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開けて悔しき玉手箱 

割れた鏡に映し出された真実

作者: 秋山太郎

少しだけ気持ちの悪い表現があります。

 私はいつも通り朝の支度を済ませると、いつも通りの時間に家を出た。


 駅のホームに降りてから少し離れた場所には、女性専用車両が止まる。私は、その手前に止まる車両に乗って毎朝通勤している。なぜなら女性客が一番少ないからだ。お互い嫌な思いをせずに済むので、これは非常に良い事だと思う。


 最近、この駅でちょっとした変化が起きた。女性専用車両の止まる正面の壁に、一車両分の大きな鏡が取り付けられたのだ。


 毎朝簡単な化粧をする人や、身だしなみをチェックする人などが良く利用している。わざわざ奥へと通り過ぎる男性客もいないので、迷惑にもなりにくい。


 周囲に視線を配りながら、不安そうな顔をして鏡を覗き込んでいる人がちらほらと見受けられる。


 あまり褒められた行為ではないのだろうが、勝手知ったる女性陣はお互い見て見ぬ振りをしているようだ。


 概ね好評であるのだろう。


 今日も私は、いつも通りの場所まで歩いて、いつも通り電車を待つ。毎朝同じ事を繰り返すのは大変だが、これも仕事だ。周りの人達も一緒に頑張っているのを見ると、自分も少し元気をもらえる。




 電車がホームへと駆け込んでくる。

 警笛と共に甲高い悲鳴のようなブレーキ音が一帯へと響き渡った。


 ――鏡の割れた音がする。


 ざわざわとした声などが遠くから聞こえてくる。きょろきょろと視線を動かしている人もいる。焦燥感に駆られた私も、同じような行動を取った。


 近くにいた女性達は、ひびの入った鏡を見ながらぎょっとして固まっている。

 

 大きく見開いた目の下には、濃い隈が出来ている人もいる。

 顔を真っ青にしている人がいる。

 口を手で押さえている人がいる。

 首をかしげている人なんかもいた。




 電車はいつも通り私達の前へと静かに停車する。


 乗降口が開いて、人が出て来た。


 電車の窓は、背後の女性達が吐き出している姿を反射している。震えて立ち止まっている人もいた。


 私は仕事をしなければならない。




 出てくる人を待ってから、私は車内へと乗り込んだ。

 

 窓からひびの入った鏡の中へと視線を向ける。


 ――あれは人間の頭か何かだろうか。


 骨が突き出し、脳はこぼれ落ち、血の海にぐちゃぐちゃの破片が散乱し、目玉が転がっている。


 鼓動が早鐘を打ち始めた。


 




 現実と虚構の狭間に揺られながら、私は自分の存在がひどく曖昧なモノになっていく気がした。




 


きっかけが無いと気が付かない事って意外と多いですよね、というお話。

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