3.大きな狼《マルキウルフ》
少年が歩みをはじめて一時間。その間、人間はおろか動物とも遭遇することがなく、彼に追随している影の長さだけが徐々に伸びていくだけだった。
(さて。結構歩いたけど、なんにもないよな……)
辺り一面に広がる平野。石や草こそあるものの、見渡す限り平らな景色に少年の表情にも疲労の色が見え始める。
(これだけ見晴らしが良いと、何か見えてもおかしくはないんだけどな……)
大きく変わることのない風景に少年は自身の選択に対して一抹の後悔を覚えた。
「もしかして、これ……道じゃなかった、か……?」
「ワンッ!」
しかし、そんな少年の不安を吹き飛ばしてくれるモノがいた。
風に揺れる、体を覆う白の毛。
ピンと空に向かって突き出した耳。
ふわりふわりと規則的に右へ左へと揺れる尻尾。
そのいずれもサラリと流れ動く毛並みを持ち、その白さは太陽の光を眩いまま返し、目にするものに神々しさすら感じさせる。これまで誰とも何にとも出会わなかった少年にとってはその印象がひと際強く表れていた。
だが、少年がそう感じた理由はそれだけではなかった。
「で、か……!」
地面についた四肢。
その足一本がほぼ少年と同じほどの大きさをしていた。
(犬、なのか……?)
足先で光る鋭い爪。
長い口の先でヒクヒクと動く鼻。
周囲の音を聞き分けるように忙しく動く両の耳。
体躯の規格こそ違うが、その風貌は少年の知る”犬”を想起させる獣――マルキウルフがそこに立っていた。
「…………」
「………………」
マルキウルフの両目が少年を捉える。
反射的に動きを止め、そのものの次の挙動に備える少年。緊張のあまり、瞬きすることを忘れてその様子を凝視していた。
巨大な動物と少年が見つめあうこと――数秒。
その均衡を破ったのは弱肉強食の世界に生きる獣の方からだった。
「グルルルルル……グワァァァァァッ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
辺り一面に響き渡る吠声。
その体の大きさに見合うボリュームに、少年の叫び声は飲み込まれ、誰の耳に届くこともなかった。
「グルル……!」
「ヤバ――」
ひと吠え終わり、身を低く構えるマルキウルフ。その姿勢の意味する展開、結果を少年はすぐに理解した。
はじめての方、はじめまして。そうでない方、ご無沙汰しております。氷雪うさぎと申します。この度は本作品をお読みいただき、ありがとうございます。
この作品はラノベ大賞作品を書くにあたって、準備運動や長らく作品を書いていなかった自分の文筋(作品を書く力)を鍛えなおす一環で書いています。
だいたい60分を目安に執筆時間を区切って書いていますので、文量は多少バラついてしまいますが、できるだけ毎日書く形でお送りしようと思いますので、どうか最後までお楽しみください。
ついに第三話を過ぎても少年の名前は明らかにできませんでした……。書く時間を確保するのもそうですが、文量を維持するのも難しいですね。こうして毎日書いていて改めて痛感します。
それではまた次回の後書きでお会いいたしましょう。
氷雪うさぎ