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エルフ拾います②

 街を裏口からこっそり出て馬車を走らせしばらく。


「そろそろ聞いても?」


「………そうだな、大丈夫だろう」


 フィリアに指示をして脇道に馬車を止める。


「姫様が怪我をされて街に着いたのはクロトは知っているだろう?」


「ええ、瀕死の重傷でしたね」


「ああ、君が居なければ危なかった、本当に感謝している」


「いえ、大したことありませんので」


 軽く受け取り、話の続きを促す。


「……我々は街に来る途中何者かの襲撃を受けた」


「犯人はわからないと?」


「………心当たりはあるが、まだ何とも」


 なるほど、勢力争いか、正直あまり関わりたくないんだけどなぁ。


「あまり関わりたくないって顔だな」


「読心術ですか、レイラさん?」


「いや、顔に出てたよ」


 レイラさんは苦笑いしながら頭を下げた。


「クロトには巻き込んで申し訳ないと思う、だが、どうか力を貸してほしい」


「姫様を守るのは構いませんよ、でも権力争いに関わるのは遠慮します」


 腹の探り遭い、化かし遭いはやりたくない。


「それだけでも充分助かる」


 レイラさんがホッとしたように微笑む。


「はいはい!クロト先生!」


「どうしたナナ?」


 元気に手を上げるナナを見る。


「クロト先生の魔法で直ぐに王都に戻れないの?」


 ナナが首を傾げながら聞いてくる、確かに魔法で王都に行くのは簡単だが。


「それはあまりオススメしないな」


「どうして?」


「賊の黒幕が王都に居るとしたら、直接的に命を狙って要る今のうちにしっぽを掴んだ方がいい、じゃなきゃ今戻っても暗殺とかに切り替わる」


「んー?」


 今の説明じゃ難しいか?


「要するに裏でこそこそされる前に、今のうちに捕まえたいってことな」


「なるほど!」


「しかし捕まえたとして、簡単には分からないのでは?」


「そこはせんの……説得すれば話してくれるさ」


「今、不穏な言葉が……」


「気のせいだ」


 ひとまずネズミを捕まえるため、馬車で王都まで走らせる事に。


「じゃあ探索魔法を使いながら、見張りに立ちます」


 この馬車は普通の帆馬車ではなく、少し豪華な王族用の馬車、屋根はちゃんとした木の作りになっており昇る事ができる、基本的には荷物を乗せる物だが見張り台としても活用できる。


「よっと」


 荷台に昇り探索魔法を最大で展開する、あとは維持し続けるだけ、荷物を少し動かし寝転がるスペースを作る。


「ふあぁ~」


 馬車の揺れが心地よく、直ぐに瞼が重くなる、探索魔法の維持だけなら寝ながらでもできる、ゆっくりと睡魔に従い眠りに落ちる。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 しばらく昼寝兼見張りをしていると。


「んー?」


 探索魔法が何かを捕らえた。


「フィリア停まれ」


「え?あ、はい!」


 フィリアに馬車を停めさせ荷台から降りる。


「どうしたクロト、何か有ったのか?」


 レイラさんが心配そうに聞いてくる。


「少し先にレッサーウルフの群れがいます、様子を見てきた方がいいかと思いまして」


 レッサーウルフ事態はそこまで強くはないが、群れによる狩りは割りとめんどくさい、頭がそこそこ賢く強い相手には向かず力の弱そうな者や馬車を引く馬に向かう、姫様や馬をやられては一大事だから、まだ距離の有るうちに叩きたい。


