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お気の毒ですが神々の争いに巻き込まれてしまいました  作者: no name
1.始まりの村とモラトリアムの終わり
14/21

14.初対の夜《プバターテム》

 光源や外敵の獣たちへの威嚇として焚かれている篝火(かがりび)

 くべられた薪がバチバチと音を立て、燃え上がる。

 弾けた音は闇夜の宙を抜け、どこまでもその音を伝えていった。

「さて、と――」

 宿屋の一室で山田太郎(やまだたろう)は小さく息を吐き下ろす。

 窓から見える篝火台から聞こえる音を耳に、部屋に備え付けられた椅子に腰かけ、部屋の隅で直立している少女――オーティスへと視線を合わせた。

「――話の続きを聞かせてもらおうか」

「そう、ですね……」

 頬を上気させ、服の裾を掴んだままオーティスは答える。

 部屋の壁に背を預け、床の一点を見つめ続ける少女に太郎は(いぶか)しく思っていた。

「あのさ、部屋に入ったきりずっとそうしてるけど、何かあったのか?」

「あ、いえ。そういうことではないのですが……」

 視線を下ろしたまま、オーティスは続ける。

「その……とりあえず、窓を閉めてもらってもいいですか……?」

「えっ!? あ、ああ――」

 紅潮した頬をさらに赤くするオーティスにドキリと心臓を打たれたような感覚に襲われる太郎。目を潤ませて懇願するオーティスの声のか細さに、あらぬ想像が脳裏によぎる。

 己が抱いた邪な推測、感情を悟られまいと、太郎は慌てて窓を閉めた。

「ありがとうございます……」

「あ、いや、どう? いたしまして?」

 おずおずとベッドに座り、小柄なその身をさらに小さくするオーティスに、太郎の口は言葉を詰まらせ、声を裏返らせていた。

「…………」

「………………」

 窓を閉めたことで外界と切り離された室内。

 部屋に流れる、黙り沈まった空気。

 重く鈍い時間の流れに、太郎は目のやり場に困っていた。


 ベッドに座る少女――オーティス。

 うねりなくまっすぐに流れる、白みがかった金色の髪。

 穢れを感じさせない白い肌を覗かせる首もと。

 鎖骨のラインをチラリと見せるワンピース。

 胸元や袖口、腰から裾にかけて装われたフリルが、太郎の持つ少女の印象をより幼いものにさせていた。


 閉じられた足の上に置かれている手はまるでオーティスの心模様を表すかのようにギュッと握られており、腰を下ろしているベッドと相まって太郎の平静を見事なまでにかきむしりきっていた。

「あの……お部屋、よかったんでしょうか……?」

「びぇっ!?」

 ポツリとこぼしたオーティスの声に、全身の筋肉がビリッと緊張する太郎。

 若男(じゃくなん)らしい、俗な妄想から現実に引き戻されたショックで背筋がピシッと伸びる。

 沈黙していた少年が見せた突然の奇行に、オーティスの口はポカンと開いたままになってしまっていた。

「あ、あー……」

 そんな彼女を前に、しばしの間何が起こっていたのか理解が追い付かず、固まる太郎。

「……まあ、なんか予定が変わったみたいだし……ま、まあいいんじゃない……かな?」

 ややあって、フリーズした思考回路がその働きを取り戻し、自身の落ち着かない心をなだめる。ようやく彼女の気にしている『本来この部屋を使う予定だったカイトが部屋を譲ってくれた』ことに考えを向ける頃には金髪の少女の口もすっかり閉じられていた。

「そう、ですか……」

 再びしゅんと縮こまってしまうオーティス。

 その反応に太郎もどうしていいかわからず、口を閉ざしてしまうのだった。


 シンと静まり返った宿の一室。

 明かりとして置かれているランプの灯が揺らめき、二人の影を歪ませる。

「あの、さ」

 時折聞こえた通路を歩くものの足音もなくなり、静寂が支配する世界。

 声をかけることもはばかられてしまいそうな静けさを打ち破るように、太郎がゆっくりと口を開いた。

「とりあえず、教えてくれないか。その……”契約”について」

「え? でも……」

「元々は”契約”しなきゃこの世界には来られなかったんだろ? だったら俺も約束を守らないとフェアじゃないからな」

 オーティスの『既にこの世界にいる以上、律義に約束を守る必要がないのでは?』という懸念を拭い去るように言葉を重ねる太郎。

 しかし、金髪の少女の顔色は暗く、頬の赤みをより一層濃くして俯くばかりだった。

「そ、そうですね――」

 本来オーティスより説明を受け、その場で彼女と結ぶはずだった”契約”。

 静々(しずしず)と紡がれていくその話に、太郎は何も言わずに耳を傾けた。

 はじめての方、はじめまして。そうでない方、ご無沙汰しております。氷雪うさぎと申します。この度は本作品をお読みいただき、ありがとうございます。

 この作品はラノベ大賞作品を書くにあたって、準備運動や長らく作品を書いていなかった自分の文筋(作品を書く力)を鍛えなおす一環で書いています。

 だいたい60分を目安に執筆時間を区切って書いていますので、文量は多少バラついてしまいますが、できるだけ毎日書く形でお送りしようと思いますので、どうか最後までお楽しみください。


 今回で十四話目です。オーティスちゃん、可愛いですね。お顔がわかると彼女の魅力がより伝わると思いますが、文字のみでお伝えせねばならないのが少し口惜しいです。

 いよいよ冒頭でオーティスが結ぼうとした”契約”のお話が出てきましたね。次回、ついに”契約”の詳細が明らかに……なるのか!?


 それではまた次回の後書きでお会いいたしましょう。



氷雪うさぎ

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