7
ヒロキは、今週末まで学校に投稿してこなかったタカフミのことが気になっていた。帰宅してから、彼の家へと赴くが、人のいる気配はしなかった。
普段の週末はいつも家族が揃っているのに、自動車もなく、ヒロキは彼がもうここに居ないことを感じ取ると、寂しさが募っていた。
あれからヒロキは、暫く途方に暮れた日が続いていた。六時間目の授業が終わり、塾に行った帰り駅前のゲームセンターに寄ろうか迷った。明日は学校。でも、三十分くらいなら寄り道しても別にいいかな。そう思い入ろうとしたところで、やっぱりやめることにした。
上手くいってもいかなくても、所詮は自己満足に過ぎない。普段なら、タカフミに会った時にこのことを話して楽しめた。気持ちが萎縮してきているのが分かる。
例えばアーケードゲームで、呆気なくゲームオーバーになってしまったのを誰かに見られると、恥ずかしい気持ちに犯されるような感覚が過る。だから、その席に座り小銭を投入することが出来ない自分がいる。
何か辛いことや面白くないことがあったりしても、タカフミと話すことで彼は励ましてくれたり、「気にするなよ」と言ってくれたりして、気持ちを楽にさせてくれた。
自宅に帰り、母親のお帰りなさいの言葉を聞こえないふりをし、遅い食事の後に風呂に入り部屋に閉じ籠る。一旦は席に座り、机に勉強道具を出してノートと教科書を開く。三十分もしないうちにやる気が失せる。英語をやるが、英文を訳せない。単語を幾つか調べているうちに、飽きがきて辞書を閉じる。
夜中の十二時近くから、テレビゲームを始めた。漸く自分の時間が来たことに、胸が高まる。昨日の続きを早くしたくて、学校にいる時からうずうずしていた。
画面に英文字のタイトルを出したまま、そっと部屋のドアを開ける。寝静まった空気の中、冷たい廊下を歩き暗い台所を彷徨う。冷蔵庫をゆっくり開きペットボトルのコーラを取って閉めた。目が慣れてきて薄暗い視界から、今度は戸棚の窓を横に滑らせてコップを抜き取る。廊下を忍び足で歩き部屋の扉を開けた。
ニヤニヤした顔でコップにコーラを注いでいく。一気に三分の二ほど飲んでから、そっと絨毯の上にコップを置いた。喉がジンジンして目が冴える。ゲームを進めていくと、更に目が冴えてきた。
四時近くにベッドに入り、スマホのゲームを少し進めることにした。だが、やっているうちにやめるタイミングを逸してしまった。カーテン越しの窓ガラスが薄明るくなってきたのを認めると、やばさが頂点に達し、そそくさとやめて身体を横に向けて寝た。
朝、母親に三度起こしに来られて、慌てて重い身体を起こした。家を出る時間になっていた。ブレザーに速攻着替えて、机に乗ったままのノートと教科書を鞄にしまった。筆記用具をいれようとした時、定規がないことに気付いた。
何処にやったかと目を泳がせ、机の端にあるペン立てに刺さっていた。取ろうとした時、つい勢いでペン立てごと倒してしまった。
「この時間のない時に」独り言をぼやき、ペンや消しゴムを筒状の入れ物に戻していく。その中に、大切にしていた筈の物がどさくさに紛れて出てきていた。
タカフミから貰った目薬だった。まさか、ここにあったのかと、驚きと喜びが同時に込み上げてきた。あの日彼から貰った後行方不明になり、ひょっとしたら外で落としたかもしれないと半ば諦めていた。
目もチカチカしているし、早速さしてみよう。天井を見上げ、ヒロキは目薬を両目に一滴ずつ垂らした。
一年の頃、授業前にタカフミが目薬をさしていたのを見たことがあった。ゲームで目が疲れていたのだろう。いや、あいつの場合はゲームと勉強による目の疲労だな。
ヒロキは、手のひらに乗せた目薬を握りしめた。そのまま掛け時計を眺めた。走ればギリギリ間に合いそうだ。目薬をポケットに入れて、鞄を手に急ぎ部屋を出た。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。感想などありましたら、宜しくお願いします。今後の活動に活かせたらと思っています。