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宜しくお願いします。
足音を大きく立てて、円柱の並ぶ出入り口に坂口と若林の二人が追い付き到着した。
「これは仲良くお揃いで。待ち合わせかな」
肩で息をしながら、坂口が言った。若林は膝に手をついて草臥れている。
どうしてここにユイカがいるんだ。しかも、あいつの名前を。彼女は涙目でヒロキを見た後に、走ってきた二人を見て戦いていた。
ユイカの前にヒロキは立った。そして、「立て」と小声で首を向けて言った。
「逃げようってったって、そうはいかねえぞ」
出入り口に米田が立っていた。缶ジュースを片手に持っていた。
「お前どこ行ってたんだよ。こっちは大変だったんだぞ」
坂口が腰に手を当てて米田を見ては、安堵した顔になっていた。
「こいつら、やんのか?」米田がシャドーボクシングのポーズをしだした。
「女はやらなくていい。まあ少し待て」
坂口は米田からヒロキの方に目をやった。
「古村、さっきの交換条件、まだ間に合うがどうする。一応俺は平和主義でな。なるべくなら、何事もなく解決したい」
何交換条件て? ユイカが背後から、ヒロキの耳元に話しかけた。彼は答えることなく、ただひたすら首を左右に振って前を見た。
「自分も平和主義者だ。でも、その条件はのめない」
「お前ずるいぞ。聞きたいことを聞いといて、俺らの要件は無理だとか、ふざけてんのかおい」
いかつい声で、若林がヒロキの目を逸らさず言った。
「出来ねえのなら、ちょうど目の前にもいることだし、力ずくでもやるからな。お前分かってるよな、この状況。ちくりれねえように、恥ずかしいとこも見さしてもらうからな」
呼吸が浅くなる。ヒロキは前にいる二人の顔をまともに見れないほど、恐くなってきた。もしそのようなことがされれば、もう学校に行くことも出来なくなるかもしれない。それとなく彼らは。自分のことを誰かしらに言いふらしそうだ。でも、ユイカが辛い目にあうのなら自分が被った方がいい。彼女にキズを負わせたくない。ことの発端が自分自身なのだ。自分がやられれば、済むだけの話だ。
「古村君」
背後からユイカがか細い声を出した。
何? というアクションを振り向いて告げると、彼女は不気味な笑みを浮かべていた。
「後で何があったのか教えてね」
返事を聞こうともせず、ユイカはジュースを飲んでいる米田に話しかけた。
「美味しそうだね。自販機どこ? 私も買いたいんだけど」と言った瞬間、速攻出入り口を飛び出し、左の方角へ去っていった。
「あっおい!?」
ユイカが米田に背を向けた時、缶ジュースの持たない手で、彼女の髪の毛を触ろうとした。間一髪、彼女の足が速く出て難を逃れた。
がら空きになった出入り口から、ヒロキは全力で飛び出した。
「この野郎、古村ーっ!」
怒り狂った坂口が襲いかかってくる。若林は、さっきの走りで足が疲れ切ったのか、身体は反応したが足は直ぐに出てこないでいた。
ユイカとは逆方向の右側に逃げていくヒロキ。駅まで頑張って走ろう。駅側には警察署もある、人もまだいる筈だ。そういう場所なら、彼らも手を出すことはしないだろう。疲れがきても、店には入らないようにしなければならない。奴らなら待ち伏せし兼ねない。入るところを見られなければ匿える。見られた場合には、一貫の終わりだ。
ユイカはどうしているだろう。彼女の勇気ある行動に、度肝を抜かれた。
何があったか教えてと言っていたが、同じ台詞を返したい。駅に行けば、会えるかもしれない。ユイカの家の最寄りの駅はここではない。
路地を曲がったりしていくうちに、坂口が追ってくる気配は消えていった。
脹ら脛が張り、重い足取りでヒロキは駅に着いた。
暫く待って、駅構内を歩き尽くしたが、ユイカを見つけることは出来なかった。
腕に目をやると、二十二時を過ぎていた。
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