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休み時間。ヒロキはやんちゃな三人組に絡まれた。何でも急に勉強が出来るようになり、追試を受けなくなったことが気に入らないらしい。
カンニングを疑われるが、鐘が鳴り何とか凌ぐことが出来た。その際落下した目薬も、割れたりしないでホッとしていた。
放課後に塾があり、その帰りヒロキは上機嫌で街を歩いていた。還暦を過ぎた塾講師の林に、「急に伸びる生徒がいるが、古村の場合は化けたな」と言われた。
林が出してくる問題、それと塾で行われたテスト。そのどれもがで、ヒロキは高得点を叩き出した。高得点ではあったが、満点には敢えてしなかった。空欄にしたり計算ミスをして、何問かわざと間違えた。
急激に難問まで解けるようになり、この間やんちゃな三人組から絡まれた。塾講師からも疑念の目で探られるのを危惧した。
今のところは大丈夫そうだ。自慢の生徒になってきて、林本人も何処か誇らしげにしているように、ヒロキの目には映った。
コンビニに寄り、週刊マンガ雑誌一冊とコーヒーを買った。自動ドアの前で立ち止まると、入ろうとしてきた女性がいたのでヒロキはドアの隅に寄れた。女性は、白いYシャツを着て鞄を肩から掛けていた。ドアが開いてヒロキは軽く頭を下げた。女性は店に入るなり、口角を上げて同じように会釈してきた。店を出て空を見上げたら、まだ薄明るかった。デジタル時計の数字に目をやると、七時十三分だった。
自宅に向かい、ヒロキは徐に歩を進めた。コンビニ袋を片手に、彼は思いを巡らした。さっきの女性。同じ学校の生徒だった。しかもクラスも同じだ。それだけではない、塾までも同じ日に通っていた。だが、会話は殆んどしたことがなかった。学校で一回か二回、話したことがあったかなという程度の人だ。
自分が変わってきたのは明白だった。今までのヒロキだったら、完全に無視をしていた。頭を軽く下げた時に、あの女子生徒は、会釈をして笑ってくれた。思い返すと、その一瞬の出来事に嬉しい自分が今いた。
駅が近付くにつれ、店の灯りが増えていく。空はいつの間にか、藍色に染まっていた。
そこに、自動車が二台立て続けにヒロキの側を走って行った。
「古村君」
その声は、地面を擦るタイヤの音が混じり掠れていた。自分の名前を呼ばれた気がした。以前だったら、聞こえない振りをしていたかもしれない。
ヒロキは立ち止まり、首を後ろに向けた。上半身が急に強張ばる。肩に力が入ったまま振り返った。
さっきの女子生徒だった。信じられなかった。
彼女はヒロキの前で立ち止まると、少しだけ肩が縦に上下していた。早歩きしてきたからだ。
女子生徒は対面するや否や、クスクス笑い出した。どうやら、余程驚いているヒロキが可笑しいらしい。拳を作り鼻から下が見えないが、ふっ、ふっ、と声を漏らして笑っていた。
それは、自動車がヒロキの側を通過しても、耳に響いていた。
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