい。私もたまにそこで素材を買い取ることもある。基本的には何でもあるからな。
あと、クランについてか。
クランは自分のランクというものがあって、ランク3から自分で設立することができる。クラン内では無償でアイテムのやり取りができたり、クランランキングで上位に入ると報奨が貰えたり、別陣営のクランと戦争ができたりと入れば入り得なのだ。私は入ってないけど...。
現在このサーバーで一番強いクランが帝国側のガイナ率いる「桜花繚乱」
メンバー全員がランク4以上で構成されており、レイドや戦争にも積極的に参加するガチ勢のためのクランである。ランカーもゴロゴロ所属していて影響力が半端ない。
そして2位が聖国側の「月の涙」
少数精鋭ながらメンバーが全員ランク6という化け物集団である。リーダーの蒼龍は私と同じランク8。この前たまたまPVPエリアを通り過ぎようとしたら急に襲いかかってきた。なんとか逃げ切ったけど次あったら絶対許さない。
3位も聖国側の「砂上の艦隊」
リーダーがプレイヤーランキング1位の桜華のクラン。PVP特化のクランでしょっちゅう戦争を仕掛けてきている。それに常にPVPエリアで駐在しているため帝国側からのヘイトがめちゃくちゃ高い。それだけ強いってことなんだろうけど。それはそうとこの前襲いかかってきたことは絶対許さない。
まぁ、だいたいこのあたりが主要なクランか。まぁ、他にも「ティアちゃん親衛隊」や「パワー教」、「黒猫団」など面白いクランがいっぱいあるけど全部は紹介できないし。
全体チャット[月の涙が黒猫団に宣戦布告しました]
お、今全体チャットで月の涙がまた戦争を仕掛けたみたいだ。この戦争は一般ユーザーに公開されるので娯楽としても使われている。例えば、賭けの対象など。
戦争の前に自分がかけるものを決めてから戦争をする。基本的にはお金やアイテム、装備などだがプレイヤーを巡って戦争することもあるらしい。それって大丈夫なのだろうか?まぁ、運営が何も言っていないしグレーゾーンなのか。
なんにせよ、黒猫団はこの前も戦争のターゲットにされていたので心配だ。