表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

水問題解決します


 森を吹き飛ばしてから、糸の切れたように進む気力を失ったクロトを連れ、銀の爪四人は野営ポイントに留まっていた。


「大丈夫なんすかね、クロトくん」


「わかんない、あんな魔法見た事ないし、しばらく動けないのかなぁ?」


「しかし、魔法が原因とは思えないのである」


「……よし!」


「え?どこ行くの?フィリア」


「クロトくんに話があるんだ」


「いや、今じゃ無くてもいいんじゃないすか?」


「ダメだ!今じゃないと!」


 フィリアの固く決意した眼差しにそれ以上何も言えないヤイ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


フィリア達から少し離れた場所では、クロトが脱け殻になっていた。


(ダメだ、この世界に生きる意味はない、死のう、あ、俺不老不死だった)


「クロトくん!」


「あ?」


 光のない目を向けるクロト。


「話があるんだ、君はどうしてそんなに強いんだい?」


「………」


「君は誰も知らないような魔法を使い、僕達が苦戦するような魔物を一瞬で倒した、その強さの秘密は?」


「俺は………」


 クロトはぽつりぽつりと自分の身の上話をした、十歳で神童と言われ、十五歳で賢者と呼ばれ、十七歳で不老不死になり、千年研究に明け暮れた事、笑われるだろうと思ったが予想に反してフィリアは真剣に聞いていた。


