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Answer  作者: 釜鍋小加湯
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 塾から帰宅して、ヒロキはいつものように部屋に閉じ籠った。

 期末テストの結果次第で、ユイカとデートが出来る。そして、このまま行けばタカフミと同じ高校に行けるかもしれない。再会を果たせると信じて。

 ユイカが彼女になってくれれば、親友と彼女のいる高校生活が待っている。

 ヒロキは、将来への期待を膨らませていた。

 期末テスト当日。ヒロキは目薬を両目に二滴ずつ垂らした。気合いを入れるときは、二滴と決めていた。朝のHR(ホームルーム)後の小テストや、塾のテストの時も同様だ。これでいける。いつも通りのルーティンでテストに挑んだ。

 十日後。六時間目の社会科の授業にて、五教科目となる期末テストの答案用紙が戻ってきた。

 ユイカの席にヒロキは近付いていき、テストの点数を比べた。彼は、全ての教科で彼女より得点が上だった。当初ユイカは、勝ち気満々でヒロキと点数を比べていた。だが、三教科目の国語のテストが戻ってきて三連敗を喫して以来、意気消沈してしまっていた。

 放課後に約束していたことを話すと、ユイカは舌の先っちょだけ出して「覚えてたよね」と言って、承諾してくれた。

 中学校生活最後の夏。最高の夏休みにしたいとしていたヒロキの思いが、ついに叶うことになった。

 一学期の終わり。終業式の後に、ユイカと連絡先の交換をした。クラスメイトは、ヒロキを努力と勇気のある生徒として見るようになっていた。休み時間から帰宅時に至るまで、主役に近い扱いをした。クラス全体で何かしらの話になると、意見を求められたりするのだ。声をかけてきては話題を振ってきたり、仲良くなろうとする生徒も男女問わず出てきていた。

 太陽が地面を溶かすほど照り、がなるように蝉が鳴き、袖の触れない肌が小麦色に焼けた八月のある日、ヒロキは「彼女」と待ち合わせをした。正式に彼女とはなっていないが、連絡を取り合ううちに塾に一緒に行き来するまでの関係になっていた。

 夏休みに入ってから、タイミングを見計らっていた。いつ告白しようかと、一人になると頭を巡っていた。デートの日を二人で決めた時、この日にしようと心で決めた。それは、塾のない日でお互いが一日中自由な日だ。

 ユイカの最寄りの駅で待ち合わせをするために、ヒロキは久しぶりに電車に乗った。

 改札口でユイカに会った瞬間のことだった。キスでもするかのような表情で、「頭の良い古村君、チュース!」と、敬礼のポーズをとって挨拶をしてきた。頭の良いなんて言われても、嫌みは全然感じなかった。ヒロキが笑顔で答えると、ユイカは楽しそうにはしゃいで隣に立ち一緒に歩いた。

 駅前の喫茶店に入り、趣味や好きなことについて話した。ユイカは洋楽が好きで、ヒロキには無知の話だったが話を進めていくうちに、CDを貸してくれることになった。オススメのアーティストで、力説してくれた女性シンガーだ。

 ヒロキもゲームの話をして、好きなロールプレイングゲームの話をした。こんなに熱く話したのはタカフミと話して以来だ。あっという間に時間は過ぎた。

 外に出てから、そう時間も経たないうちに露出部に汗が浮いてきた。二人はハンカチで腕や首、顎といった箇所を拭いた。そして駅で電車に乗り、今度は水族館へ向かった。

 ユイカは、兼ねてからここへ来たかったそうだ。混んではいたが、トンネルの周りから地面に至るまで、水槽の中をまるで歩いている場所には興奮した。大小問わず様々な魚に囲まれ、夏の猛暑とは真逆の世界に誘われた。彼女と行けたことで、楽しさも倍増したのは言うまでもなかった。

 再び電車に乗り、ユイカの降りる駅で一緒に降車した。コンビニに寄りジュースを買い、駅から直ぐの広場にあるベンチに座った。そこは、彼女が案内してくれた。

 サッカーをしていた子供たち三人が、少しして広場を離れた。

 二人だけで今日のことを振り返り、ジュースをほぼ飲み終えたとき、ヒロキは意を決した。

「ユイカ、今日はありがとう。凄く楽しかったよ」

「こちらこそありがとう。私も久々に楽しい一日だったよ」

 ヒロキは鞄から小さな四角い袋を取り出した。

「実はこれ」

「何?」

「プレゼント。受け取って欲しいんだけど」

 ユイカは口に手をやり、赤面した。夏の暑さから既に頬は赤くはなっていたが、桃色から赤色になった風に、ヒロキには映った。

「ありがとう」

 頭を軽く下げて、ユイカはお礼をした。小さな袋を太股の上に乗せて、その上に手を重ねた。

 ヒロキは「いえいえ」とはにかんだ顔で答えた。

 彼のあでこや鼻の下には、汗の粒が流れてきていた。言おう言おうと、心で思えば思うほど言えない時間が流れていく。暮れ泥む空。ヒロキは直ぐ隣でプレゼントを見つめている横顔に、自分の思いを伝えた。

 ユイカは渋い顔に表情が変わった。視線は一度顔を上げたが、思いを伝えていくうちに、また視線は落ちていった。そんなつもりで、デートをしたわけではないというのが、その態度から受け取れた。

 ヒロキは無理な強要はしなかった。

 ユイカは重い口を開いた。付き合えない理由をヒロキの目を見て話してくれた。今年は受験があるから。というのが主な理由だった。

 納得するしかなかった。ユイカは頭が良いといっても、凄く努力をしているのだろう。

 今二人が付き合い受験に影響があれば、後悔でしかなくなると、沈黙の後ユイカは話を繋げた。

 ユイカはプレゼントを返すか躊躇している風だった。ヒロキは「プレゼントは貰ってくれるね」と視線を下げていた彼女に言うと、コクリと首を縦に振ってくれた。

 駅の改札口で手を振り、二人は別れた。鞄を肩に背負い、ユイカは笑顔で送ってくれた。ぎこちなく思えたのは、気のせいだろうか。鞄の中には、ヒロキのあげたプレゼントが入っている。ハンカチだった。

 外出時とかに、使ってくれたらと思っていた。次のデートで使ってくれたらとも。またデート出来るかな。テストで勝たなければ無理なのかな。

 焦燥感に満ちた心で、電車の吊革を握っていた。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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