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お気の毒ですが神々の争いに巻き込まれてしまいました  作者: no name
0.お気の毒ですが神々の争いに巻き込まれてしまいました
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2.歩き始め《スタート》

 わずかに雲が流れる青空。吹き抜ける風は地を駆け、そこに倒れる少年の意識を覚醒へと向かわせる。

「ん……っ」

 わずかに開いた少年の瞳に映るは枯れた草に動物のものと思われる骨だけだった。

「ここは……まあ、知るわけないか」

 ゆっくりと体を起こし、五体満足かを確認しながら辺りを見回す少年。体の動きを確かめるように首、肩、腕、手と回していき、続いて下半身へと動作を移す。

「とりあえず、あの女の言うことが本当なら――」

 腰を回し、屈伸運動を繰り返しながら少年は自身の記憶を辿る。



 少年が目を覚ます以前、彼の記憶している世界――白の色だけが占める空間。

 そこで彼は三人の少女を同時に驚かせていた。

「な、ななな、なんてことを言ってるんですか……!!」

「ちぇー、結局男はみんな”そこ”かよ……!」

「あ、あわわわ……」

 三人の少女は言葉こそ違えど、みな一様に顔を真っ赤に染め、その視線を少年に向けて固まっていた。

「あんたたちの誰かと”契約”しなきゃいけないんだろ? どういう内容かは知らない……というか、教えてもくれないだろ?」

「「「…………」」」

 少年の問いに少女たちは揃って口を閉ざす。

 それでも少年は構わず続けた。

「だったら、最悪騙されても納得がいく子を選んだほうが得だろ?」

 悪意のない、晴れやかな表情で笑う少年に少女たちは何も言えずにただ固まっていた。

「とりあえず、あんたと”契約”はする。だからさっさとここから出してくれよ」

「そう、ですね。それじゃあ――」

 契約の合意と親睦を求め伸ばした少年の手。

 小さなため息を一つ吐き、彼の手を取ろうと少女が伸ばした手。

 しかし、二人の手が合わさることはなかった。


 どこからともなく聞こえる甲高い笑い声。

「ふふふ……よくも私の可愛い子を横取りしてくれたわね。この泥棒猫たち……! あは……アハハ……! どうしてくれましょうか、この薄汚いメス猫たちめ……うふふ……!」

「「「!?」」」

 その声は怒りに満ち、その場にいる三人の少女の身を強張らせた。

「ゲッ!?」

「もうバレてしまいましたの!?」

「そんなっ!? まだ”契約”もできていないのに!」

「お、おい……」

 姿こそ見えないものの、笑い続けるその声に少女たちの表情に緊張と焦りが見え隠れしだす。その様子は少年にも伝播し、彼にもわずかな動揺が走るまでにそう時間はかからなかった。

「あ、あたし用事を思い出したわー……」

「そういえば、私もー……」

「あ、ちょっ――」

 張り詰めていく緊張に耐え切れなくなった少女二人が少年に背を向けて走る。その姿は少年が引き止めようと伸ばした手が掴むよりも先に薄くなっていき、霧散してしまう。彼の伸ばした手が二人の居た所に届くころには完全に宙を掴むことになっていた。

「――と……って、消えちまった……」

「…………」

 次第に大きくなっていく声。

 それに合わせて少女の表情も険しくなっていった。

「……仕方ありません」

 静かに息を吐き、少女は目を閉じる。事態を何一つとして飲み込めない少年はただただ困惑するしかできなかった。

「ひとまずあなたをここから出します。詳しい話は後でしましょう」

「おい、何がどうな……って、なんじゃこりゃっ!?」

 ややあって閉じられていた少女の目が開かれる。


 時を同じくして少年の足元が――消えた。


 重力に従い、少年の体は底の見えない黒き穴に引き込まれ、落ちる。

「お、おい!? 落ち――」

「いいですか? 目を覚ましたらまずは人里に向かってください」

 少年の体は加速度的に下へ、下へと進む。

「ちょ、おまっ! ふざけ――」

「その間、決して戦っちゃダメですからねーっ!!」

 穴の中から少年の叫び声がこだまするなか、少女は声の限り叫んだ。


 その声が彼の耳に届いたかどうかは、

 神のみぞが知ることだった。



 準備運動とともに回想を終え、少年は一息つく。

「――とりあえず人里……村、だよな。まずはそこへ行けってことなんだろうけど……」

 自分を暗い穴のなかへ落としたであろう少女への恨み言を胸にしまい、一面に広がる荒れ地を眺める。

 少年のくるぶしほどの高さの草に、ピンポン玉ほどの石ころ。見渡す限りに直立して動く物体の影は一つとして見えなかった。

「とりあえず、道なりに行くしかないか……」

 当てもないない旅路に深いため息を落とし、少年は歩を進める。

 彼の歩みの道標(みちしるべ)となったのは無秩序に転がる石や生える草の世界に引かれている線だった。

(多分これ、道……だよな?)

 人が往来するほどの太さでまっすぐにのびている線。草や石の姿がほぼない――土色のラインは自然の道路ならではの、長い年月をかけて人や車に踏み固められたことを物語っている。明確な根拠のない――不確実なものではあるものの、今の少年にとっては十分な標だった。

(間違ってたらかなりキツいけど、今のところ頼れるのはこれだけだし、行くしかないか――)

 ただただ歩き続ける少年。

 その足元に広がる影はまだ小さかった。

 はじめての方、はじめまして。そうでない方、ご無沙汰しております。氷雪うさぎと申します。この度は本作品をお読みいただき、ありがとうございます。

 この作品はラノベ大賞作品を書くにあたって、準備運動や長らく作品を書いていなかった自分の文筋(作品を書く力)を鍛えなおす一環で書いています。

 だいたい60分を目安に執筆時間を区切って書いていますので、文量は多少バラついてしまいますが、できるだけ毎日書く形でお送りしようと思いますので、どうか最後までお楽しみください。


 そろそろ主人公の”彼”について書けるかなと思ったのですが、どうやらまだ先になりそうです……(今回書こうと思ったのですが、時間切れになってしまいました)

 次回で書くことができるのか、はたまた書けずに持ち越すことになるのか……楽しみにしてもらえるとこの上なく嬉しく思います。


 それではまた次回の後書きでお会いいたしましょう。



氷雪うさぎ

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