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Answer  作者: 釜鍋小加湯
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 朝の小テストでのこと。ヒロキは、渡された用紙が答案用紙と思い、担任に伝えようとしていた。だが、用紙と向き合ううちにこれは答案用紙ではなく、自分の目が可笑しいことに気付く。答えの見える用紙を前に、時間ギリギリになって謎って書いて提出をした。

 ベッドに寝そべり、ヒロキは透明のケースを眺めていた。傾けると、液体は蛍光灯の灯りに反射してキラリと光った。まだ半分以上もある。

 それは、市販で売っている目薬のケースと何ら変わらない大きさだった。ただ、八角形で液体は見た感じでは、ドロッとしている。実際気になり、先ほど人差し指の腹に乗せ親指の腹を重ねてみた。ヌルッとして、指を離したら糸を少しだけ引いた。

 帰宅して直ぐに、ヒロキはいつも通り部屋に籠った。ニヤニヤしていた。自分でも分かるくらいに。二時間経っても、三時間経っても続いていた。今日ほど楽しくて上手くいった日は、これまでなかったというほどの一日だった。

 ベッドから起き上がり、机の椅子に座る。この動作は、帰宅して既に四回目だ。朝行われた小テストの答案用紙を、帰宅して直ぐ机に置いた。それを両手で持って、上に(かざ)す。口元が緩み、笑いが込み上げてくる。堪えても堪えきれない。脇をこちょがられたように、彼は答案用紙を手に、ベッドに勢いよく横たわり笑い転げた。

 名前の書かれた側には、赤ペンで百点と書かれ下線が二本引かれていた。

 帰りのHR(ホームルーム)を不安と期待の入り交じった状態で迎え、担任の曽ヶ端から「古村(ふるむら)、百点満点」と驚いた顔で言われた。教室内でも驚嘆と怒号が飛び交った。尤も驚いたのは自分自身だった。赤点を免れただけでなく、満点だったのだから。有り得るとしたら百かゼロだな、というのがこの時間までに至っていた考えだった。答案用紙を受け取り、席に座り安堵した。その後、肘でこずいてきたり答えを見に来る生徒もいて、普段とは全く違う時間が流れた。

 帰宅早々、今度は母親に見せると、太陽みたいに暖かい顔になって褒めてくれた。「本当によく頑張ったね。やれば出来るものヒロキは」と、何度も喜んでくれた。

 答案用紙を机に置いて、ヒロキはふと思うことがあった。タカフミのやつ、どうしてこれをプレゼントしてくれたのかな。絨毯に胡座をかいて、中断していたアクションゲームを再開させた。彼も、これを使っていたのだろうか。確かに、授業の前とかに目薬をさしていたことは見掛けたことがあった。でもそれは、中学一年の時だから、二年も前の話だ。その時の目薬なのだろうか。

 市販で買った目薬を使ったことは何度もある。一つ買って二年持つというのは、俄に考えづらい。となると、その時の目薬ではないのかもしれないな。半分以上も残っているのだ。違うのだろう。

 複数持っていたのかな。だとしたら、あいつは最強だな。と思いながらも、ヒロキは首を傾げて最後にタカフミに会った日を思い返した。小テストの話をした時、タカフミの得点は六十点だった。自信なさげに言ったのを覚えている。何故これを使わなかったのだろう。高得点でなかったことに、納得していない様子でもあった。

 使い忘れたのか、学校のテスト前に使おうとして家に忘れてきたのか。もしこれで得点を取れていたなら、目薬を常に手放せない状態だったようにも思うのだが。

 タカフミは元々頭が良い。ヒロキは彼に魅力を感じていた。勉強も出来てゲームも上手で、ヒロキに対しても前向きに答え励ましてくれる。自分もそんな風になりたい。

 胡座をかくヒロキの足の側には、八角形の透明なケースがある。コントローラーのスタートボタンを押して、彼はゲームを中断させた。目薬を手にして立ち上がった。ハンガーに掛けてあるブレザーのズボンのポケットに、それを入れた。これがあれば、変われるかもしれない。

 ジュースを取りに行こうと、ヒロキは部屋のドアを開け、家族の寝静まった廊下を歩いた。ニヤけた表情にまた変わっていた。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。感想などありましたら、宜しくお願いします。

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