「……そうか、君は本当に不老不死なんだね」


「あぁ、でも、それももう」


 終わりだ、そう告げようとしたクロトの目に予想だにしないものが飛び込む。


「お願いします!僕達に戦い方を教えてください!」


 フィリアが地面に手と膝を着き、額も地面に着くのではというほど深く頭を下げていた。


「どういうつもりだ?」


「強くなりたいんです、王国所属の冒険者の名に恥じないくらい!」


 聞けば国の所属とは、とても名誉な事だが依頼に失敗すれば推薦してくれた人の名を傷付ける、彼らを推薦したのはエリア様、彼らが依頼に失敗すればエリア様の名を落とす。


「恩のあるエリア様の助けになりたいんです!」


「私達からもお願いします!」


「あっしらも強くなりたいっす!」


「我もである!」


「みんな!?」


「もう、みずくさいよ?いつも一人で決めちゃうんだから」


 銀の爪が揃って頭を下げていた、だが。


「俺がお前達に?ごめんだね、そんな事して何になる」


「クロトくんは研究が好きなんですよね?」


「そうだな、知識欲が強いってよく言われる」


「なら、冒険者を研究すると言うのはどうですか?」


「冒険者を研究?」


「はい、冒険者で自ら一流になるんです!冒険者とはなんのために必要なのか?一流の冒険者とは何なのか?」


「………」


「ほ、他には、人間は何処まで強くなれるのかとか、僕達で実験して見てください」


「………」


「だから、どうか……」


「言っている事はめちゃくちゃだな」


「……すいません」


「でも、そうだな、昔説教された事があるよ、"知識だけ有っても使わなければ意味がない"って」


「それはどんな方なんですか?」


「お前に似ていたよ、真っ直ぐなんだか、無鉄砲で、仲間に相談しないで一人で決めて、でもくそ弱かった」


「まるで、双子みたいによく似てますね」


「自覚はあるんだな?あの時は鼻で笑ってやったが、そうだな、今度はいいかな?誰かと歩む道を見てみるのも」


「じゃ、じゃあ!」


「その代わり、やるからにはスパルタだぞ?」


「は、はい……」


「ど、どうしよう、あの顔お姫様とギルド長に説教してた時と同じ顔だよ」


「あっし、お腹痛くなって来たんで……」


「ヤイ、逃がさないのである、こうなれば一蓮托生なのである」


 フィリア達の顔が引きつっているが、気にしない。


「じゃあ、明日から訓練だ!俺の事は先生と呼ぶように!」


『はい!』


 何や間や言って、四人共やる気はあるらしい。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

翌日から銀の爪の特訓は苦難を極めた。


「ドラフ後ろに下がりすぎだ!盾役が前に出ないでどうする!」


「う、うむ!」


「ヤイは無駄な矢を打ち過ぎだ!当たらなくてもいいから、意味のあるように放て!」


「は、はいっす!」


「ナナ!エンチャントが切れるぞ!生命線なんだからしっかり維持しろ!」


「は、はい~!」


「フィリアは前に出過ぎ!お前の装備で孤立したらタコ殴りに逢うぞ!」


「で、でも!」


「口答えする暇があるなら手動かせボケ!」


 とまあこんな感じに、スパルタでやっているお陰か連携はだいぶ良くなってきた。


「よしよし、だいぶましになってきたな」


「ふぇ~クロト先生鬼だよ、あのかわいいクロトちゃんはどこに?」


「そんなもの元から居ない」


「さすがにきついっす!休憩にしたいっす!」


「………」


「そうだな、ドラフなんて喋る気力すら無さそうだしな」


 休憩にする事を伝えると四人ともその場にへたり込む、こんな体力でよくやってこれたな。


「そうだ、先生少し気になった事があるんですが」


「なんだ?」


「今日は妙に魔物が多い気がするんです、何か悪い事が起こっているのかも知れません」


「あ、フィリアそれ私も思った、襲ってくる数も多いし、狂暴だし!」


「何か調べた方がいいんでやすかね?」


「しかし、その場合我らだけで行って良いものなのだろうか?」


 数の増えた魔物に対し不安を募らせる四人にクロトは。


「あー、必要ない、あれやってるの俺だから」


『え?』


四人の声が重なる。


「魔法で魔物が寄って来るようにしたんだ、その際副作用で魔物が興奮する」


「な、なんでそんなことするの!私達死んじゃったらどうするの!」


「なんでだと?」


 クロトがゆらりと立ち上がる。


「お前達がダメダメだからに決まってんだろうが!」


『ひいっ』


「ナナ!気を付けろって言ったのに、結局エンチャント切れたよな!?そのせいで要らんダメージを盾役が貰うんだぞ!」


「はい、ごめんなさい……」


「ドラフ!盾がびびってどうする!何のためにその図体が入る盾持ってんだ!」


「申し訳ないのである……」


「ヤイ!無駄な矢を打つなって言ったよな?敵が居もしない草むらに打った矢は必要なのか!?」


「うぅ、すいませんっす」


「フィリア!剣しか持って無いのに前に出るな!前に出たいなら盾も持て!あと体力無いのに走り過ぎだ!後半一人でぐったりしてんじゃねぇ!パーティーのリーダーなら周りもよく見ろ!お前が一番ダメってどうゆう事だよ!」


「すいません!先生!」


「何かフィリアだけ多いね」


 何故かフィリアが元気よく返事をして、ナナが呆れる。


「そうゆう訳なんで、早く体に覚え混ませる為にやっていたが、文句あるか?」


 無言で四人は首を横に振る。


「よし、ならこのまま続けるぞ」


『……はい』


 その後休憩を挟みながら日が暮れるまで四人は大量の魔物を倒し続けた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

