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お気の毒ですが神々の争いに巻き込まれてしまいました  作者: no name
1.始まりの村とモラトリアムの終わり
19/21

19.夢現の手《ベルゴーニャ》

 太陽が昇り、朝。まだ日の高さは低いにもかかわらず、平山(ヒラヤマ)の村には活気が溢れていた。

 村一番の大通りにはこれから冒険や魔物の討伐、はたまた悪人の捕縛などに向かうべく、様々な防具を身に(まと)い、自らの身の丈ほどある大剣や槍を背負って闊歩する者が並ぶ。

 そんな金払いの良い客(上客)|を相手に商いを営んでいる飲食店や武器や防具の店など、多くの店がはやばやと『営業終了』の札を裏返し、一人でも多くの人間を店内に連れ込もうと声に熱を込めて営業に勤しむ人々。

 一日の売上はこの一時で決まる、と言わんばかりに熱気を放つ者たちの声の活力にあてられ、特に理由もないまま目を覚まし、再び床に就くこともなく朝の支度を始める者たち。

「んっ……」

 そうした一日の始まりを生き生きと迎える生活リズムは山田太郎(やまだたろう)たちの泊まる宿屋も例外ではなく、まだベッドの温もりが恋しい者たちに遠慮することなく早々(そうそう)に旅支度を整えるものや、空けられた部屋の清掃をする店員たちで騒々しくなっていた。

「ん……っ」

 活動的な喧噪の音は山田太郎(やまだたろう)たちの眠る室内にも届き、穏やかな眠りの時を一気に目覚めへと導こうとする。

 |女神オーティスとの契約《昨晩の一件》のせいか、あるいは日が昇ったとはいえ、未だ薄暗い室内のせいか、太郎の意識は夢と(うつつ)の間を揺蕩(たゆた)っていた。

(こんな時間からみんな起きてるのか……?)

 地平から太陽が顔を出せば活動を開始する――平山の村の超朝方ライフサイクル。

 そして自分の名前すらわからない状態で見知らぬ世界を歩き、危うく命を失いかけた緊張。

 さらに、オーティスと神々の争いや”契約”についての話をして夜を更かしたことによる睡眠不足。

 それらが睡魔となって、太郎を夢の世界に留まらせる結果となっていた。

 だからこそ、この少年がとった行動を責められるものは誰もいない。

(まあ、カイトとの待ち合わせにはまだまだ時間があるし――)

 わずかに開けた目で部屋の暗さを確認すると、再び深い眠りにつこうと寝返りをうつ太郎。

 刹那、返した手に柔らかな膨らみがおさまり、その弾力のあるやわらかな感触を夢現の少年(太郎)に伝える。

「んっ……?」

 布団とは違う、ほのかに湿り気を帯びたやわらかさに太郎の眉がピクリと動いた。

(なんだ、これ……?)

 指先に力を込め、包み込むようにして握ると指先がわずかに沈み、すぐに押し返してくる。

 手のひらの中央にわずかな抵抗を感じながらも、太郎は揉み続けた。

(ボールみたいに柔らかいけど……大きいな……)

 手におさまりきらず、手のひら全体で握り、そして放す。

 何度も何度も。太郎自身、どうしてなのかはわかっていない。

 だが、彼のなかにある謎の本能が囁いていた。

 ただ一言、黙って揉め……と。

(いったい何なんだ、これ……?)

 その柔らかさ、温もりに惹かれ、太郎の手は吸い付くように張り付き、その場から離れることはなかった。

「んっ――」

 そうして何度も揉んではその感触を確かめることを繰り返していくばく。

 あまりにもその”行為”に夢中になってしまっていたためか、太郎は聞き逃していた。

「――ぁ――」

 ひと揉み、

「――んっ――」

 ひと揉みと、太郎の手が動くたびに漏れ出る艶のある声の存在を。

「あ、あの……」

 消え入りそうなほど小さく、そして震える声。

 その声の主は驚くべきことに、夢とも現実ともわからず彷徨(さまよ)っている太郎の文字通り、目と鼻の先にいた。

「んっ……?」

 普段感じることのない声の距離に、反射的に太郎の目元がピクリと動く。

 ゆっくりと開かれたその目には、

「そ、そろそろ止めてもらえないですか……!?」

 茹でられたタコのように顔を真っ赤にした金髪の女神――オーティスの姿があった。

「え……!? え? な、なんで……!?」

 その光景に、太郎は驚いた。

 

 一つ、金髪の少女が|話すには適さないほど近い距離にいる《自分と同じベッドに寝ている》ことに。

 一つ、金の髪をなびかせる女神が一糸もまとわぬ、まったくの裸で自分と同じ布団に包まれていることに。

 一つ、布団からのぞかせるオーティスの肌の色がすべて真っ赤に染まり、目を潤ませて自分を恨めしく見つめていることに。

 一つ、そんな幼さの残る少女の上半身――その身に似つかわしくない豊満な胸を、己の右手が今もなお鷲掴みにしていることに。


 目の前で起こっている事態に太郎の思考はショートし、その一切の動きを停止していた。

 だが、白磁のように白い少女の胸に現在進行形で触れているその手は、動きを止めるそぶりを見せない。

「んぁ……! あ、あの……!!」

「え? あ、わぁっ!?」

 ワキワキと動くその手に、険しくなるオーティスの表情。

 ようやく起こっている事を理解した太郎は驚き、彼女から距離をとろうと反射的にベッドから飛び退く。

 ベッドから飛び跳ね、大きく後ろに退いた太郎にあわせ、彼の上にのっていた布団が宙を舞う。

 その結果、

「あっ……」

「ひっ……!? い、い――」

 彼と同じ布団に包まれていた――オーティスの身を隠していた布もその場から消え去ることを意味していた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」

 その日、宿屋にいた者たちの耳には、


 少女の大きな叫び声と、

 耳にしたことのないほどの大きな殴打音と、


 そして、

「ブベヘモグギャベログロバッカソビンッ!?」

 少年が発した謎の叫び声が記録されたのだった。

 はじめての方、はじめまして。そうでない方、ご無沙汰しております。氷雪うさぎと申します。この度は本作品をお読みいただき、ありがとうございます。


 今回で十九話ですね。今に比べて文量が少ないこともあって話数が多くなっていますが、それでもそこそこの量になってきたのではないかなと思います。

 今話は一応本編なのですが、前回と同じく閑話休題的なお話になります。少し桃色めいたお話になりますが……太郎君とオーティスちゃんはいったいどうして同じベッドだったのでしょうか。その辺りが明らかになることはあるのか……次話をお楽しみください。


 男性なら一度は夢見るラッキースケベ……どうして物語の主人公は一度は経験するんでしょうね。ちょっと羨ま……いえ、不思議に思えます。


 それでは次回も楽しみにお待ちいただければ幸いです。



氷雪うさぎ

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