悲劇のヒロイン
サラッとお読みください
ねえ、知ってる?心の病は確かに本人も辛いだろうけどね……周りの、そう家族も同じくらい辛いのよ?
私にはレイラという妹がいる。最初は可愛い妹で家族みんなで可愛がり幸せな時間だった。でも大きくなるにつれレイラは異常な行動をする様になった。
ハサミでカーテンを切り刻み、突然泣き出したり、次第に使用人に暴力を振るうようになり、家のお金を盗み散財するようになった。
それをお母様と私が注意すると激昂し、私達にも暴力を振るうようになった。医者にもみせたがレイラは叫びながら薬をよこせと医者に詰め寄り暴れる。
「どうしてお母様達はお姉様ばかり可愛がるの!?」
そんな事はない。お母様もお父様もちゃんとレイラを愛している。だからレイラの異常な行動をどうにかしようとしているのだ。
だが、レイラの中では悲劇のヒロイン。私達の思いなど関係なく虚言をはき周囲に醜態を晒す。
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「どうした、クロエ。……また妹の事か?」
「……アルフィー。レイラの事は社交界でも有名でしょ?気のおかしい女って。姉の私もおかしい女じゃないかって言われてるから、この場ではあまり私に近づかない方がいいよ」
幼馴染のアルフィーが心配そうに聞いてくる。だが、妹は社交界では恥でしかない。虚言、妄言を吐き男に擦り寄る。そして逃げられ、家で暴れるという繰り返し。
だが、夜会に出さないとレイラは暴れるので、しょうがなくレイラの見張り役として両親が私に泣き縋る。
帰ればまたレイラからの暴力が私に集中するというのに。もう疲れた……逃げ出したい。その言葉が心を占める。
「あまり、無理するな。顔色が悪い、あそこの休憩椅子で休め」
「ありがとう、アルフィー。そうする」
アルフィーに手を引かれ椅子に座る。飲み物をもらってくるからとアルフィーは人混みに入ってしまった。
「あら、お姉様。またアルフィー様を誑かしているのですか?アルフィー様は私の事が好きなのに、みっともない売女が」
また始まった。まわりがレイラの言葉に引いているのが分からないのか?もう嫌だ。今すぐこの場から去りたいが、レイラは執拗に私を追い詰めて、無視する私に最後はヒステリーをおこす。
するとアルフィーが水を持って帰って来た。
「アルフィー様!!久しぶりです!!私に会えなくて寂しかったでしょう?お姉様は具合の悪いフリをしてるだけですから、私と一緒にお話ししましょう」
アルフィーは冷たい目でレイラを睨み、私に水を渡してくれる。
「悪いが君と話すつもりはない。君には出来るだけ会いたくなかった」
「お姉様ね!!アルフィー様に何を吹き込んだの!!」
扇で持っていたグラスを弾かれる。グラスが割れる音と共に、私の心も壊れる音がした。
なんだこの異常な人間は。……もうこの人間を妹としてみれない。帰ったら両親に話し、レイラを修道院に入れてもらおう。無機質に淡々とそう思った。
アルフィーに心配されながらも、大丈夫と答えレイラと別々の馬車で帰る。
私はお父様の執務室に向かい、今日のレイラの様子を報告する。お父様は悩んだ挙句、レイラを修道院に入れる事にした。最近お母様は痩せ細り、レイラの暴力に怯えている。このままではお母様が先に壊れる。
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「レイラ、おまえは明日から修道院に入れる」
「どうして!?私は何もしてないわ!!私は何も悪くない!!お姉様ね!!お姉様が私を陥れようとしているんだわ!!」
「違う!!私達は長年お前の奇行や、妄言、虚言、暴力、金を盗んだりしてたのをずっと止めていた!!なのにお前は耳をかそうとはせず、反省もしない!!」
「そうやって全部私のせいにするのね!?」
「もういい、お前と話す事は何もない。話のやり取りも出来ないとは……」
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昼下がりの天気の良い午後、私はアルフィーとお茶会をしていた。妹が修道院に行ってからというもの、我が家は言って悪いが平和になった。
暴力に怯えることもなく、お金を盗み散財もしない。虚言、妄言で恥をかくこともなくなった。お母様も少しずつ元気になってきている。
「クロエ、少し顔色が良くなったな。レイラの事があって心配していたんだが」
「ありがとう……。妹の事があってアルフィーとの婚約を戸惑っていたのだけれど、これでやっとアルフィーと婚約できる」
アルフィーとはもっと早くに婚約する筈だったのだが、レイラがヒステリックになり先延ばしになっていたのだ。
周りからはレイラを修道院送りにした酷い家族だと言われているが、気にならない。周りに私達家族の葛藤や苦労など分りもしないのだから。
唯一アルフィーが私達の苦労や葛藤をみて、その上でアルフィーは私に求婚してくれた。アルフィーがいなかったら、私も壊れていただろう。
ただ、あのレイラが修道院で黙っている人間ではないのが恐ろしい。きっとレイラは戻ってくる……悲劇のヒロインとして。