日が暮れ、夜営中。


「ずいぶん奥まで行くんだな?」


「はい、元々水源は池を利用していて、森の奥まった所なんです」


「なるほど、そこにビッグスライムが居座っていると?」


「もう、すごいんだから!こう池の真ん中にどーんと!」


 ナナが両手一杯に広げるが、小柄な彼女がやると小さく見える。


「そうか、それは、すごいな」


「む、何かバカにされた気がするよ」


「そうだねー」


「むう!」


 ナナが頬を膨らませて抗議する。


「落ち着きましょうよナナさん、どうせクロト先生には勝てないんすから」


「ははは、さて、先生そろそろ休みますか?」


「は?何言ってんだフィリア、そろそろ休憩を終わりますかだろ?」


 笑いながら言うフィリアの言葉を一蹴する。


「え!?ま、まさかこれからまた移動するんですか?」


「えー、幾らなんでもそれは鬼すぎるよ、クロト先生勘弁して~」


「さすがにそこまではしない、これからお前らには座学をしてもらう」


 今のこいつらが夜に魔物の相手をしたら、確実に無事では済まないからな。


「座学ですか?」


「そうだ、お前らには本来必要な物が、多く学ばれていない、なので今から学んでもらう、まずはナナ!」


「は、はい!」


「お前には初級魔法、第1は習得しているようなので、第2、第3階層の魔法を覚えてもらう」


 俺は紙の束を取り出し、ナナに渡していく。


「ちょ、ちょっと待ってクロト先生!束の量もだけど、まずこれは何処からだしてるの?」


「何処って、収納魔法、いわゆるマジックボックスからだな」


「うん、ごめん、私達の知ってるマジックボックスと違う」


「そうっすね、普通マジックボックスって、鞄とかっすもんね」


「それは、エンチャントされてマジックボックスに成ってるだけだな、本来は魔法だ、まぁ今はどうでもいい」


 丸められた紙の束を十枚出し、それをナナが見つめる。


「クロト先生、これなぁに?」


「これはスクロールと言って、読めば魔法を手っ取り早く覚えられ品物だ」


「スクロール!?マジっすか!?」


「え、ヤイ知ってるの?」


「知ってるもなにも、数が少なくってめっちゃ貴重な物っすよ!最低でも一枚10000ニーロはしますよ!」


「10000ニーロ!?金貨百枚分!?それがえっと……」


「全部で十枚有るな」


「……とうことは、金貨千枚分!?そんな物私に持たせてどうするの!」


 ナナが思わぬ所で高級品を持ち動揺する。


「どうするって、使うに決まってるだろ?」


「えー!?もったいないよぉ!」


「いいから、早く読め」


「うぅ、金貨百枚がぁ」


 呻くナナを横目にヤイに向く。


「あのぉ、クロト先生?まさかあっしにも?」


「勿論だ」


「いやいやいや、あっしは魔法は使えないんですよ」


「使えないなら使えるようになれ」


 ヤイに黒い石を投げて渡す。


「まずはそれを持ち続けろ」


「持ち続けるだけっすか?そんなのよゆう…って重!急に重く……」


「その石は魔力を流すと軽くなる性質を持つ、それを最低でも10分間持てれば魔法が使えるようになる」


 同様にフィリアとドラフにも石を渡す。


「正直に言うと、ちょっとした魔法なら誰でも使える、ただお前達の言う高層の魔法は才能のある者しか辿り着けない、それを踏まえてお前達が目指すのは?」


 フィリアが元気よく手を上げる。


「はい!高層を使えるようになる事!」


「不正解、と言うか話し聞いてたか?」


 フィリアが驚きの表情をする、話は聞いていなかったらしい、驚きたいのはこっちだよ。


「いいか、お前らが目指すのはオールラウンダー、平たい話し何でもできる器用貧乏だ」


「何でもできるですか」


「そうだ、せめて初級の魔法くらいできるようになれ」


 マジックボックスから紙の束を再び出す。


「まずはヤイ、お前には付与系の魔法だ」


「付与っすか?」


「矢に魔法を付与して、火矢にするみたいな物だな、そうすれば物理に耐性があっても攻撃できる」


「が、がんばるっす!」


「次はドラフ、お前には強化魔法だ、防御を底上げする物だな」


「う、うむやるのである」


「フィリア、お前には属性魔法、付与魔法、強化魔法全部覚えてもらう」


「はい!頑張ります!」


「一番多いのに何で嬉しそうなのよ……」


 フィリアには最初にナナに渡したスクロールの倍の数を渡している。


「はい、はい、質問!」


「なんだ?ナナ」


 ナナが手を上げる。


「何でフィリアだけこんなに多いんですか?」


「こいつに適正が有るからだ」


「適正?」


「そうだ、今回それぞれの適正に合うようにスクロールを渡した、フィリアはぶっちゃけ全魔法適正がある」


「えぇ!?それって凄いんじゃ……」


「凄いな、今まで何で魔法を学ばなかったのか、理解できないくらい凄いな」


 フィリアの適正を見て頭を抱えたくらいだ。


