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塾から帰宅してから、ヒロキは部屋に閉じ籠りゲームをしていた。それはベッドに入ってからも続き、朝寝坊をしてしまった。
ブレザーに着替えて、ペン立てにあった定規を取ろうとしたら、慌ててペン立てごと倒してしまった。散らばったペンなどに混じり、タカフミから貰った目薬が入っていた。
タカフミが転校して十数日が過ぎていた。彼は他クラスの生徒というのもあるのだろう。ヒロキの教室内は、普段と何も変わらない、いつも通りの日常となっていた。
それならタカフミのクラスはどうなのか。ヒロキが想像するに、自分のクラスと殆んど変わらない時間が流れているのだろうなと思った。
変わったのは、ヒロキの心の中だけだ。この心情は、日にちが経過すると共に消えてしまうのだろうか。大の友達。そんなことを言ってた人が、一年もしないうちに新しい友達と仲良くなり、それはもう過去の人みたいに、人生のページが日々更新されていく生徒を見たことがある。
自分はそうなりたくない。ヒロキはポケットに手を入れると、八角形の透明のケースを握りしめた。
「送れてごめん。今日小テストだよな」担任の曽ヶ端が、足早に教室に入ってくると、いつもと変わらぬ朝のHRが始まった。手短に連絡を済ませ、曽ヶ端は各列の一番前の生徒に急ぎ用紙を配っていく。
ヒロキは既に諦めていた。今回の小テストも、せいぜい二問がいいところだろう。塾でやった問題がどれだけ出題されるかにもよるけど、今週も追試だと深夜のゲーム中から決め込んでいた。遅刻をする手もあったが、それだと今日の放課後に、これから行う小テストを受けなければならなくなる。それだけは避けたいと、ギリギリ遅刻は免れたのだ。
前に座る生徒から用紙を受け取り、ヒロキはそれを机に置いた。地理の問題が十問並んでいた。
「全員渡ったか、だったら直ぐ始めてくれ」
先生の声を合図に、生徒たちはペンを動かしていった。ヒロキは名前を書きながら、目を疑った。これは回答用紙なのか。答えが全部見えていた。
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