「クロト先生、僕も行きます」


「私も行く!」


「じゃあレイラさん、ヤイ、ドラフは馬車の守りをお願いします」


「わかった」


 フィリアとナナを連れてレッサーウルフの群れがいる茂みの中へ入る。


「あ、居たよ」


 少し進むと直ぐにレッサーウルフを発見する。


「こんなに近くに居たんですね……」


 およそ馬車から数十メートル目と鼻の先だ。


「……なんで襲って来ないんだろ?」


「それは食事中だからだ」


 探索魔法に引っかかた時から、レッサーウルフは一ヶ所に固まり動いていない、おそらく死肉に群がっているのだろう。


「なに食べてるんだろ?」


「さぁ?獣か何かだろ?」


「クロト先生、今のうちに」


「そうだな、ナナ先制に魔法をぶっ放せ」


「はい!」


 ナナが効果範囲の広い攻撃魔法を放つ。


「フィリアは右、俺は左に行く」


「はい先生」


「ナナはそのまま支援!一匹も逃がすな!馬車を襲われるぞ!」


「は、はい!」


 よしよし、即席のパーティーでも上手く動けるようになったな、レッサーウルフは八匹居たが打ち洩らしはない、探索魔法にも他には引っかからない。


「よし、片付いたな」


「クロト先生、これ見てください!」


 フィリアが慌てて呼ぶので見てみると、レッサーウルフの食べていた物が有った。


「これは……」


「ひっ!」


 ナナが短く悲鳴を上げる、無理もないレッサーウルフの食べていた物は人間の死体だ。


「妙だな」


「はい」


「え?どうして?魔物なら人間を食べても……」


「食べてもおかしくないが、レッサーウルフに襲うだけの力はない」


 死体は冒険者の物、これが村人や商人ならわかるんだが………。


「フィリア!これ見て!」


「……これはリザさんの!?」


 身に付けていた腕輪を見てナナとフィリアが驚く。


「知り合いか?」


「………はい、王都で活動している冒険者です」


「孤児院出身で、この前も孤児院の子供達に御守りのブレスレット貰ったって、喜んでて……」


「それがこれか……」


 俺は嫌な予感がして死体を調べる。


「クロト先生!?」


「ちょ、ちょっと!クロト先生いくらなんでも物取りは……」


「別に何か取るつもりじゃないよ………やっぱり無いな」


「え?」


「ひょっとして、冒険者タグ?」


 冒険者にはそれを証明するタグが配られる、そのタグとカード方の証明書を合わせて初めて冒険者と認められる。


「証明書も無いな」


「えっと、じゃあ依頼の途中で?」


「そんなに弱いのか?」


「いえ、リザさんは金等級冒険者です」


 冒険者には等級という強さを示す指標がある、上から黒曜、白金、金、銀、銅、黒銅、青銅、赤色銅の八段階、リザという冒険者は金等級、上から三番目の実力者だ。


「そんな実力者が簡単にやられると?」


「とてもじゃないけど思えないね」


「それに………」


 俺は死体をひっくり返す。


「死因はこれだろう」


 フィリア達に指を差して見せる。


「これって」


「刀傷、誰かに後ろから切られたんだ」


「いったい誰に……」


「盗賊かもしくは……」


「……仲間ですか?」


「じゃ、じゃあ誰かに殺されて、タグと証明書を持って行かれた?」


 フィリアとナナがゴクリと唾を飲んだ。


「まぁ、それは本人達しか解らないけどな」


 そう言って俺は死体の脚側に回る。


「とりあえず、フィリアそっち持て」


「埋めるんですか?」


「そんな勿体無いことしないよ、いいから持て」


 俺の勿体無いと言う言葉に首を傾げながら、しぶしぶ頭側を持つフィリア。


「あ、やべ、脚取れた、ナナ脚持って来て」


「ひぃ~」


ナナが嫌そうに脚を抱える。


「何だ?知り合いなんだろ?」


「知り合いだからだよ!」


 文句を言いつつ、脚を運ぶナナとフィリアを連れて馬車に戻る。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「お待たせしましたー」


「あぁ、クロト首尾は……」


 警戒のため馬車から出ていたレイラさんが俺達を見て固まる。


「クロト、それは?」


「冒険者の死体です」


「………フィリア説明を」


「は、はい!実は……」


 何故かレイラさんはフィリアに説明を求め、それに答えフィリアが事の経緯を説明する。


「なるほど事情はわかった、それで?その冒険者を埋葬するのか?なら手伝おう」


「いえ、そんな勿体無いことしませんよ」


「なに?」


 あれ?このやり取りさっきもしなかった?


