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中学三年生の男子生徒の話です。
静かな朝の教室で、ペンの走る音だけが聞こえる。その音は、古村ヒロキの耳に向かって、三百六十度から満遍なく囁き続けている。手が動いていないのは、もしかして俺だけなのか。HR後の小テスト。解けたのは十問中二問だけだ。そのうちの一問は、勘に頼った答えだ。だが、この問題は大丈夫だろう。何日か前に、塾で出た問題と酷似しているからだ。もう一問も問題ない。これは、昨日の授業でやったから記憶に残っている。残りはまだ八問ある。それらに関してペン先は、括弧の間で止まったままだ。
長い時計の針が九の数字を過ぎた。後四分しかない。顔を上げ冷めた表情で周囲を見渡すと、既に解き終えたのか、窓越しに外の景色を眺めていたり、指のささくれでも取っている生徒がいた。
視線を落として、ヒロキは改めて問題を読んでみる。間違っていると分かっていながら、何となく閃いた単語を適当に書いて、空欄を一つ一つ埋めていく。まぐれを期待しての回答だ。脳みそは、時間が迫ると決まってこの方法を指示してくる。そうしているうちに、長い時計の針は十の数字に到達した。
「はい、それでは十分経ったので、後ろから順に小テストを集めてきてくれ」
眼鏡をかけた先生の声に、生徒たちは各列一斉に答案用紙を集めていく。
背中をツンツンされたヒロキは徐に振り向く。口角を上げたクラスメイトが、集めてきたものを手渡してきた。
重ねる直前、チラリと見た答えにヒロキは肩を落とした。萎んできた気持ちを顔に出すまいと、彼は口を真一文字にした。答案用紙を重ねて、前に座る生徒の肩を手で軽く叩いた。
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