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タカフミから転校する話を聞いて、言葉を失うヒロキ。ゲーム友達でもあり勉強も頑張って欲しいことから、去り際にヒロキは目薬を貰った。
翌週の朝、タカフミは登校して来なかった。休み時間に彼のクラスの男子生徒に聞いてみたら、先生は風邪だと言っていたそうだ。先週末に会った時には、風邪らしい症状なんて全く感じられなかったのに。
翌日も翌々日も、彼は学校へ来ることはなかった。月曜日にも訊いた生徒に再び声を掛けると、今日のHRから彼について何も話さなくなったと言われた。
タカフミのやつ、一体どうしたんだ。やはり風邪だとは思えない。ヒロキは勇気を出して、帰りのHR後に彼のクラスの担任に廊下で声を掛けた。しかし、「瀬名なら風邪だろう」と軽くあしらわれ相手にされなかった。
タカフミは今週、学校に来ることはなかった。このまま落ち込んでいてもしょうがない。土曜日の午後、ヒロキは学校から帰宅後、リュックの中にゲームソフトを数本入れて家を出た。もう一度でいい、遊んだ後に話したいこともあった。駅に向かい、電車を乗り降りして彼の家を目指した。
タカフミの家の前に立つと、玄関隣にあるぼやけた窓ガラスは暗く、冷たい雰囲気が漂っていた。
インターホンを押してみる。室内にこもった音が響き渡る。人の気配は感じられない。ドアをノックしてみても、静寂なままだった。車庫には自動車がなかった。そういえば、週末に彼の家に行くと家族がほぼ全員滞在していた。父親、母親、妹、そしてタカフミと揃って過ごしていた。見るからにほのぼのとした人たちだった。帰り際に、茶の間にいる父親に「お邪魔しました」と挨拶をしてヒロキは瀬名家を出ることがよくあった。
自動車がないということ。この間、偶然タカフミに会った時のことを思い出すと、ヒロキは唇を噛みしめ、泣くのをこらえた。
玄関を後にして、道路に面したところでヒロキはふと振り返った。二階の部屋を徐に見上げた。タカフミが窓を開き、嬉しそうに入ってきていいよと、言っていた情景が浮かんできた。
週明け。他クラスの男子生徒が、わざわざヒロキの教室にまで入ってきた。席まで近寄ってきて「瀬名君、転校したって朝のHRで先生が言ってたよ」と教えてくれた。
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