「クロト先生、先ほども言ってましたが……」


 あぁ、さっきはフィリア達に言ったのか。


「クロト?まさかアンデットにするつもりじゃあるまいな?」


「いえ、生き返らせるんですよ?」


 その瞬間時が止まった。


「…………ちょ、ちょっと待て!クロト!」


「あ、動き出した、はい?何でしょう?」


「ひ、人を生き返らせる!?そんな事できるのか!?」


「ええ、できますよ?どちらかと言えばアンデットにする方が難しいです、材料的にね」


 アンデットにするには、鶏の死肉や動物の腐った血なんかが大量に必要で割りとめんどくさい、その点蘇生は聖水があれば簡単にできるので楽だ。


「大声を出してどうしたんですか、レイラ?」


「ひ、姫様……」


「ま、また、クロトくんが何か?」


 若干姫様がびくびくしながら馬車から出てくる。


「まぁ、見て貰った方が早いかな」


 俺はマジックボックスから聖水の入ったビンを取り出し、魔方陣を書く。


「……これでよしと、はーいじゃあ離れてください」


 魔方陣から少し離れてもらい、中心にリザの死体を置き魔法を使う。


『リザレクション!』


 魔法を唱えると、魔法陣が青く光やがて収束していく。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「………」


 光が収まるとそこには、千切れた足処かレッサーウルフに喰われてなくなった腕まで、完全に元通りになったリザが居た、それを見て姫様達は固まっていた。


「……う、うぅん、ここは?」


 どうやら先にリザの方が起き上がったようだ。


「やぁ!おはようお姉さん?」


「子供?」


「自分が誰か分かる?」


「え?ええ、リザ、王都で冒険者をしてる」


 よしよし、記憶の欠落も無さそうだな。


「り、リザさん?本当に生き返ったの?」


「ナナ?あんた、何でここに?それに、生き返ったって……」


 上手く状況を理解できていないリザがハッとなる。


「そ、そうだ、リッド!リッドはどこ!?」


 どうやら自分の状況を思い出したリザが慌て出す。


「落ち着いて下さいリザさん、リッドってあのリッドさんですか?白金の?」


「そうだ!そのリッドだ!わたしはリッドに殺されたんだ!」


 俺以外の全員の顔が強張る。


「そんなに有名な奴なのか?」


 小声でフィリアに聞くと。


「はい、王都ではナンバーワンの冒険者と言われる程の実力者です」


 ほう、そりゃすごい、そんな奴がなぜ仲間殺しを?その疑問に答えたのはリザだった。


「ふん、あいつがナンバーワン?あいつは、あいつはただの詐欺師だよ!実際は薬物や禁術を使ったいかさま野郎さ!」


 なるほど、実力で成り上がったと思われていたら、実はドーピングバンバン使ってたと、しかも悪質な。


「とにかくわたしは王都に行く!」


「あー、ちょい待ち、もう少し詳しく話を聞きたいんだけど?」


「そんな事している時間はない!」


 この焦り様まだ何かあるみたいだな。


「私からもお願い致します、話をお聞かせ下さい」


 ここで、事態を見ていた姫様から声が掛かる。


「あ、貴女は!何故貴女のような方が?」


「それについてもお話しします、だから一度腰を下ろしませんか?」


「……はい」

 

 姫様の求めに応じて、リザは自分に起きた事を語り始める。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 リザが語った内容は俺以外に衝撃をもたらした。


 リッドは違法闇ギルドに所属し、その名声はほぼ作り物、違法ドーピングに始まり、討伐魔物の報告は裏取引で手に入れた部位をギルドに提出、倒した賞金首は闇ギルドの裏切り者などだった。