「恥ずかしながら、田舎の出でして、とても魔法を学ぶようなお金は……」


 なるほど金銭的な問題か、この時代では学ぶのに金が要るのか、ん?という事は……。


「ひょっとして、ナナってお金持ち?」


「ううん、私は孤児で教会に居たんだけど、魔法の才能が有るからって、魔法学院の学園長先生に引き取られたの」


 あー、また複雑そうな話が有るのね。


「んー、とりあえずその話はいいや、なんかめんどくさいから」


「ひどい!」


 ナナが頬を膨らませる。


「という訳で、今日から夜寝るまではそれぞれ座学に勤しめ、あ、見張りは気にしなくていいぞ、結界張るから」


『はい!』


 こうして、夜は更けていく。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

翌朝。


「いやさ、それぞれで勤しめって言ったけど、徹夜しろとは言ってないよね!?」


『……ごめんなさい』


 ある程度指示を出し、先に休む事にした俺はテントで寝たのだが、朝起きてみたら全員が徹夜していた。


「そんな状態で今日大丈夫かよ?ビッグスライムが居るのはすぐそこなんだろ?」


「うぅ、がんばります……」


 フィリアでさえ昨日の元気が無い、本当に大丈夫だろうか?


「とりあえずお前達は、ビッグスライの所まで行ったら待ってろ、俺がすぐに片付けるから」


「そ、それは危険です!」


「危険と思うか?」


「………いいえ、全く」


 じゃあ何で言ったんだよ。


「とにかく、それまでがんばれ」


「……はい」


 ひとまずバカどもに活を入れてビッグスライムの寝床を目指す。


 しばらく歩き開けた場所に出る。


「ここか?」


「はい、この奥にビッグスライムが居ます」


「わかった、ちょっと行ってくるから待ってろ」


「待って下さいクロト先生、やっぱり僕達も着いていきます!ギルドに報告しなきゃいけないし、何より先生の戦いを間近で見たいです!」


 ああ、そう言えば本来フィリア達は道案内兼監視役だっけ?


「まぁ、止めはしないが、そんなに面白くないと思うぞ?」


 たかがビッグスライムだし。


「はい、勉強させて貰います!」


 うん、話し聞いてないね。


「……じゃあ行くか」


 ビッグスライムを探して早く終わらせよ。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「クロト先生、居ました」


 水源に行くとすぐにビッグスライムが見つかった。


「……あれ、何してるのかな?」


 ビッグスライムは上下に嬉しそうに動いている。


「あれは食事中だな、ビッグスライムは基本的に水しか喰わないからな」


「え?でも他の魔物とか動物を溶かしたりするよ?」


「それは有れば食べるくらいだな、好物は水だ、少なくとも俺が知る限り、水だけで百年は軽く生きられる」


「へぇー、クロト先生物知りー」


「昔、飼ってたからな」


「え?」


 近くで起きた干ばつのせいで干からびちゃったけどな。


「さて、じゃあ倒すか」


「クロト先生、本当に大丈夫ですか?」


「まぁ、見てな」


 ビッグスライムにゆっくり近づく、ビッグスライムは基本的に食事中は動かない。


「クロト先生、どうするんすか?」


「んー、とりあえず『サンダー』かな」


「『サンダー』って初級魔法の?」


「ああ、とりあえず『サンダー』百発くらいでいいか」


『え?』


 ビッグスライムの周りに魔方陣を展開する。


『サンダー!』


 魔法を唱えるとビッグスライムを囲む魔方陣が同時に発動する。


ドドドドドッ!


 轟音が辺りに鳴り響き百発のサンダーが放たれる。


「………あ、やり過ぎたな、オーバーキルだ」


 サンダーが止むとビッグスライムは消し飛び、地面にクレーターが出来ていた。


『ええぇ!?』


 フィリア達は驚きの声を上げる。


「いや~、昔はもうちょい強いビッグスライムが居たんだよね、やっぱり魔物も弱くなっているのか?」


「クロト先生!それどころじゃないよ!何今の魔法!?」


「ただの多重展開だよ」


「多重展開!?百発の!?」


「そうだよ、そんなに珍しくないだろ?」


「ええぇ……」


 何はともあれこれで終わりだな。


「さぁ、帰るぞ」


「そ、そうですね、水源も問題無さそうですし、街に戻りましょう」


「その前にここで休憩しようよ!」


「そっすね、一旦休みたいっす」


「うむ、せめて食事にするのである」


「そうだな、クロト先生いいですか?」


 フィリア達は休みたいらしい。


「いや、休みたいなら宿で休め」


「え?」


『ディメンション!』


 魔法を唱えると景色が切り替わる。


『…………』

 

 驚きに固まるフィリア達を置いて街に入る。

 はぁ、やっと終わった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