「果ては孤児院を襲って人身売買に出すそうだ」


「その孤児院って……」


「ああ、わたしが居た孤児院だ」


 ナナが不安そうに聞くとリザが苦々しそうに答える。


「な、なら、急がなくては!」


「わたしが死んでからどれくらいか分かるか?」


「え?いや、それは……」


「俺の見立てでは死後半日から一日って所だと思うよ?」


「……そうか、なら、今頃リッド達は王都に着いているだろうな」


「そんな!じゃあもう……」


 全員が悲壮感に苛まれる、が、うーん、どうしようかな、助けてもいいけど……。


「そう言えばわたしの荷物は?髪が邪魔でしょうがないんだ」


「あ、荷物は何も残って無かったよ、良かったら使って?」


 ナナが予備の髪留めを渡す。


「そうか、なら、わたしの剣も持って行かれたか……」


「うん、確かリザさんの剣って魔法具だったよね」


「ああ、まぁ、今となってはあった所で……」


 おっと、話が変わったぞ。


「魔法具って珍しいのか?どんな剣何だ?」


 興味が出たのでナナに聞いてみる。


「え?えっと、リザさんが持ってたのは、風を操る魔法剣で、かなり珍しい物だよ、ただリザさんぐらいしか扱えないと思うけど」


「ふむ、何故だ?」


「魔力のコントロールが難しいの、リザさんはハーフエルフだから出来るけど」


 言われてリザの方を見ると、後ろに結った美しい銀髪から少し尖った耳が出てきた。


「ハーフエルフ?人間の街に居て迫害されないのか?」


 その言葉に全員がぎょっとする。


「……確かにハーフエルフは以前は迫害されていた、だが、多くの街で亜人種との宥和が進められたんだ」


「へぇー」


「というか、君、子供でも不敬罪で捕まるぞ?」


「へ?」


 リザの不敬罪と言う言葉に間抜けな声を出してしまう。


「ふふふ、仕方ありませんよ、クロトくんは常識はず……ケフン、世間知らずですから」


 姫様今常識外れって言った?まぁ、自覚は有るけど。


「この国は特に、現国王、姫様の御父君に成られてから、不遇奴隷の撤廃、亜人種の差別禁止法など、様々な宥和政策を推進しているんだ」


「お陰様でわたし達は生きやすくなったよ」


「へぇー」


 時代が変われば悪い事もあれば、良いことも有るもんだ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 話が脱線したので元に戻す。


「それで、お姉さんは急いで王都に戻りたいんだよね?」


「ああ、出来ることなら今すぐにな」


「でも、ここからじゃ、まだ一日は掛かるよ?」


「間に合うとするなら……」


 そこで、リザ以外の視線が集まる。


「んー?別に力を貸してもいいよ?」


「みんな正気か?こんな子供に」


 リザが疑わしそうに眉をひそめる。


「まぁ、説明するより実際にやった方が早いでしょ、でもその前に、姫様これを」


 姫様に一枚の札を渡す。


「これは何ですかクロトくん?」


「それは緊急時に使って下さい、額に当てれば俺と念話ができます、良いですか?緊急時に使うんですよ?一回しか使えませんからね?」


「わ、わかりました」


 姫様に念を入れて説明をして、リザに近づく。


「では行きましょうか、準備は良いですか?」


「ああ、と言っても荷物は何もないんだがな」


「いえ、そっちではなく、心の準備です」


「なに?」


『エリアフライ!』


 魔法を使い俺とリザを浮かせる。


「な、これは!?」


「舌かみますよ?」


 浮かせると、王都の方へ"加速する"


 残されたフィリア達は呆然と空を見上げた。


「あ、あの魔法あんなに早く飛べるんだぁ」


「リザさん大丈夫っすかね?振り落とされそうっすよ?」


「クロト先生ならたぶん大丈夫だろう」


「とにかく私達も王都に行こう」


 レイラの言葉に馬車に乗り込む一同、そしてそれを茂みから見る影が複数有ることにまだ気づいていなかった。

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